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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第四章 守れた街

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第五十五話 防衛線【別視点・神崎】

 南の用水路を越えた狼騎兵は、二体とも神崎の隊を見て引いた。


「追います」


 前へ出かけた隊員の肩を、神崎はつかんだ。


「追わない。橋まで戻れ」


「でも、今なら落とせます」


「今だけな」


 狼騎兵は遅いふりをしている。時々振り返り、こちらとの距離が開きすぎないよう足を緩めていた。


 用水路の先は貨物ヤードだった。積まれた空コンテナと無人倉庫が並び、夜になれば曲がり角の先を見通せない。そこへ四人を入れれば、橋を守る人間が減る。


 神崎は隊員を押し戻し、自分も橋の手前へ下がった。


「東の二班は」


『オーク三、ゴブリン十五前後。いったん押し返しました』


「追ってないな」


『止まってます。貨物線側で別の群れと合流する動きがあります』


 追わなくても、敵は消えない。


 それでも線を空けるよりはよかった。


 道路へ置いた防護車両の向こうに、住宅地の屋根が見える。反対側には、避難を終えた貨物ヤードと三棟の倉庫がある。


 全部は守れない。


「西の倉庫三棟、放棄する」


 通信に一瞬だけ雑音が入った。


『資材が残っています』


「人は」


『避難確認済みです』


「なら建物は後だ。橋と住宅地へ人を寄せろ。ヤードへ入った敵は追うな」


 倉庫の損害を、自分で決めた。


 これで持ちこたえても、明日の物流は止まる。会社は設備と在庫を失い、働いていた人間の生活に遅れて傷が来る。


 今夜、死ぬ人間を減らすためだった。


 用水路の暗がりで、狼が向きを変えた。


 背に乗ったゴブリンが角笛を吹く。ヤードの奥から、別の足音が返った。


「盾、橋の幅だけでいい。左右を広げるな」


 防衛班の盾が六枚、車道の中央へ寄る。射手はその後ろへ二人ずつ。残りは住宅地へ続く交差点と、千景の避難線が重なる西側へ置いた。


『鳴海です。K-17を含む十三人、西側退避点へ到着。診療所四人も搬送しました』


 午後八時三十一分。


 神崎は腕時計を見て、橋の西側に置いた二人をすぐには戻さなかった。


「他の避難列は」


『もう一工場、完了報告がありません。確認に向かいます』


「何分いる」


『十二分。戻らなければ西の線を閉じてください』


「十五分やる。戻れなければ、こっちから二人出す」


『それじゃ橋が――』


「二人分は俺が埋める」


 返事を待たず、神崎は通信を切った。橋の中央へ一歩詰め、空いた二人分まで自分の間合いへ入れた。


 狼騎兵が橋へ入る。


 一体目の狼が踏み込んだ瞬間、神崎は盾列の前へ出た。槍を下から入れ、顎を上げる。横へ払わず、そのまま正面へ押し返した。


 ゴブリンが背から落ちる。


「右、出るな!」


 隊員の斬撃を止める。倒れたゴブリンは橋の外へ転がり、狼は貨物ヤードへ逃げた。


 追えば二体とも取れる。


 その奥で、オークの盾が三つ並んだ。


 神崎は槍の石突きを舗装へ打ち、隊を橋の幅へ戻した。


 後方で、防護車両が一台燃え始める。別班が消火器を向けるが、炎は荷台へ回った。


 それでも住宅地側の道には、まだ魔物が一体も入っていない。


 午後八時四十分、西の倉庫の屋根が落ちた。


 音は大きかった。振り返る隊員もいた。


「見るな。橋を見ろ」


 神崎も、音だけを聞いた。


 捨てた場所が壊れていく間、守ると決めた線から足を動かさなかった。

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