第十二話 息を合わせる
もう一日、地上で休んでから戻った。四月三日の朝だった。スケルトンナイトは、前と同じ場所に立っていた。
俺だけが石扉から広い部屋へ入る。ガルは供給室の陰に残した。呼び出す合図は決めていない。突進が床の深い溝へ届いた時、ガル自身が動けるなら動く。それだけだった。
天羽々斬を下げ、騎士の正面へ立つ。
青い火が俺を捉えた。右足、左足の順に巨体が向く。大剣の切っ先が床から浮いた。
前回は、腰が沈んだ瞬間に逃げた。今度はもう半呼吸待つ。
床を蹴る音がした。
大剣の切っ先が近づき、右目の中で二本にぶれる。身体が逃げようとする。俺は左目で骨鎧の中心だけを見て、深い溝の直前まで動かなかった。
最後に右へ踏み切る。
大剣が左脇を通り、風圧で作業着が鳴った。騎士は溝を越えたところで止まり、向きを変えるため右足を開く。
ガルが石扉から飛び出した。
右後ろ脚へ低く噛みつく。野生時のように骨ごと引き倒せない。騎士の足が一瞬止まり、次の瞬間にはガルの身体ごと持ち上がりかけた。
その一秒で背後へ回る。
後頭部の下にある細い骨へ、天羽々斬を振り下ろす。〈剣術III〉が勝手に当ててくれるわけではない。足の置き場と刀の軌道がぶれにくくなるだけだ。俺は左目で一点を見た。
刃が入る。
細い骨の表面が割れ、黒い液体が飛んだ。だが、断ち切れていない。青い火は消えず、騎士の左肘が後ろへ振られる。
胸の前で鞘を立てる。肘が鞘へ当たり、俺は右の石柱まで飛ばされた。背中を打ち、息が詰まる。ガルも脚から振り落とされ、床を滑った。
スケルトンナイトがこちらを向く。
最初の一撃は通った。それでも倒せなかった。後頸部には黒い亀裂が残っている。もう一度同じ場所へ届けばいい。
騎士は突進しなかった。大剣を横に構え、歩いて距離を詰めてくる。さっきの誘導を繰り返すほど単純ではなかった。
俺は石柱の周りを回る。大剣は柱の反対側から届く長さがある。横薙ぎをしゃがんで避けると、ヘルメットの表面が刃にかすった。留め具が切れ、ヘルメットが床へ転がる。
右目の霞みが強くなる。頭を振らず、左目だけで大剣の根元を追った。
ガルが立ち上がる。左肩の包帯に赤い色が滲んでいた。俺が止まれと言っても、もう動いている。
騎士の左側を走り、噛みつく直前で身を引く。青い火がガルへ向いた。右足が追う。次にガルが反対へ切り返すと、重い上半身だけが遅れた。
俺は石柱の脇へ出て、刀の峰で鎧板を叩いた。
青い火が戻る。
最後に強く動いたものを追う。観察したとおりだった。
大剣が振り下ろされるまで待ち、石柱の陰へ転がる。刃は柱へ当たり、前の戦いでできた亀裂へ食い込んだ。石柱全体が震え、細かな砂が頭へ落ちる。
スケルトンナイトが大剣を引く。片腕では抜けず、両腕を高く上げた。
後頸部の亀裂が見えた。
ガルが右後ろ脚へ入る。噛みついてから、一秒も持たなかった。騎士の足が上がり、ガルの身体がまた床へ投げ出される。
俺は石柱を蹴り、背中へ飛びつくように踏み込んだ。
二撃目を、黒い亀裂へ重ねる。
刃が骨の半ばまで入る。騎士の背が反り、青い火が激しく揺れた。大剣を捨てた右腕がこちらへ伸びる。
刀を引き抜けない。俺は柄を両手で握り、身体ごと横へ倒した。
骨が裂ける。
亀裂の奥にあった青白い塊が露出する。人の首にはないものだ。ガルが騎士の右手首へ噛みつき、指先の向きを一瞬だけ逸らした。
俺は天羽々斬を抜き、三撃目を青白い塊へ入れた。
硬い感触のあと、薄い殻が割れる。青い光が刀身に沿って流れ、消えた。
スケルトンナイトの両膝が床へ落ちる。骨鎧が順番に崩れ、大剣を掴もうとしていた指も動かなくなった。
俺とガルは、すぐには近づかなかった。
青い火が戻らないことを確かめ、ガルが鼻先で床の匂いを取る。俺は刀を構えたまま、十まで数えた。
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スケルトンナイトLv18を討伐しました。
〈下層守護者区画〉を初回突破しました。
大月在真
獲得EXP:2,234
Lv:5 → 8
天羽々斬
武器Lv:5 → 10
ガル
獲得EXP:4,452
Lv:3 → 10
〈鑑定I〉が〈詳細鑑定II〉へ進化しました。
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スキル〈詳細鑑定II〉
解析条件を満たした対象について、能力値の範囲、装備、主要特性、弱点候補を照会できる。
未知の構造、隠蔽された情報、解析比が不足する項目は表示されない。
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表示が閉じたあと、倒れた騎士へもう一度鑑定を向ける。後頸部にあった青白い塊は、頸部接合と魔力核を兼ねていたらしい。弱点候補として文字が出たが、壊したあとに知っても次の一撃には使えない。
大剣の残した溝を跨ぐ。前はここを通り過ぎるだけで、右目が痛んだ。今は崩れた鎧の脇に立ち、ガルが来るのを待てる。床の溝も石柱の亀裂も、帰るために使えた。
ガルが手の届くところまで寄ってきた。俺はようやく刀を下げた。足と腕を止めてくれたあの一瞬がなければ、今もあの大剣の前にいた。
ガルの包帯へ触れる。牙は来なかった。傷は開いているが、深く裂け直してはいない。
「帰って巻き直そう」
ガルは崩れた騎士を見たあと、先に石扉の向こうへ歩き出した。




