第38話「上位」
都市ダンジョン制圧から数日。
基地の空気は、以前とは明らかに変わっていた。
「……やりやすくなったな」
廊下を歩くだけで、視線の意味が違う。
警戒ではない。
尊敬。
あるいは——
距離。
「……完全に上側扱いだな」
神崎が横で笑う。
「自覚ないのか?」
「……あんまりな」
実感は薄い。
「……お前、今この国でも上位だぞ」
「……そうか」
軽く返す。
「……ほんとブレねぇな」
神崎が呆れる。
その時。
「大月 在真」
呼ばれる。
振り向く。
スーツ姿の男。
「……来たな」
明らかに軍とは違う。
「政府側の人間だ」
神崎が小さく言う。
「……なるほどな」
男が歩み寄る。
「初めまして」
「内閣直轄、覚醒者対策室の者です」
「……長いな」
「……そうですね」
軽く流す。
「要件は?」
単刀直入に聞く。
「あなたに依頼があります」
「……内容は?」
男が一枚の資料を差し出す。
そこには——
地図。
複数の地点に印がついている。
「同時発生型ダンジョンです」
「……複数?」
「はい」
「全国で同時に確認されています」
「……それはまた派手だな」
神崎が眉をひそめる。
「一つ一つは中層規模」
「ですが——」
一瞬、間が空く。
「同時です」
「……戦力分散か」
「その通りです」
戦力が足りない。
「……で」
視線を向ける。
「俺に何させたい」
「中核の一つを任せたい」
「……一つだけか?」
「はい」
「ただし——」
男の声が少し低くなる。
「最も危険度の高い地点です」
「……だろうな」
簡単な話ではない。
「……条件はいつも通りだ」
拘束なし。
自由。
「問題ありません」
即答。
「……いいな」
資料を見る。
位置。
都市ではない。
山間部。
「……こっちは人少ないな」
「ですが、規模が異常です」
「……なるほど」
つまり——
「……当たりってことか」
少しだけ笑う。
神崎が横で肩をすくめる。
「やっぱり行くか」
「……ああ」
迷いはない。
「……準備する」
男が頷く。
「部隊も同行させます」
「……好きにしろ」
制限はない。
「……在真」
神崎が呼ぶ。
「俺も行く」
「……だろうな」
軽く返す。
「……面白くなってきたな」
複数同時発生。
高難易度。
「……やりがいある」
視線を外へ。
空。
「……次は、どこまで行けるか」




