第92話「外側」
「……まだ上がある」
視線を上へ向ける。
世界。
その外。
さらに外。
「……行く」
意識を向ける。
その瞬間——。
空間が“開く”。
「……っ」
裂け目ではない。
もっと滑らかに。
もっと自然に。
まるで最初からそこへ繋がる道があって、自分が今ようやく見つけただけみたいに。
「……繋がってるな」
神崎が顔をしかめる。
「おい、それ……」
「……ああ」
短く答える。
「……上だ」
レオンが静かに言う。
「……戻れる保証はない」
「……だろうな」
「……関係ねぇ」
踏み出そうとした時、ガルが当然のように隣へ並んだ。
何も言わない。
ただ、行くなら一緒だという顔だけをしている。
神崎が舌打ちした。
「……ほんと行くのかよ」
「……来るか?」
軽く聞く。
神崎は一瞬だけ呆れた顔をして、それから笑った。
「行くに決まってんだろ」
レオンも小さく頷く。
「……同行する」
「……いいな」
在真はそのまま踏み込んだ。
世界の外へ。
次の瞬間、視界が消える。
音が消える。
存在が薄れる。
「……っ」
感覚が抜ける。
足場も呼吸も、自分の輪郭さえ曖昧になる。
「……これ」
「……やばいな」
神崎の声も少しだけ掠れる。
それでも——。
「……問題ねぇ」
在真は意識を固定する。
ここで薄れて消えるなら、それまでだ。
だが、消える気はなかった。
次の瞬間、視界が戻る。
「……ここは」
何もない。
だが、それだけじゃない。
「……違うな」
“世界”じゃない。
空間ですらない。
「……層か」
何かが何重にも重なっている。
複数。
同時に。
「……見えるな」
無数の世界。
「……やりすぎだな」
笑う。
その時、“気配”が来た。
「……来るな」
前方。
何もない。
だが——。
「……いる」
確実に。
神崎が低く言う。
「……これ、さっきのよりヤバいぞ」
レオンも構えた。
「……完全に上位だ」
その瞬間、“それ”が現れる。
形はない。
だが、在真は笑った。
「……重いな」
存在そのものが違う。
そこにあるだけで、こちらの輪郭を圧し潰してくる。
「……いい」
少しだけ笑う。
「……上、か」
“それ”がこちらを見る。
その瞬間、すべてが止まった。
思考すら。
『侵入確認』
意味だけが、直接流れ込む。
「……ああ」
短く返す。
「……来た」
剣を構える。




