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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第1章「最難関ダンジョンの孤独な開拓者」

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第5話「再挑戦」

 家の玄関を閉めた瞬間、ようやく少しだけ緊張が切れた。

 そのまま床に座り込み、荒い息を吐く。

 右目の奥がずきずき痛んで、気を抜くと吐き気がこみ上げてきた。


 「……まだ生きてるな」


 洗面所へ向かう。


 鏡を見るのは少し嫌だったが、現実から目を逸らしても傷は消えない。


 水で血を流す。


 赤い筋がシンクを流れていく。

 鏡の中の自分は、思っていた以上にひどかった。右目の周囲は裂けて腫れ、視線を向けてもそこだけが暗い。

 血を流しても、暗さはそのままだった。

 瞼を上げても閉じても、右だけ何も変わらない。

 顔の一部だけ、最初から無かったみたいで気味が悪い。


 「見えてねぇ……」


 口に出すと急に実感が増した。


 怖くなる。


 でも今は、怖がっている時間がもったいない。

 救急箱を引っ張り出し、できる範囲で止血と消毒をする。包帯を巻く手つきはぎこちなかった。

 病院に行くという選択肢も頭をよぎる。

 だが、説明できない。

 山の洞窟でスケルトンに斬られたなんて、通るわけがない。

 それに今の世界は、たぶん病院も平常じゃない。

 運び込まれたところで、今の俺より訳の分からないやつがいくらでもいるかもしれなかった。

 そう考えると、病院の白い廊下まで妙に遠く感じた。

 リビングへ戻ってスマホを開く。

 通知が溢れていた。

 ニュース、SNS、動画投稿、海外メディア。


 『国内各地で謎の構造物を確認』


 『一部地域でモンスターとみられる生物が出現』


 『政府は危険区域への立ち入りを禁止』


 「やっぱ俺だけじゃないか」


 動画には、都市部に突如現れた門や、武装した連中が何かと戦っている荒い映像まで上がっていた。

 まだ全体像は見えていない。

 でも、世界が一日で変わったことだけは誰にも否定できなくなっている。

 画面の向こうで叫んでいる人間の顔が、少し前の自分と同じに見えた。

 何が起きてるのか分からないまま、無理やり飲み込まされてる顔だ。

 固有ダンジョン。

 その言葉がまた頭に浮く。

 「……使わない手はないな」


 傷の痛みと一緒に、少しずつ頭が冷えてくる。

 あのスケルトンナイトに勝てる気はしない。

 あいつがいる。

 それでも、他まで全部終わりって感じじゃない。

 むしろ、あれがいるなら他を積める。

 そう考えている自分が少し嫌だった。


 「今夜は休む」


 強がっても仕方ない。

 回復しないまま突っ込めば、今度こそ返ってこられない。

 ベッドへ倒れ込む。

 包帯の奥が熱い。右の視界はずっと暗いままだ。

 眠れるか怪しかったが、極限まで疲れていたせいで意識はすぐ沈んでいった。

 その直前、スマホにまた速報が流れる。


 『覚醒者とみられる人物、各地で確認』


 「……覚醒者、ね」


 他人事みたいに呟く。

 もしそう呼ばれる側に立つなら、なおさら弱いままじゃいられない。

 布団の中で拳を握る。


 怖さは消えない。


 でも、まだやめる気にはならなかった。

 やめる理由より、戻る理由の方がもう薄かった。

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