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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第五章 間に合わなかった街

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第七十五話 屍王の器

 黒い外套の下に、骨が何重にも組まれていた。


 人の形に見えるだけで、一体分ではない。腕だけで十本以上ある。屍杖が石床を叩き、吊られた骨が一斉に揺れた。


 表示を開く。


――――――――――


【屍王ネクロス】


種族格:III

Lv:39


主要構造:骨の器、移動霊核、術式中枢

装備:屍杖、骨殻、術式中枢幕


――――――――――


 俺より八つ上。


 骨の器と、動く核と、術式を動かす中枢が別にある。


 屍杖が横へ動くと、未来視に正面から五本の線が出た。床を蹴った直後、石床から骨槍が突き上がる。一本目を避け、二本目を刃で切った。三本目が大型ザックを掠め、四本目と五本目はガルの足元を割った。


 ガルが二本の間を抜け、ネクロスの右へ回る。


 俺は正面から入った。


 屍杖を受けず、内側へ踏み込む。重なった骨の腕をまとめて斬る。


 外套の中から、青い光が見えた。


 胸の中央。


 刃を返す前に、光が左肩へ移る。さらに背中へ抜けた。


 床へ落ちた腕は動かない。ネクロスの残った腕が屍杖を振る。


 頭上から別の線が来た。


 吊られていた骨が刃の形で落ちる。右へ避ければ骨槍、左へ避ければ霊体の刃。前へ入り、肩で一本受けた。


 耐切創布が裂け、皮膚へ浅い傷が走る。


 そのまま天羽々斬を横へ振り抜いた。ネクロスの腰から上が落ちる。


 骨の器が音を立てて崩れ、青い霊核だけが空中に残った。


 ガルが跳ぶ。牙は光を抜けた。噛めない。


 霊核は背後へ流れ、天井から下がる骨の山へ入った。


 一つ目の鐘が鳴る。


 肋骨と脚と腕が落ち、床の上へ人型を組む。


 二つ目で黒い外套が移り、三つ目で屍杖が新しい手へ戻った。


 さっき斬った器が、全部戻っている。


「器だけじゃ駄目か」


 ネクロスが杖を上げた。


 今度は床と天井から同時に骨が来る。ガルが低く吠え、左へ走った。霊核は新しい器の左肩から胸へ動いている。


 位置は追える。だが、骨へ入った核は外殻に守られ、器を崩せば霊体のまま逃げる。見えているのに、刃が届く状態でそこにいてくれない。


 骨槍を切り、天井の刃を避ける。ネクロスへ近づくと見せ、背後の鐘へ抜けた。


 天羽々斬を一つ目へ振る。


 鐘の前で黒い膜が膨らんだ。


 刃が止まる。


 硬い壁ではない。押した分だけ沈み、力を床の左右へ流した。術式中枢幕。


 ネクロスの屍杖が背中へ来る。


 振り返る前に、ガルが杖の先へ体当たりした。軌道はずれたが、柄が脇腹を打つ。


 川代で痛めた場所に重なり、息が止まった。


 鐘から離れる。ガルも横へ下がった。


 ネクロスは追ってこない。三つの鐘と、骨の器の間に立つ。


 足元で三本の導管が脈打っていた。


 左、右、中央から流れ込んだ瘴気が、床下の一か所へ集まり、黒い幕へ広がる。そこから三つの鐘へ入り、器へ送られていた。


 術式中枢は、ネクロスの身体ではなく宮殿の下にある。


 掌へ火を集め、ネクロスの胸へ放つ。


 黒い外套が燃えた。骨の隙間へ炎が入る。


 ネクロスは止まらない。


 一つ目の鐘が鳴り、新しい骨が天井から落ちた。燃えた場所へ組み込まれる。火だけでは、壊す速度より補う速度のほうが速い。


 炎を弱める。消さず、薄く残した。


 赤い火が骨から黒い膜へ移り、床へ流れる。そこで左、右、中央の三つへ分かれた。


 瘴気の流れに、火がついている。


 三本の導管の位置が、床の下まで見えた。


 あの流れを断てば、床下の術式中枢へ瘴気が届かなくなる。三本の位置を追いながら、天羽々斬の切っ先を床へ向けた。鐘の前で刃を止めた幕を、先に消す。


 逃げる霊核を斬るには、移れる骨も減らさなければならない。まだ頭上には、吊られた骨がいくらでも残っていた。


 ネクロスが屍杖をもう一度上げた。


 薄く残した火の中で、三本の道だけが赤く浮かんでいた。

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