第30話「交渉」
銃口が、一斉にこちらへ向けられる。
「そのまま動くな」
低い声。
感情は抑えているが、完全に警戒されている。
「分かった」
両手を軽く上げる。
無駄な刺激は避ける。
「敵じゃない」
短く言う。
「……それを判断するのは、こちらだ」
当然の返答。
ガルが低く唸る。
「……ガル、下がれ」
小さく命じる。
少しだけ後ろに下がる。
それだけで、空気がわずかに緩む。
「……会話はできるな」
前に出てきた男。
装備から見て、指揮官クラス。
「名前は?」
「大月 在真」
「所属は?」
「なし」
一瞬、間が空く。
「……単独か?」
「そうなるな」
ざわつきが広がる。
「……さっきの戦闘、見てたよな」
あえて言う。
「……見ていた」
短く返ってくる。
「……あれが今の実力だ」
事実だけを伝える。
誇張も隠しもない。
沈黙。
「……正直に言う」
指揮官が口を開く。
「その力は危険だ」
「……だろうな」
否定しない。
「……だが」
視線を向ける。
「敵に回る気はない」
はっきりと言う。
空気が少しだけ変わる。
「……証明できるか?」
「今すぐ証明は無理だな」
正直に答える。
「……でも」
一歩だけ前に出る。
銃口がわずかに揺れる。
「さっきのやつ、倒しただろ」
「……あれは、今の装備じゃ厳しかったはずだ」
沈黙。
否定できない。
「……だから、敵じゃない」
「……利用価値がある、か」
指揮官が呟く。
「そういう見方で構わない」
無理に否定しない。
「……条件は?」
すぐに来る。
「拘束はなし」
「行動の自由は確保」
「必要なら協力はする」
簡潔に。
「……ずいぶん強気だな」
「……それだけの力はある」
間違っていない。
沈黙。
周囲の兵士たちも、判断を待っている。
やがて——
「……いいだろう」
銃口が、ゆっくりと下がる。
「一時的に協力関係とする」
「……助かる」
軽く息を吐く。
ガルも唸りを止める。
「……ただし」
「監視はつける」
「……好きにしろ」
問題ない。
「……こちらも情報が欲しい」
「……それは後で話す」
やり取りが成立する。
「……とりあえず」
指揮官が周囲を見る。
「負傷者の回収を優先する」
「……ああ」
戦闘の余波。
まだ完全には終わっていない。
だが——
「……これで、外とも繋がったな」
完全に“孤独”ではなくなった。
「……面白くなってきた」
その一歩が——
世界との関係を変えていく。




