第66話「終端」
源が消えたあとも、しばらく誰も動かなかった。
在真は剣を下ろさず、奥を見続ける。
この“外側”の空間が本当に静まったのか、まだ誰にも分からない。
神崎がようやく息を吐いた。
「……終わった、のか?」
レオンがすぐには答えない。
少ししてから、静かに言う。
「……一つはな」
その言い方で十分だった。
「……入口だな」
「……ああ」
神崎が苦笑する。
「ほんと、まともに終わらねぇな」
在真は少しだけ笑った。
「……だからいい」
レオンが周囲を見ながら言う。
「……戻るぞ」
「ここで長居は危険だ」
神崎が肩を回す。
「賛成だ。さすがに気持ち悪ぃ」
在真も頷いた。
「……ああ」
来た時と同じ裂け目を探す。
見上げるという感覚すら曖昧な空間の中で、現実へ通じる薄い歪みだけがかろうじて分かった。
その歪みへ向かって歩く。
歩いているのに、距離の感覚は曖昧だ。
近づいているのか、逆に遠ざかっているのかさえ一瞬分からなくなる。
だが、ガルだけは迷わず前へ進む。
「……頼りになるな」
小さく言うと、ガルは一度だけ低く鳴いた。
やがて裂け目へ届く。
神崎が振り返る。
「……また来るんだろうな」
「……来る」
在真は即答した。
「……次はもっと奥だ」
レオンも頷く。
「……ここから先は、もうダンジョンの延長じゃない」
「……いいな」
裂け目へ足を踏み入れる。
視界が歪む。
重力が戻る。
音が戻る。
風の感触が肌へ戻る。
基地の空。
夜明け前の薄い色。
神崎が大きく息を吐く。
「やっぱこっちの空気が落ち着くわ」
レオンは静かに前を見る。
「……報告が必要だ」
在真は空を見上げた。
何もない。
だが、その向こうにまだ何かがあると、もうはっきり分かっている。
「……次だな」
少しだけ笑う。




