第八十七話 最短ではない道
装備店までの最短線は、排水路の真上を東へ抜ける道だった。
距離は四百二十メートル。
ただし、アーケードの屋根が二か所で落ち、路面の下には空洞反応がある。人一人なら瓦礫を越えられても、担架は通らない。
北へ回る線は七百八十メートル。
途中の交差点にオークが四体、放置車両が三台。道幅はあり、車両を寄せれば担架と酸素ボンベを運べる。
『南からなら、王城の観測線とつなげられる』
地図に三本目が出る。距離は六百メートル。いちばん先へ進める線だった。
「救助の帰りは」
『地下街入口の階段を通る。搬送確認は取れてない』
「使わない」
王城へ近づける利点を閉じ、北回りへ印を移す。
『遠くなるよ』
「担架が通れる」
『うん。私もそっちがいい』
千景が北線を白い破線へ変えた。
三十七分後、救助隊六人と経路確認班二人が到着した。走ってきた隊員の防護服は肩まで汗で色が変わっている。防護面は十二枚、そのうち一枚は小児用。折り畳み担架二台、酸素三本、水、発熱と脱水用の薬が路上へ手早く分けられた。
「中の人数は分かっていません」
救助隊長が装備を確認しながら言う。
「匂いは複数。発電機らしい周期があります」
「地上階から入ります。戦闘は前へ渡してください」
『北側から五分で入る』
神崎の声が別回線から入った。
『大月、刀を振るのは入口だけにしろ』
「分かってる」
北回りの道へ入る。距離が増えたぶん、背後では酸素ボンベと担架の金具が歩調のたびに鳴った。その音が途切れていないか、角を曲がるごとに振り返る。
最初の交差点にいたオークは、神崎隊が正面から音を出して引きつけた。俺とガルは放置車両の陰を通り、道路中央に残る黒い補給印だけを切る。
動かなくなった路線バスが道を半分塞いでいた。
横転させれば早い。
救助車両の幅を測り、窓を割って解除装置へ手を入れる。後輪が固まっていたため、牽引用の索を二本掛けた。
俺が引くのではなく、後方車両へ渡す。
ゆっくりとバスが寄り、道路の右側に三メートルの隙間ができた。
救助隊が担架を広げたまま通れるか確かめる。一度目は壁へ当たり、持ち手を短く固定して通し直した。
白い札が一枚進む。
旧商店街の入口では、落ちたアーケードが道を塞いでいた。看板の裏から割れた蛍光管が突き出し、通れそうな隙間も担架を傾けなければ抜けない。下を潜る案を捨てて駐車場を横切り、ガルが先に回って人の新しい匂いがないことを確かめた。
日は傾いていた。
装備店の看板が見えるころには、王城へ向かう観測線は南側で先へ進んでいる。それでも、こちらの白線は止めなかった。
シャッターの前にゴブリンが六体。奥の交差点にはオークが一体いる。
神崎隊が北側から銃床で柵を叩いた。
音へ四体とオークが向く。残った二体は救助隊の盾が受け止めた。
俺とガルは戦列へ入らず、装備店の横へ回る。
黒い根が、壁とシャッターを一緒に固めている。右には電気配管、左には給水管。
中央の枠を残し、根の節だけを切れば、人一人ぶんは開けられる。
救助隊の担架を振り返る。
「先に人が通れる幅を作る。そのあと、担架ぶん広げる」
ここまで遠回りした道を、最後の一枚の壁で狭くするわけにはいかなかった。




