第91話「資格」
『資格取得』
音はない。
だが、その言葉が落ちた瞬間、確実に何かが“変わる”。
「……っ」
感覚。
視界。
認識の幅。
全部が一度に押し広げられる。
「……見えるな」
世界。
いや——。
「……構造か」
空間の裏側。
流れ。
繋がり。
今までただ存在しているとしか思っていなかったものの骨組みが、薄く透けて見えた。
「……全部見える」
“それ”が静かに立つ。
『認識更新完了』
「……そうか」
軽く息を吐く。
今までとの違いが、言葉にするより先に体へ馴染んでいく。
「……分かったな」
『干渉可能範囲解放』
その瞬間、世界が“開く”。
基地。
都市。
ダンジョン。
遠く離れているはずのものが、距離を失って同時に視界へ入ってくる。
「……やりすぎだな」
少し笑う。
「……全部触れる」
“それ”が続ける。
『制限あり』
「……だろうな」
その時だった。
広がった視界の中に、ひとつだけ明らかな違和感が走る。
「……なんだ」
一点。
世界の外。
さらに外。
今触れられる範囲より、もう一段遠い場所。
「……まだ上があるな」
“それ”がわずかに反応した。
『未到達領域』
「ああ」
「……行く」
迷いはない。
“それ”が最後に告げる。
『危険度:極大』
「……いい」
少しだけ笑う。
「……関係ねぇ」
視線を上へ向ける。
世界の外。
さらに外。
「……次だな」
その時、視界が戻った。
現実。
基地。
神崎とレオン。
「……戻ったか」
人の声が一気に戻ってくる。
だが、少し遠い。
神崎がすぐ駆け寄る。
「おい、大丈夫か!」
「……問題ねぇ」
レオンが静かにこちらを見る。
「……変わったな」
「……ああ」
短く返す。
「……見える」
世界の裏。
構造。
繋がり。
全部。
神崎が苦笑する。
「……もう人じゃねぇな」
「……どうだろうな」
少しだけ笑う。
「……まだ上がある」




