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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第6章「上位存在」

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第89話「判定」

 『排除判定開始』


 静寂。


 何もない空間。


 音もない。


 重さもない。


 前後左右の意味すら薄い。

 立っている感覚だけが、かろうじて自分の中に残っていた。

 少しでも気を抜くと、その感覚ごとほどけそうだった。


 「……完全に切り離されたな」


 周囲を見る。


 だが、見るという行為自体にあまり意味がない。


 「……意味ねぇな」


 空間そのものが存在しない。

 立っているという感覚だけを、自分で辛うじて維持している。


 「……ここは」


 「……場じゃない」


 その瞬間、“それ”が動いた。


 だが——。


 「……見えねぇ」


 動きがない。


 変化も見えない。


 それでも、体の奥だけが先に反応した。


 「……来てる」


 回避。


 だが、その時点では何も起こらない。


 「……遅い?」


 違う。


 次の瞬間。


 ——ドンッ。


 遅れて衝撃が来た。

 何もないはずの場所で、骨の内側だけがあとから殴られる。

 順番をずらされるのが気味悪い。


 「……時間ズレか」


 「……殴るより先に、消されるほうが面倒だな」


 流れ。


 ズレ。


 何もない空間の中で、ひとつだけ異物のように浮くタイミングがある。


 「……判定より先に動く」


 踏み込む。


 「——斬る!」


 ——スッ。


 当たらない。


 刃は空を切った。


 「……噛み合ってねぇな」


 “それ”がわずかに揺れる。


 『適応確認』


 「……だろうな」


 在真は笑う。


 「……じゃあ、外れる」


 踏み込む。


 時間のズレに合わせる。


 ほんの少し前。


 未来視で拾った断片へ、今の自分を重ねる。

 向こうの順番に入るんじゃない。判定の枠から半歩だけ外れたまま触りに行く。


 「……今だ」


 剣を振る。


 ——ガキンッ。


 初めての衝突。


 乾いた手応えが、何もない空間に確かに残った。


 「……乗らなかったな」


 “それ”が止まる。


 一瞬だけ。


 『異常』


 その言葉と同時に、領域の質が変わる。


 「……次か」


 今度は“重さ”が戻った。

 だが普通の重力じゃない。

 骨の内側にまで沈み込んでくるような、異常に濃い圧だった。

 肩も膝も重いのに、それ以上に名前のついた自分が沈んでいく感じが嫌だった。


 「……重すぎるな」


 体が沈む。


 それでも膝はつかない。


 「……変えてくるな」


 “それ”がこちらを見る。


 『排除継続』


 「……鬱陶しい」


 少し笑う。


 「……まだ落としきれねぇだろ」


 踏み込む。


 重さの中。


 筋肉じゃなく、存在の輪郭ごと押し上げる感覚で前へ出る。

 普通に踏ん張っているのに、別の場所で自分を持ち上げ直している感じがした。


 「……動けるな」


 問題ない。


 「——斬る!」


 ——ガキンッ!!


 再び衝突。


 今度は深い。


 さっきより確かに届いている。


 「……通るな」


 “それ”が初めて、わずかに下がった。

 倒したわけじゃない。

 こっちを、排除するだけの対象ではなく見直しただけだ。

 勝った感触じゃない。

 ようやく判定の外へ片足だけ出せた感じが残る。


 静寂。


 『……上昇確認』


 その言葉に、在真は短く息を吐く。


 「……ああ」


 少しだけ笑う。


 「……まだ入口だな」

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