第四話 唯一無二の固有スキル
必死に走り、出口を飛び出した瞬間、膝から力が抜けた。
ドサリと地面に倒れ込み、荒い呼吸を繰り返す。
「……助かった……のか?」
右手で顔を触ると、生温かい感触。
指先は血でべっとりと染まっていた。
右目の視界は真っ暗で、焦点も合わない。
「……嘘だろ……片目……」
全身が震えて止まらない。
あのウルフがいなければ、確実に死んでいた。
——なぜ助けた?
耳を澄ますと、森の奥から低い唸り声が聞こえる。
視線を向けると、あのウルフが血の付いた牙を光らせながらこちらを見ていた。
襲いかかってくる気配はない。
むしろ、距離を保ちつつ観察している。
その瞬間、頭の中に声のような響きが走った。
【条件達成:スキル〈テイム〉が発動しました】
視界に淡く光るウィンドウが浮かぶ。
・対象:ウルフ(骨好き)
・状態:警戒 → 興味(低)
・契約可能:はい/いいえ
「……仲間にできるってことか……?」
半信半疑のまま「はい」を選択した。
【契約完了】
しかし、ウルフは近づかず、こちらを一瞥しただけで森の中へ消えていった。
契約は成立したようだが、呼び出す方法もわからず、次に会える保証もない。
「……今は戦力にならないってことか」
それでも、この出来事には心当たりがあった。
——俺のステータスに記された固有スキル〈幸運〉。
固有スキルは、同じものを持つ者が二人と存在しない唯一無二の力。
持たない人間も多く、持っていたとしても、その内容は千差万別だ。
俺の〈幸運〉は、偶然を味方につけ、有利な結果を引き寄せる能力。
今回、スケルトンナイトと遭遇しながらも生還できたのは偶然か——いや、必然だ。
ウルフが現れ、〈テイム〉発動条件を満たしたことも含めて、この固有スキルの恩恵だろう。
「……少しずつでいい。確実に強くなる」
立ち上がると、右目の痛みが脳に突き抜けた。
まだ体は思うように動かない。
それでも一歩ずつ家へ向かう。
——他の誰よりも早く動き出し、唯一無二の力を活かす。
その差を、必ず広げてやる。




