第81話「深層」
世界序列1位になったあとも、基地は妙に静かだった。
祝福も興奮も長くは続かない。
「……行くぞ」
在真の一言で、準備はそれ以上要らなかった。
神崎もレオンも、止める気は最初からない。
ガルも当然のように足元へ並ぶ。
基地の外れ。
封鎖された広い区画。
「……また変なもんだな」
神崎が顔をしかめる。
「前のより静かだ」
レオンが言う。
「……静かすぎる。だからこそ深い」
在真はその歪みの前に立つ。
「……行く」
踏み出す。
次の瞬間、視界が変わる。
暗い。
「……ここか」
地面はある。
空間もある。
だが、そのどちらも安定していない。
足を乗せた感触が、半拍遅れて返ってくる。
踏んだはずなのに、まだ踏み切れていない気持ち悪さが残った。
神崎が周囲を見回す。
「……境界外より気持ち悪ぃな」
レオンが短く答える。
「……深層だ」
「……管理側に近い」
在真は少しだけ笑った。
その時、遠くで空気が揺れた。
風じゃない。
何かがこちらを認識した時の揺れだった。
「……来るな」
影のようなもの。
だが、影と呼ぶには輪郭が濃すぎる。
「……さっそくか」
視界の端で、一瞬だけ自分の手の輪郭が薄くなった。
すぐ戻る。
だが、あまり長くいたくない場所だとはそれで十分だった。
神崎が拳を鳴らす。
けれど、音が妙に小さい。
この場所そのものが、鳴るはずのものを削っている。
在真は剣を抜いた。
「……静かすぎるな」
「……抜けるぞ」




