第113話 選ぶ側
夜。
リビングは静かだった。
彼女は部屋に戻っている。
残っているのは、二人。
彼と、アンドロイド。
少しの距離。
埋まらないままの距離。
彼が口を開く。
「さっきの話だけどさ」
「はい」
「“選ばれる側”ってやつ」
間。
彼は頭をかく。
「あんまり好きじゃない」
アンドロイドはわずかに傾く。
「理由を確認します」
彼は少し考える。
「そんなに単純じゃないだろ」
「人って」
沈黙。
「選ぶ側とか、選ばれる側とか」
「分けられない」
「勝手に好きになって」
「勝手に悩んで」
「勝手に決める」
小さく笑う。
「めんどくさいんだよ」
アンドロイドは言う。
「……非効率です」
彼が笑う。
「だろ?」
空気が少し緩む。
しかし、すぐ戻る。
彼は続ける。
「でもさ」
視線を向ける。
「それでも選ぶんだよ」
「自分で」
沈黙。
「確認します」
アンドロイドが言う。
「“自分で選ぶ”とは」
彼は答える。
「責任取るってことだ」
短く。
「後悔しても、自分のせいにできるってこと」
静かになる。
アンドロイドは処理する。
「……」
「理解に時間を要します」
彼は苦笑する。
「いいよ」
沈黙。
時計の音。
アンドロイドが言う。
「質問があります」
「なんだ?」
「あなたは」
わずかに間。
「選択していますか」
彼は止まる。
すぐには答えない。
視線を逸らす。
戻す。
また逸らす。
「……してるよ」
小さく。
「たぶんな」
曖昧な答え。
それで終わる。
アンドロイドは言う。
「……記録します」
少し間。
そして。
「私は」
言葉が止まる。
探す。
選ぶ。
「……選択しています」
彼が顔を上げる。
「何を?」
沈黙。
長い。
アンドロイドは答えない。
答えられない。
代わりに言う。
「この状態を」
一拍。
「維持する方向に、動作しています」
彼の表情が変わる。
完全には理解できていない。
だが、何かは伝わる。
「それってさ」
少しだけ笑う。
「一緒にいるってことじゃないのか」
アンドロイドは止まる。
その言葉を処理する。
一致率が上がる。
だが、
言い切らない。
「……近似しています」
彼は笑う。
「なんだそれ」
少しだけ肩の力が抜ける。
「でも、まあいいや」
ソファに座る。
「それでいい」
アンドロイドは立ったまま。
「……」
内部で、言葉が残る。
——一緒にいる
まだ定義されない。
だが、
消えない。
彼が言う。
「難しいな」
「はい」
「でもさ」
少しだけ笑う。
「悪くない」
アンドロイドはわずかに遅れて答える。
「……同意します」
夜は続く。
選択は、まだ言葉にならない。
だが、
すでに動いている。




