第79話「頂点」
「——踏み切る!」
踏み込む。
最後の距離。
「……関係ねぇ」
在真は剣を振る。
全力。
火。
風。
水。
土。
さらに——。
領域。
「……全部乗せる」
「——斬る!」
——バキィィィィィッ!!
止まる。
だが——。
「……押す」
在真はさらに力を込めた。
「……まだだ!」
1位も押し返す。
拮抗。
火花が散る。
だが、その散り方まで半拍遅れて見えた。
ここでは何もかもが遅い。
遅いくせに、置いていかれる。
在真はその感触の中で笑った。
「……ここだ」
「……これだ」
さらに一歩。
踏み込む。
「……越える」
その瞬間、わずかに1位の剣筋がズレた。
ほんのわずかだった。
だが、そのわずかだけで十分だった。
入れる隙間が、ようやく人間の感覚まで落ちてくる。
「……入った」
そのまま——。
斬る。
——バキン。
1位の剣が弾かれる。
静寂。
勝った、という感じは薄かった。
ただ、張りついていた何かを一枚抜いた感触だけが残る。
1位が一歩下がる。
「……勝負ありだな」
小さく笑う。
「……俺の領域を越えた」
「……負けだ」
悔しさより、妙な納得を含んだ声だった。
負けたというより、通されたと認める声に近い。
静まり返る。
誰もすぐには動けない。
神崎が呟く。
「……マジかよ」
安堵より先に、ぞっとした顔だった。
人間のまま見ていられる線を、少し越えたものを見る顔だ。
レオンが静かに目を閉じた。
「……決まったな」
ウィンドウが開く。
【世界序列更新】
【1位:大月 在真】
【2位:——】
【3位:——】
静寂。
歓声は少し遅れて来た。
遅れて来たせいで、自分に向けられたものだという感じも薄い。
遠くの別の場所で鳴っているみたいだった。
「……上がったな」
在真は軽く呟く。
剣を下ろす。
「……抜いたな」
1位だった男がこちらを見る。
「……上に来たな」
「……ああ」
短く返す。
相手の顔は近い。
だが、さっきまで張っていた距離の膜だけがまだ残っている。
勝ったあとでも、完全には普通の地面へ戻れていなかった。
すると男が言う。
「……ここからだ」
在真も頷く。
「……分かってる」
視線を上へ向ける。
空。
何もない。
何もないはずなのに、もうその奥を探している自分がいる。
終わったと息を吐く感じが、少しだけ薄い。
「……まだあるな」
その確信だけは、もう揺がない。
上へ向けた視線のほうが自然だった。
下へ戻る感覚は、さっきより少しだけ遠い。
少しだけ笑う。
「……いい」




