第90話「同格」
「……ここからだ」
踏み込む。
重力。
時間。
空間。
判定領域の中で使われる理屈が、今度は全部同時に変わる。
「……全部来るな」
“それ”が動く。
見えない。
だが、もうそれは欠点じゃなかった。
「……分かる」
未来視。
感覚。
その全部をまとめて使う。
回避。
——ドンッ。
衝撃が遅れて来る。
今度はさらに深い。
時間がずれているだけじゃなく、存在の乗り方そのものが違う。
「……合わせる」
ズレに。
時間に。
向こうが基準にしているルール、その縁に。
「……そこだ」
踏み込む。
「——斬る!」
——ガキンッ!!
深い衝突。
前より明らかに手応えが違う。
「……入るな」
“それ”が初めて大きく揺れた。
『……異常増大』
「……だろうな」
在真は笑う。
「……届いてる」
その瞬間、“それ”の気配が変わった。
さらに上。
判定の段階を、もう一枚剥がしてくるような冷たさ。
「……来るぞ」
次の瞬間、空間が完全に消えた。
「……っ?」
何もない。
完全な無。
だが、それでも“それ”と自分が向き合っていることだけは分かる。
「……存在だけか」
残っているのは、そこに在るという事実だけ。
“それ”が告げる。
『最終判定』
「……気味悪いな」
笑う。
「……やるだけだ」
踏み込む。
だが、距離がない。
位置もない。
前へ出るという表現すら、もう半分くらい間違っている。
「……形がねぇな」
「……なら」
剣を構える。
「……こっちも、きれいには収まらねぇ」
領域を広げる。
さらに上へ。
幸運。
空間。
時間。
ここまで自分の中へ積んできたもの全部を、切り分けずに重ねる。
勝つためじゃない。向こうの判定にきれいに収まらない形を作るために。
「……混ぜる」
「——斬る!」
——ガキィィィンッ!!
完全な衝突。
何もないはずの場所で、世界が一度だけ震えた気がした。
「……ずれたな」
“それ”が止まる。
一瞬。
『……同格認定』
静寂。
「……そうか」
息を吐く。
「……通っただけだな」
“それ”がわずかに頷く。
『排除中止』
その瞬間、空間が戻った。
重さ。
音。
判定領域の硬い静けさが少しずつほどけていく。
「……終わりか」
“それ”が言う。
『資格取得』
「……資格か」
少しだけ笑う。
「……まだ人間側に戻れるか、怪しいな」




