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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第六章 東浜解放

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第八十四話 補給路

 翌朝、左腿に針を刺すような痛みはなかった。


 熱だけが傷の周りに残っている。医療班は画像と腫れを見て、今日は一区画まで、と言った。


 八月八日、午前七時十分。


 昨日の集合住宅まで白い札が続き、その手前に救助隊の仮設幕が増えていた。湯気の出る紙コップと泥のついた担架が幕の下へ並ぶ。止めた巣の根は柱へ巻きついたまま黒から灰色へ変わり、構造班が根を外す前に細い支柱を追加していた。


 倒したから消えるわけではない。


『補給列、接近』


 高架道路の下を見る。


 港側から三台の荷車が来ていた。押しているオークが六体。前後には槍を持った個体が二体ずつ、荷台と高架の階段にはゴブリンが九体いる。


 積荷は袋、黒い鉱石、乾燥した肉。最後の荷車には灰色の卵嚢らしいものが積まれていた。


『高架脚へ近づけないで。北側の二脚は地震後判定が終わってない』


 千景の声が入る。


「道路も残す」


 荷車の車輪を見る。木材と車の廃材を組み合わせ、中央へ黒い補給印が打たれていた。同じ印が路面にもある。


 荷車が印を踏むたび、沈んだ車軸がわずかに浮く。


「ガル、後ろへ」


 俺は列の前へ回る。


 先頭の補給印へ、刀の切っ先を入れた。黒い線だけが切れ、前輪が急に沈む。車軸が折れ、後ろの二台が止まれずにぶつかった。


 オークの列が狭い高架下で重なる。


 前の槍二体が来た。


 一体目の穂先を外へ流し、柄の内側へ入る。脇腹と首を二撃で切ると、二体目がその身体ごと払うように槍を横へ振った。


 しゃがまず、左腿へ体重を残さないよう後ろへ半歩。穂先が胸の前を通ったところで石突きを踏み、手首を切る。


 ガルが荷車の後ろで吠えた。後衛のオーク二体が振り返る。


 荷車を押していた六体が、前と後ろへ分かれた。上から矢が落ちてくる。風を高架へ沿わせ、軌道だけを右へずらす。


 矢がコンクリートへ当たり、乾いた音が続いた。


 ガルは後ろの一体へ噛みつき、荷車の陰へ引く。もう一体が追う。


 俺へ来た三体のうち、一体の膝裏を切る。二体目の胸核。三体目の斧は受けず、荷車へ刺させた。


 抜こうとした首へ刃を通す。


 残る三体は荷車を立て直そうとしていた。車軸を切ればまとめて倒せる。


 だが、横倒しにすれば道路を塞ぐ。後ろから来る救助車両も通れない。


 補給印だけを切る。二台目、三台目と黒い線を断つたび、荷車は傾かずに重さだけを取り戻した。


 浮いていた力が消え、荷台がその場へ沈んだ。積荷は落とさず、オークだけが押し潰された車輪から手を放す。


『南から外周班が入る。ゴブリンはこっちで取る』


 神崎の声がした。


「任せる」


 残ったオークが積荷を捨てて東へ逃げる。ガルが一体を倒し、二体目へ向かおうとして俺を見た。


「追わなくていい。道を探せ」


 ガルは路面の黒い印へ鼻をつけた。


 逃げた二体ではなく、荷車が来た場所へ向き直る。


 後方の処理を神崎隊へ渡し、補給印をたどった。道は、廃車の並ぶバス車庫へ続いている。


 途中で救助車両とすれ違った。車内には酸素ボンベと空の担架が見え、運転手がこちらへ片手を上げて、そのまま白い札の先へ走っていく。


 さっき荷車を横倒しにしていれば、ここまで来られなかった。


 車庫の屋根の下には灰色の膜が張られ、床へ卵嚢が並んでいる。中で小さな影が動いた。


 補給路を切っただけでは、もう生まれ始めているものは止まらない。


 入口へ白い札を置く。


 次に止める場所は、その奥にあった。

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