↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第五章 間に合わなかった街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/98

第六十四話 封葬墓苑

 七月十三日、午前三時二十分に家を出た。


 大型ザックを背負うと、肩の傷ではなく腰へ重さが落ちた。左腕の痺れはない。ガルは左右の鞍袋をつけたまま玄関を抜け、一度だけ身体を振った。


 冷蔵庫の紙を確認してから、鍵を掛ける。


 侵入、十三日午前八時。帰還、二十一日中。


 東條が手配した車両は、町を出るまで窓を暗くしていた。高速道路へ入るころに空が白み始める。途中で防毒面の濾過缶と水袋の留め具を確かめた。ガルは足元へ伏せていたが、山道へ入ると頭を上げた。


 午前六時半、封鎖区の手前で車を降りた。


 そこから先は杉林の中を歩く。昨夜の雨が土へ残り、靴底へ泥が厚くついた。九日分の荷物は平らな道なら持てるが、斜面を上るたびにザックが背中から遅れてついてくる。


 ガルは先へ出すぎず、何度かこちらを振り返った。右の鞍袋も左も、枝には触れていない。


 七時四十分、低い石垣が見えた。


 寺の跡というより、墓石だけを斜面へ置き忘れたように見えた。古い石が杉の間へ何百本も並び、中央の一角だけ地面ごと沈んでいる。そこから地下へ下りる石段が、濡れた口を開けていた。


 入口脇の防水箱に、先行した五人の残置品が収められている。空の燃料缶、予備ロープ、使わなかった発煙筒。それから、帰還予定を書いた札。


 七月十三日、午前七時。


 帰還予定は、もう過ぎていた。


 札の下には五人分の名前がある。ここに荷物を置いた時、三日後には自分たちで回収するつもりだったはずだ。


 東條が石段の手前で端末を開いた。


「時刻と装備だけ確認します」


 大型ザック、ガルの鞍袋、防毒面、予備濾過缶。読み上げず、画面の項目へ一つずつ印をつけていく。


「七時五十六分。帰還予定は二十一日中です」


「分かってます」


「中で何か分かっても、外へ知らせる手段はありません」


「中で判断します」


 防毒面をつける。息を吸うと、濾過缶を通る乾いた音が耳の横で鳴った。


 ガルの鼻と口にも専用の覆いをつけた。口元は顎の動きに合わせて開く。牙を使う間まで瘴気を防げるものではない。前脚で外そうとしたので、肩帯の付け根を押さえる。


「中では外すな」


 ガルは低く唸ったが、二度目は触らなかった。


 午前八時。


「行ってきます」


「二十一日まで、入口を維持します」


 東條の返事を背に、石段を下りた。


 朝の光は十二段目で細くなった。頭灯をつける。壁は黒ずんだ積み石で、ところどころに人の名前らしい文字が彫られていた。読める形には残っていない。


 三十段ほど下りたところで、背後から石が擦れる音がした。


 振り返る。


 石段の上から、厚い石板が落ちてくる。走って戻れば、閉じる途中へ身体を挟む距離だった。


 止まったまま見た。朝の光が細い線になり、消える。


 石板へ手をつく。押しても動かない。


 閉じると聞いていたし、その条件を承知して入った。それでも、朝の光が消えると呼吸が一度だけ浅くなった。吐いた息が防毒面の内側を曇らせ、目の前の石板まで白くぼやける。手袋で拭ってから端末を開いた。


――――――――――


外部ネットワークとの接続が失われました。

実績記録と順位同期を停止します。


国内サーバー順位:5位(接続断絶中)

全サーバー総合順位:196位前後(接続断絶中)


――――――――――


 千景へ送る画面を開いても、送信欄は灰色のままだった。侵入したという一文すら、もう外へは出ない。


 端末を閉じる。


 ガルは石板を見ず、階段の下へ鼻を向けていた。灰色の霧が足首の高さまで溜まり、下へ行くほど濃くなっている。


 一段下りると、防毒面越しに舌の奥へ苦い味がついた。さらに下りるほど、霧は靴の周りへまとわりつき、歩いても左右へ逃げきらない。


 目の周りが熱くなり、露出した手首だけが冷える。ガルの耳が伏せられた。


 入口の外では、帰還予定の時刻が動き始めている。


 俺は天羽々斬の柄へ手を置き、霧の中へ下りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。