第76話「本気」
「……ここからだ」
1位がそう言った瞬間、空気が一段沈んだ。
重い。
「……来るな」
1位が動く。
——消える。
「……速い!」
未来視。
だが、もう視界だけでは追えない。
「……見えねぇ」
それでも——。
「……感じる」
回避。
——ドンッ!!
地面が消し飛ぶ。
「……重すぎるな」
在真はそのまま踏み込む。
「——斬る!」
——ガキンッ!!
止められる。
「……受けるか」
「……いい一撃だ」
次の瞬間、押し返される。
「……っ」
距離が開く。
「……違うな」
今までとは全部が違う。
「……全部が上だ」
「……寒いな」
笑う。
寒いのは気温じゃない。
自分の輪郭が、少し遠くへずれる感じだった。
「……だから抜く」
踏み込む。
連続。
単発で崩れないなら、重ねて押すしかない。
「……合わせる」
——ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ!!
全部受けられる。
だが、完全じゃない。
1位の姿勢がわずかに揺れる。
「……崩れるな」
1位が低く言う。
「……来るぞ」
次の瞬間、世界が“ズレた”。
「……っ!?」
上下が消える。
位置が変わる。
地面だと思ったものが横へ滑り、空間のほうがこちらを振り回してくる。
神崎が叫ぶ。
「……なんだこれ」
1位が言う。
「……これが俺の領域だ」
「……領域か」
レオンが低く言う。
「……空間そのものじゃない。認識の足場をずらしている」
「面倒なことを言うな!」
神崎の怒鳴り声が重なる。
在真は笑う。
「……面倒だな」
「……なら」
踏み込む。
だが——。
「……遅い」
1位の声。
次の瞬間。
——ドンッ。
直撃。
「……ぐっ!」
体が吹き飛ぶ。
地面へ叩きつけられた時には、自分がどの方向へ飛ばされたのかすら半拍遅れてやってきた。
耳の奥で、遅れて鈍い音が鳴る。
衝撃より、感覚の順番が狂うほうが鬱陶しい。
吐いた息まで、自分の口から少し遅れて出ていくようだった。
「……重いな」
立ち上がる。
「……ここが上か」
その場で構える。
「……薄い」
足裏の感触が曖昧だった。
地面を踏んでいるはずなのに、半歩ぶんだけ自分が浮いている気がする。
長くいたら、立っている感覚から先に消えそうだった。
少しだけ笑う。
「……耐える」
踏み込む。
領域の中へ。
神崎が外から何か怒鳴っている。
だが、言葉の半分が削れていた。
音までズレている。
レオンの声だけは妙に細く通ってくる。
「……長くいるな。固定される」
「……静かだな」
嫌な領域だった。
だからこそ、ここで止まる気にもならない。




