第九十七話 戦獣
西門へ入ると鉄槌が一度鳴り、一頭目のアイアンボアが頭を下げた。二度目の音で、立体駐車場の出口にいた二頭目が左へ回る。
「音で分けてる」
鎖の中央にいる前衛長を見る。ほかのオーガより一回り大きい。胸まで黒鉄の鎧を着け、右手に二本の鎖、左手に短い鉄槌を持っていた。
「ガル、右を見ろ」
一頭目が来た。
道路を切らず、噴水広場へ走る。黒鉄の角が停車した配送車へ刺さり、車体を半分持ち上げた。
側面へ刃を入れる。
白い線しか残らない。
前脚の付け根だけ、鉄板の重なりが薄い。
鉄槌が二度鳴った。
二頭目が背後から来る。前後の突進線が重なる前に噴水跡へ入った。左腿が引かれ、着地を右へ逃がす。
二本の角が噴水の縁を挟んで擦れ、石が割れた。
前衛長へ向かう。
鎖を切れば二頭を分けられる。
前衛長は待っていた。鉄槌を横へ振る。身体を沈め、鎖へ刃を当てた。
黒い火花だけが飛ぶ。
鎖にも黒鉄が通っている。
前衛長が手首を引く。二頭の首が同時にこちらを向いた。
鎖ではなく、首輪との接続を見る。
輪の内側だけ黒い膜が薄い。
ガルが一頭目の横を走った。戦獣が追う。前衛長が鉄槌を一度鳴らし、進路を変えさせようとした。
ガルは音の前に道を捨て、立体駐車場側へ折れる。
一頭目の首輪が引かれ、接続輪が露出した。
そこへ刃を入れる。
鎖を切らず、内側の膜だけを裂く。接続輪が外れ、一頭目は音ではなく目の前のガルだけを追った。
二頭目と前衛長が俺へ来る。
戦獣の突進を鎖の外へ誘う。
鎖が張り、前衛長の身体が半歩引かれた。
先に二頭目の前脚へ回る。鉄板の隙間へ細い水を通し、泥と血を押し出す。腱が動く場所だけ膜が伸びた。
同じ隙間へ一撃、二撃と重ねると前脚が沈み、鼻先が道路へ擦れた。首輪の内側へ刀を入れ、喉の核を割る。
前衛長が鎖を捨て、鉄槌を両手で持った。
振り下ろし。
右へ流し切れず、風圧が左肩へ当たる。道路へ転がった。
立つ前にガルが吠える。
「鎖へ」
ガルが捨てられた鎖を噛んで引く。倒した戦獣の首輪につながったままの鎖が、前衛長の足へ巻きついた。
鉄槌を振り下ろす足がずれる。
胸鎧の継ぎ目へ刃を入れた。
浅い。
肘で払われても離れず、同じ傷へもう一度入れる。胸核へ届き、鎧の内側で硬いものが割れた。
前衛長が膝をつく。
音のなくなった一頭目が戻ってきた。
ガルが左へ走り、俺は右へ分かれた。戦獣の頭が一瞬迷った隙に前脚の継ぎ目へ入り、片脚を切る。巨体が傾いたところをガルが首輪から引いた。
露出した喉の核へ刀を通す。
広場から音が消えた。
配送車は横倒しになり、道路には蹄の溝が残っている。救助路の中央は空いていた。
旧図書館前では、黒根の柵をオーク四体が守っていた。
戦獣を倒した音で二体が西門へ出てくる。ガルが一体を押さえ、もう一体を俺が切る。残る二体は人のいる柵から離れない。
「中の人、伏せろ!」
丸太の隙間で人影が沈む。
刀を鞘へ戻し、オークの槍を柄ごとつかむ。横へ引いて柵から離し、喉へ肘を入れた。倒れた胸核だけを切る。
最後の一体は救助隊の盾が受けた。
柵を背にさせず、道路へ押し出す。俺が首へ届くまで、盾は外れなかった。
黒根の六節を切る。丸太を崩さず地面へ寝かせる。
中には十一人いた。暗い床に九人が自分で立ち、二人は足首と脇腹を押さえて壁へ寄っていた。柵が開いてもすぐには誰も動かず、救助隊の腕章を見てから、ようやく一人が息を吐いた。
救助隊へ渡し、西門へ戻る。
黒壁の向こうで、バルガンが王棍を持ち上げていた。
三泥井戸から来る脈が、その傷のない鎧へ集まっている。
西門を守る前衛は消えた。
王が、初めてこちらへ歩き出した。




