第七十五話 屍王の器
黒い外套の下に、骨が何重にも組まれていた。
人の形に見えるだけで、一体分ではない。腕だけで十本以上ある。屍杖が石床を叩き、吊られた骨が一斉に揺れた。
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【屍王ネクロス】
種族格:III
Lv:39
主要構造:骨の器、移動霊核、術式中枢
装備:屍杖、骨殻、術式中枢幕
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俺より八つ上。
骨の器と、動く核と、術式を動かす中枢が別にある。
屍杖が横へ動くと、未来視に正面から五本の線が出た。床を蹴った直後、石床から骨槍が突き上がる。一本目を避け、二本目を刃で切った。三本目が大型ザックを掠め、四本目と五本目はガルの足元を割った。
ガルが二本の間を抜け、ネクロスの右へ回る。
俺は正面から入った。
屍杖を受けず、内側へ踏み込む。重なった骨の腕をまとめて斬る。
外套の中から、青い光が見えた。
胸の中央。
刃を返す前に、光が左肩へ移る。さらに背中へ抜けた。
床へ落ちた腕は動かない。ネクロスの残った腕が屍杖を振る。
頭上から別の線が来た。
吊られていた骨が刃の形で落ちる。右へ避ければ骨槍、左へ避ければ霊体の刃。前へ入り、肩で一本受けた。
耐切創布が裂け、皮膚へ浅い傷が走る。
そのまま天羽々斬を横へ振り抜いた。ネクロスの腰から上が落ちる。
骨の器が音を立てて崩れ、青い霊核だけが空中に残った。
ガルが跳ぶ。牙は光を抜けた。噛めない。
霊核は背後へ流れ、天井から下がる骨の山へ入った。
一つ目の鐘が鳴る。
肋骨と脚と腕が落ち、床の上へ人型を組む。
二つ目で黒い外套が移り、三つ目で屍杖が新しい手へ戻った。
さっき斬った器が、全部戻っている。
「器だけじゃ駄目か」
ネクロスが杖を上げた。
今度は床と天井から同時に骨が来る。ガルが低く吠え、左へ走った。霊核は新しい器の左肩から胸へ動いている。
位置は追える。だが、骨へ入った核は外殻に守られ、器を崩せば霊体のまま逃げる。見えているのに、刃が届く状態でそこにいてくれない。
骨槍を切り、天井の刃を避ける。ネクロスへ近づくと見せ、背後の鐘へ抜けた。
天羽々斬を一つ目へ振る。
鐘の前で黒い膜が膨らんだ。
刃が止まる。
硬い壁ではない。押した分だけ沈み、力を床の左右へ流した。術式中枢幕。
ネクロスの屍杖が背中へ来る。
振り返る前に、ガルが杖の先へ体当たりした。軌道はずれたが、柄が脇腹を打つ。
川代で痛めた場所に重なり、息が止まった。
鐘から離れる。ガルも横へ下がった。
ネクロスは追ってこない。三つの鐘と、骨の器の間に立つ。
足元で三本の導管が脈打っていた。
左、右、中央から流れ込んだ瘴気が、床下の一か所へ集まり、黒い幕へ広がる。そこから三つの鐘へ入り、器へ送られていた。
術式中枢は、ネクロスの身体ではなく宮殿の下にある。
掌へ火を集め、ネクロスの胸へ放つ。
黒い外套が燃えた。骨の隙間へ炎が入る。
ネクロスは止まらない。
一つ目の鐘が鳴り、新しい骨が天井から落ちた。燃えた場所へ組み込まれる。火だけでは、壊す速度より補う速度のほうが速い。
炎を弱める。消さず、薄く残した。
赤い火が骨から黒い膜へ移り、床へ流れる。そこで左、右、中央の三つへ分かれた。
瘴気の流れに、火がついている。
三本の導管の位置が、床の下まで見えた。
あの流れを断てば、床下の術式中枢へ瘴気が届かなくなる。三本の位置を追いながら、天羽々斬の切っ先を床へ向けた。鐘の前で刃を止めた幕を、先に消す。
逃げる霊核を斬るには、移れる骨も減らさなければならない。まだ頭上には、吊られた骨がいくらでも残っていた。
ネクロスが屍杖をもう一度上げた。
薄く残した火の中で、三本の道だけが赤く浮かんでいた。




