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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第六章 東浜解放

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第八十八話 地下の十二人

 黒い根は、壁とシャッターを一緒に固めていた。


 右に電気配管、左に給水管。中央の枠を残し、脈打つ節を四つ切る。


 根が力を失ったところへ、救助隊員が手動巻き上げ機を掛けた。


 シャッターが少しずつ上がる。


 最初は人一人ぶん。中を確認し、担架を通すためにもう一段上げる。北回りで測った幅と同じところで止めた。


 店内は荒れていた。


 棚が倒れ、床には割れた瓶と黒い泥が広がっている。冷蔵ケースのガラスも砕け、値札のついた箱が踏まれたまま残っていた。


 ガルは棚を越え、店の奥へ進む。


 床扉があるはずの場所に、商品棚と黒根が重なっている。人の匂いは、その下から上がっていた。


「ここだ」


 救助隊が棚を一つずつ動かす。俺は床板へ刃を入れず、黒根の節だけを切った。


 最後の棚を退けると、鋼の扉が出た。


 内側から鍵が掛かっている。


 ガルが扉へ鼻をつけ、爪で一度だけ床を掻いた。俺は扉を三回叩く。


 返事はない。外の銃声が壁を伝い、店の床へ置いた救助用ボンベがわずかに震えた。


 耳をつけると、低い換気扇の音がした。もう一度、間を空けて三回。


 内側から一回。


 少し間があり、二回。


「救助に来た。聞こえるか」


 扉脇の細い空気穴へ声を入れる。


『聞こえます』


 掠れていたが、人の声だった。


「中に何人いる」


『十二人です』


「全員、生きてるか」


 答えまで少し間があり、穴の向こうで誰かの咳と、宥める声が重なった。


『生きています。歩けない人が二人。熱が一人。子供は起きています』


 救助隊員が人数と状態を書き取りながら、担架二台と小児用の防護面へ順に印をつけた。


「いつから」


『七月十八日から』


 二十二日。


「名前は」


『江崎美和。店の者です』


「水と食べ物は残ってるか。換気は」


『水槽と浄水器があります。食事は一日二回。換気は二本です。非常電源は、弱くして……まだ動いています』


「残りは」


『食べ物はあと六日。水はもう少しあります。熱の薬は二回分。電源は……どこまで持つか、分かりません』


 隊長が指で搬送順を示す。


 防護面を先に中へ渡す。歩けない二人は担架。発熱者と子供を医療班へ先行させる。残る人間も二十二日間、外気へ出ていない。階段で急がせない。


『大月さん』


 別回線で東條が呼んだ。


『王城側の観測路が開きました。予定線へ戻るなら今です』


 地図には、ここから南へ抜ける細い線が出ていた。


 鋼の扉へ手を置く。内側で換気扇が弱く回っている。


「今日は戻らない。十二人を出す」


『分かりました。南線は閉じます』


 救助隊が扉前へ酸素と水を並べる。外では神崎隊が交差点側の魔物を押し戻していた。


「江崎さん」


『はい』


「今から開ける。急に上がらず、言われた順に動いてくれ」


『分かりました』


 内側で鍵が一度回った。


 途中で止まり、金属が擦れる。もう一度、重い音がした。


 扉が内側へ開く。


 地下から上がった空気は、汗と消毒剤と、長く閉じた部屋の臭いがした。


 最初に出てきた女性は、明るさへ目を細めながらも階段を上ろうとしなかった。


「江崎です。人数を先に」


「こっちでも数える。中へ戻って案内できるか」


「できます」


 声は震えていた。けれど、階段の下へ向き直った時だけは、閉じ込められていた全員を数え直す声になった。


 防護面を渡し、歩けない二人から担架で上げる。次に発熱した人と子供。担架はシャッターを抜け、北回りの白線へ乗った。


 一人。


 二人。


 外へ出るたび、救助隊が名前を照合する。


 最後に江崎が階段を上がった。


「十二人」


 隊長の確認に、江崎が自分を指してうなずく。


「全員です」


 王城へ向かう線は一つ閉じたままだった。


 代わりに、十二人が通るための白い道が残った。

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