第78話「重ね」
「……届いてる」
剣がぶつかる。
在真は笑う。
「……乗れるな」
「……ここからだ」
踏み込む。
領域の中。
ズレ。
歪み。
金属のぶつかる音だけが妙に近い。
それ以外の音は、薄い膜の向こうへ押しやられていた。
「……嫌な静けさだな」
心臓の音まで遠い。
このまま踏み込み続ければ、鼓動のほうが先に置いていかれそうだった。
「……分かる」
「……乗れるな」
1位が動く。
「……来る」
未来視。
「……見えねぇ」
だが——。
「……感じる」
回避。
さらに、そのズレに沿って自分の体を滑らせる。
「……合わせる」
「……そこだ」
斬る。
——ガキンッ!!
当たる。
1位がわずかに下がる。
「……いい」
1位が笑う。
「……乗ってきたな」
「……ああ」
ここでようやく、相手の輪郭が少しだけ近くなる。
遠かったものへ、無理やり指をかける感じだった。
踏み込む。
連続。
「……滑らせる」
——ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ!!
全部ぶつかる。
「……全部届く」
その瞬間、領域が揺れた。
「……来るぞ」
1位の気配がさらに上がる。
「……まだあるか」
在真はむしろ笑う。
「……崩れかけてるな」
踏み込む。
「……もっと上げる」
レオンが外から何か言っている。
聞き取れたのは最後の一語だけだった。
「……保持しろ」
「……分かってる」
保つべきなのは姿勢じゃない。
自分が自分だという感覚のほうだ。
火。
風。
水。
土。
「……混ぜる」
自分の外にある理屈ごと、一撃へ巻き込む。
自分の感覚まで一緒に混ざる。
そのせいで一瞬、手の中の剣が剣じゃなくなる。
それでも離す気にはならなかった。
「——斬る!」
——バキィィッ!!
今までより深い。
「……入ったな」
1位が止まる。
「……いい」
低く言う。
その瞬間、領域そのものが崩れはじめる。
「……っ?」
空間が揺れる。
上下が戻りきる前に、別のズレが割り込んでくる。
立っているだけで酔いそうだった。
神崎が外から叫ぶ。
「おい! やりすぎだ!」
その声すら、今は少し遅れて届く。
踏み込み方を間違えれば、声のほうだけが先に消えそうだった。
だが——。
「……関係ねぇ」
止まらない。
ここで手を緩めたら、たぶん領域のほうに形を合わせられる。
それが一番、面倒だった。
「……ここで決める」
踏み込む。
最後の距離。
「……届く」
剣を振る。
「——踏み切る!」




