第十八話 処刑者
黒鎧騎士が踏み込み、左肩から漏れる煙が後ろへ流れた。持ち上がる大剣を見ながら右へ走る。今度は受けない。
黒鉄の刃が床へ落ち、足元が揺れた。砕けた破片が靴へ当たる。振り返ると、ガルが左から入っていた。
右の前脚は動いている。黒鎧騎士の腰へ牙を掛け、すぐに離れた。兜がガルを追う。
右腰の板が見えた。赤い線は消えている。傷がつく時だけ出る。天羽々斬を横へ振る。
魔力装甲に止められた。押し込まず、すぐに引く。黒鎧騎士の左腕が空を掴んだ。右腰の表面へ、赤い四角が浮く。
そこだ。
もう一度入る。今度は大剣が戻ってきた。刃を止めれば、腕が持たない。身体を落とす。
頭の上を黒い刃が通った。風だけでヘルメットがずれる。立ち上がる動きのまま、右腰へ刀を突いた。赤い線の中心へ入る。
膜が押し返す。右足を床へ噛ませ、両手で柄を押した。四角い線が歪む。割れる前に、黒鎧騎士の膝が上がった。
腹へ来る。身を引く前に、ガルが黒鎧騎士の腰を後ろから引いた。膝の軌道がわずかに下がり、硬い鉄が俺の太腿へ当たる。
脚が痺れた。それでも腹へまともに食らうよりは動ける。柄へしがみついたまま押し切ると、赤い線が切れた。
右腰の板が砕けた。これで二つ目だ。
黒煙が薄くなった。鎧の右側へつけた傷だけ、閉じるのが遅い。黒鎧騎士が大剣を引く。離れようとして、右脚が動かなかった。
太腿の痺れが残っている。大剣の柄が胸へ当たった。息が潰れる。背中から床へ落ちた。
視界が暗くなる。ガルの唸り声だけが近い。黒い足が、俺の横へ立った。大剣の切っ先が下を向く。
胸へ落とすつもりだ。ガルが正面から飛んだ。狙いは兜ではない。大剣を持つ両手へ体当たりする。
切っ先が俺の左へ落ちた。床へ深く刺さる。ガルも弾かれ、柱の根元まで転がった。起き上がらない。
「ガル」
耳が動いた。生きている。大剣が床へ刺さっている間に立つ。右脚はまだ重い。
黒鎧騎士が刃を抜こうと腰を落とす。左膝の外側が近い。刀を当てる。膜の下で赤い線が浮いた。
一撃目で刻印の半分が欠けた。黒鎧騎士は大剣から手を離し、左腕を振る。避けきれずに肩を打たれたが、身体が回る勢いに刀を乗せ、もう一度同じ線へ斬りつけた。赤い光が割れ、左膝の板が落ちる。
三つ目だった。黒鎧騎士が一歩下がり、初めて膝を沈めた。再生しない左肩と左膝で、身体の重さを支えきれていない。残る刻印は背中にある。
ガルが起きた。前脚を確かめるように一度床へ押し、それから走る。俺とは反対へ回った。黒鎧騎士が大剣を抜く。
ガルへ振り向く。
「そのまま」
黒い背中が俺へ向いた。中央の板は、肩甲骨の間にある。
背中が向いているうちに走った。黒鎧騎士が気づいて身体を戻そうとしたが、左膝が遅れる。さらにガルが右足首へ噛みつき、踏み替えるはずの半歩を止めた。
背中の板へ刀を入れた。赤い線が光る。一撃では割れない。黒鎧騎士の肘が後ろへ来る。
顔を外した。肩へ当たる。痛みで刀が浅くなる。ガルが足首から離れ、今度は左肩へ飛びついた。
刻印を壊した場所だ。魔力装甲が薄い。牙が鎧の隙間へ入る。黒鎧騎士の身体が後ろへ反った。
反った背中が、板ごとこちらへ押し出される。俺は刀を引き、赤い四角の中央へ突きを入れた。硬いものを砕く感触が、柄から肘まで返ってきた。
四つ目の刻印が消える。黒煙が途絶え、鎧を覆う膜が上から剥がれた。薄い膜は床へ落ちる前に消え、黒鉄の表面が初めてむき出しになった。
黒鎧騎士がガルを振り落とす。大剣を横へ振る。ガルは床へ落ちながら身体を丸めた。刃が黒い毛を切る。
浅い。
今度は俺が前へ出る。胸の鎧へ天羽々斬を振る。膜はない。刃が黒鉄へ入った。
半分で止まる。黒鎧騎士の大剣が戻る前に、同じ線へもう一度落とす。胸板が割れた。中に黒い骨がある。
その奥で、赤黒い光が脈打っていた。黒鎧騎士が左手で俺の首を掴む。指が締まる。足が床から浮いた。
息が入らない。刀を持つ右腕は動く。けれど、胸の核へまっすぐ入れる角度がない。ガルが左腕へ噛みついた。
壊れた肩の隙間へ牙を深く入れる。黒鎧騎士の腕が下がった。足が床へつく。空気を吸うより先に、天羽々斬を両手で持った。
割れた胸板の間へ突く。赤黒い光へ届く。
硬い。
全身の力を柄へ集める。技量同調が、刃先まで逃がさない。核が割れた。黒鎧騎士の指が首から離れる。
大剣が床へ落ちた。鎧の中で、黒い骨が崩れていく。ガルが牙を離した。黒鎧騎士は膝から落ち、そのまま動かなくなった。
表示が開く。
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黒鎧騎士を討伐しました。
中層主区画を初回突破しました。
大月在真
今回獲得EXP:16,275
個体Lv:17 → 20
天羽々斬
武器Lv:15 → 18
ガル
個体Lv:21 → 22
職業〈殺戮者(人型)・第一段階〉が〈処刑者・第二段階〉へ進化しました。
〈詳細鑑定II〉が〈未来視鑑定III〉へ進化しました。
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【処刑者・第二段階】
効果:解析済みの弱点を痛む場所のように知覚する。
補正:解析済み弱点の倍率+0.25、防御無視+10%。
制約:未解析の弱点には働かず、人型最終ダメージ+20%はこの職能へ置き換わる。
【未来視鑑定III】
効果:〈詳細鑑定II〉の機能を保持し、捉えた対象の次の行動を予測する。
制約:使用者の素早さと身体能力は上昇しない。
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身体の内側が組み替わった。熱だけではない。骨の位置を一度外され、違う場所へ戻されたような痛みが走る。膝をついた。
太腿の痺れも、肩の痛みも消えていない。頬の内側から、また血が出た。黒鎧騎士の胸を見る。砕けた核の場所だけが、鈍く痛むように感じる。
俺の傷ではない。ガルへ目を向けた。肩の浅い切り傷と、右前脚の打撲が、同じように目についた。見たいとは思わなかった。
ガルが身体を振る。その前に、切れた毛が右へ散る像が一瞬だけ見えた。遅れて、本当に毛が散った。
未来視。
見えたからといって、何かをする必要のない短い先だった。自分の状態を開く。
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【大月 在真】
種族:人間
種族格:I
Lv:20
職業:処刑者・第二段階
HP:2,180/3,290
魔力:940/940
攻撃:1,300
防御:830
素早さ:1,210
器用さ:1,390
知力:1,160
感知:1,430
基礎戦闘力:約6,370
【武器】
天羽々斬 Lv18
武器能力:技量同調
【スキル】
テイムI/未来視鑑定III/ステータス改竄I
剣術III/熟練68%
【成長特性】
成長加速/大器晩成
【特殊適性】
四属性適性
【固有スキル】
幸運I
【称号】
初回記録×4
DP:1,000,000
【ガル】
種族:黒狼
種族格:II
Lv:22
HP:3,420/3,780
魔力:400/400
攻撃:2,040
防御:1,250
素早さ:3,390
器用さ:2,980
知力:580
感知:2,670
基礎戦闘力:約10,510
契約:主契約従魔
個別順位:対象外
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表示を閉じて立とうとすると、右脚が震えた。数字は上がっていても、踏ん張った太腿の痛みは残っている。ガルもすぐには歩かなかった。二人とも動けるのを待ち、黒鎧騎士の大剣を避けて広間の壁沿いに戻る。
奥の扉は開いていた。
見ない。
今日はもう進めない。石段を上がる途中、肩を動かすたびに黒鎧騎士の肘が当たった場所が痛んだ。裏庭へ出ると、まだ昼だった。明るさに目を閉じる。
閉じるより少し前に、ガルが隣で立ち止まる姿が見えた。




