第72話「不可視」
「……静かすぎるな」
踏み込む。
特異個体は確かにそこにいる。
だが、輪郭がない。
「……見えねぇ」
神崎が構えたまま吐き捨てる。
「今までより酷いぞこれ」
「……ああ」
「……問題ねぇ」
在真は目を細める。
「……来る」
体が先に反応した。
横へ。
——ドンッ。
水面が大きく凹む。
「……速いな」
次。
後ろ。
「……そこ」
回避。
連続。
攻撃のたびに、水面だけが不自然に沈む。
姿は見えない。
だが、完全なランダムでもない。
「……間隔あるな」
「……癖ある」
その瞬間、在真は前へ出た。
「……行く」
何もない空間へ踏み込む。
だが——。
「……そこだ」
剣を振る。
——スッ。
浅い。
「……触れたな」
特異個体がわずかに揺れる。
神崎が叫ぶ。
「当たってる!」
レオンがすぐ前に出る。
「……合わせる」
「……固定できるか」
だが、特異個体は逃げる。
位置が安定しない。
当たったと思えば、次の瞬間には別の位相へずれている。
「……普通じゃ無理だな」
「……なら」
在真はさらに踏み込む。
「……数で押す」
「……当て続ける」
——スッ、スッ、スッ。
少しずつ揺れる。
だが、まだ足りない。
「……足りねぇな」
斬れているのに、掴めていない。
切った手応えが、すぐ水の下へ沈んで消える。
その瞬間、特異個体が変わる。
「……来るぞ」
水面が一斉に歪んだ。
周囲全部。
神崎が顔をしかめる。
「……全部かよ」
全方向。
「……無理だな」
だが——。
「……関係ねぇ」
在真は踏み込む。
「……殺すんじゃない」
「……止める」
「……一瞬でいい」
全無視。
波立つ攻撃圧を突っ切って、特異個体の核になっている一点へ。
「……そこだ」
剣を叩き込む。
——バキッ。
「……入ったな」
特異個体が大きく揺れる。
神崎が突っ込む。
「……効いてる!」
「今だ!」
拳が重く落ちる。
——ドンッ。
レオンも圧を重ねる。
「……押し込む」
「固定は一拍だ」
空間が歪む。
特異個体のズレが、ほんの一瞬だけ止まった。
「……見えた」
中心。
「……核だな」
在真は目を細める。
「……触れればいい」
剣を構える。




