第四十八話 核
鉄皮オーガを炉から離す。
俺が正面へ出ると、オーガは鉄棒を両手で持ち上げた。右腕の鉄皮は厚いままだが、足首と肩へ入れた傷は、中央供給が補修を続けている。
未来視に、三つの打撃が重なった。
一つ目は真下。二つ目は逃げた先への横薙ぎ。三つ目だけ、振り切った鉄棒を戻すのが遅い。
最初の二つを炉から遠い側へ避けた。
三つ目が来る前に土を盛り、オーガの左足を半分だけ沈める。倒せる深さではない。鉄棒を戻す一呼吸を、もう一呼吸へ伸ばすだけだ。
「今」
千景が外周を走った。
炉の裏へ回り、円形板の縁へ細い鉤を差し込む。押しても動かなかった板が、左へ回すと鈍い音を立てた。
「回る。あと半分」
鉄皮オーガが千景へ顔を向ける。
ガルが右足の前へ入り、爪で床を掻いた。牙は鉄皮へ届かせず、オーガが踏み込む直前に離れる。足を取られた土が崩れ、身体の向きだけがガルを追った。
千景が板を回し切る。
円形の蓋が手前へ外れた。
内部には三本の管が並んでいた。右と左は黒く冷えている。中央だけが赤く脈打ち、床下から炉の奥へ熱鉱を送り続けていた。
「開いた!」
俺はオーガの脇を抜けた。
鉄棒が背中を追う。風で押し返せる重さではない。未来視に見えた床の窪みへ身体を落とすと、先端が頭上を通り、炉の外殻へ当たった。
亀裂から熱鉱が噴き出す。
俺は立ち上がり、円形板の中へ刀を入れた。
中央管の表面は赤く、刃を当てただけで熱が手元まで上がる。水を薄くまとわせ、一太刀目で外殻を割った。
中から流れた熱鉱が刀へ絡む。
風で剥がし、同じ割れ目へ二太刀目を通す。
管が切れた。
炉の脈動が止まる。
石室の三本の鉱脈から赤い光が引き、壁の奥で続いていた押出音も消えた。
鉄皮オーガが吠える。
右肩の古い傷から液状の鉄が滲んだが、皮膚を覆う前に垂れ落ちた。もう新しい層にはならない。
「止まってる」
千景は蓋から手を離し、最後の杭がある壁際まで下がった。
俺は炉の亀裂へ土の溝をつなぎ直した。
残っていた熱鉱を、オーガの胸へ流す。
胸部の鉄皮が赤くなる。
水を刀幅だけへ絞った。白い蒸気が一本の線になって上がり、その下へ細い亀裂が走る。
鉄棒が横から来た。
踏み込めば胸へ届くが、刃を入れた瞬間に身体ごと持っていかれる。
俺は一度下がった。
ガルが鉄棒の先を追わず、オーガの胸下へ滑り込む。急冷した亀裂の端へ牙を掛け、頭を振った。
鉄皮が剥がれる。
赤黒い皮膚の奥で、丸いものが脈打っていた。
鑑定表示が重なる。
胸部鉱核。
ガルが離れる。
俺は鉄棒の戻る線より先へ踏み込み、露出した核へ天羽々斬を入れた。
硬い。
刃は半分で止まる。オーガの左手が肩へ伸びた。
風を刀の背へ集め、同じ傷へ身体ごと押し込む。
押し込んだ刃が核を割った。
胸の奥で、乾いた音がした。
鉄皮オーガの左手が止まり、鉄棒が床へ落ちる。右腕から黒い層が崩れ、大きな身体が膝から前へ倒れた。
俺は炉ではなく、帰路側へ避けた。
床が揺れ、鉄粉が舞う。支柱は倒れず、天井の亀裂も広がらない。
オーガは起き上がらなかった。
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〈鉄皮オーガ〉を討伐しました。
〈鉄喰い坑道〉の鉱脈炉を停止しました。
大月在真
Lv:30
ガル
Lv:28 → 29
天羽々斬
武器Lv:28 → 30
武器第二解放の資格を取得しました。
攻略報酬:黒鉄核、軽量合金、防具補修規格
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天羽々斬・第二解放資格
解析済みの装甲隙間・核へ、貫通補助を定着できる。
現在は資格のみ取得しています。
定着には飛竜核と1億5,000万DPが必要です。
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資格を得ても、刀の感触は変わらなかった。今のまま使える力ではない。
千景が円形板の内部と停止した三本の管を撮影し、坑道の安全確認を地上へ送った。後続の収容班が入れるのは、炉から隔壁までに新しい反応がないと確認してからだ。
俺たちは石室を出た。
遺体位置の杭は、まだ青く光っている。
収容班の四人が担架を入れ、平井さんの身体を回収布ごと持ち上げた。森川さんが残した固定帯は外さず、胸当ても現場の状態のままにする。
破断盾は証拠箱へ入れた。曲がった槍は別の袋へ収め、壁の鉱石片と混ざらないよう番号を付ける。
一緒には運ばなかった。
遺体が先に隔壁を抜け、その後に盾、最後に槍が出る。千景は七本目の杭を、担架が六本目を越えてから抜いた。
入口の外で、瀬尾さん、小宮さん、森川さんが待っていた。
誰も、倒した個体のことを先に聞かなかった。
夕方、収容記録への署名を終えたあとで、定時更新が入った。
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大月在真
国内サーバー順位:11位 → 8位
全サーバー総合順位:430位 → 330位
総合RP:19,400 → 22,600
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表示を閉じた時、平井さんを乗せた搬送車はもう入口を離れていた。




