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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第六章 東浜解放

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第九十話 戻らない人数

 救護所の入口で、十二人の名前がもう一度読み上げられた。


 一人ずつ返事をする。声の大きさは違い、名前を呼ばれてから肩を揺すられるまで目を開けない人もいた。それでも十二番目まで返事が続いた。


 発熱した従業員と子供は先に病院へ。足を捻った女性と脱水の強い男性も、同じ車両へ乗せられた。残る八人は毛布を肩へ掛け、長机の前に座っている。


 江崎だけが立っていた。


 住所を書く欄で手が止まっている。


「そこ、今夜帰れる場所じゃなくてもいいんですか」


「住所は元のもので。避難先は下です」


 職員が別の欄を指した。


 江崎は店の住所を書き、避難先へ市外体育館と記す。家族の連絡先には、同じ番号を二度書いてから消した。


「つながらないんです」


「最後に連絡できた時刻だけで大丈夫です」


 隣の机では、文具店の女性が病院の用紙を見ていた。


「夫じゃなくても、ここに書けますか」


「はい。指定連絡人なので、ご本人が選んだ方で構いません。面会を許可する方も、別に書けます」


「妹と、店の人を」


「二人とも書いてください」


 職員は制度の説明を始めず、記入欄を二つ開けた。


 女性が電話番号を思い出せず、江崎が自分の端末の連絡先を見せる。二人の指が同じ画面を何度も上下した。


 救助した人数は十二人。


 その十二人の用紙には、連絡のつかない名前がもっと多く並んでいた。


「大月さん、脚を見せてください」


 医療班に呼ばれる。


「痛みは増えてない」


「痛みじゃなくて、傷を見ます」


 固定布を外される。傷の縁は閉じているが、周囲が赤く腫れていた。


「今日は終わりです」


「救助経路の引き渡しだけ」


「もう終わってます。経路班が残っています」


 反論する前に、ガルが横へ伏せた。肩帯を外され、右肩へ手を当てられている。走ったあとの熱が残っていた。


 俺だけ続けるとは言えなかった。


 椅子へ座り、救助隊の最終報告を見る。


 地下区画、十二人、全員救出。


 歩行困難二。発熱一。中等度脱水三。重篤なし。


 その下に、家族所在確認中が七件。


 住居立入不可が九件。


 店舗立入不可が二件。


 数字を見ていると、江崎が紙箱を抱えて前を通った。中にはエプロンと店の鍵、二十二日分の記録を折った紙が入っている。


「店は」


 聞くと、江崎は足を止めた。


「立入禁止です。救助の道に使うから、シャッターも閉められないって」


「壁と水道は切ってない」


「見ました」


 江崎はそこで少し迷った。


「ありがとうございます、でいいんでしょうか」


「分からない」


「私も分かりません」


 それだけ言い、江崎は紙箱を抱え直して搬送バスへ向かった。箱の隙間から出たエプロンの紐が揺れていたが、地面へ落ちる前に自分で押し込んだ。


 救助報告には全員生存と書かれ、その横で江崎の用紙には立入不可が二つ増えていた。どちらも間違いではなかった。


 端末の地図を開く。


 装備店まで延びた白線は残っていた。その周りには、まだ連絡のない建物がいくつもある。


 王城へ向かう線は、昨日から進んでいない。


 今日は進めない。


 代わりに、十二人の名前が行方不明者一覧から外された。


 一行ずつ消えたあとにも、三百の手前まで数字が残っていた。消えた十二行の空白も、画面を閉じるまではそのまま残っていた。

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