第十一話 スケルトンナイト
下層入口区画から帰った夜、俺は騎士のいる広い部屋を紙へ描いた。
供給室へ戻る石扉から線を引き、奥壁の低い横穴と左右の石柱を置いた。大剣が床へ残した三本の溝は、歩数を思い出しながら長さを決める。最初に弾かれた場所へ丸をつけると、そのすぐ横に、右目を傷つけた石壁が来た。
線にすると、負けた理由が一つではないことが分かる。攻撃が通らなかった。帰路を塞がれた。見えていた隙間へ刃を入れる技量もなかった。何より、倒せないと分かってからも傷を残そうとして逃げ遅れた。
向かいに伏せていたガルが、紙の上へ前脚を置いた。ちょうど部屋の右側だった。
「そこから来たのか」
ガルは前脚を動かさない。偶然かもしれないが、右側には騎士が身を隠した石柱がある。
翌朝、戦うためではなく、確かめるために戻った。
供給室から石扉を覗く。スケルトンナイトは部屋の中央に立っていた。最初の戦いで肩鎧につけた白い筋が、頭灯の光に浮かぶ。鎧に欠けたところはなく、動きに不自由も見えない。
ガルには帰還通路側へ残るよう手で示した。今度は従い、石扉の陰へ身体を伏せる。左肩の傷が治り切っていないことを、ガル自身も分かり始めていた。
俺は部屋へ入らず、床の小石を一つ投げた。
スケルトンナイトの首が音へ向く。次に身体が回る。頭と胴が同時ではない。青い火がこちらを捉えてから、右足、左足の順に向きを変える。
もう一つ、小石を右の石柱へ当てた。
頭が右へ動く。身体が半分だけ追う。俺が石扉の前へ出ると、首だけが戻った。複数の音を考えて選んでいるというより、最後に強く動いたものを追っている。
腰が沈んだところで、俺は供給室へ戻った。
突進した巨体が石扉の手前で止まる。狭い室内へ無理に入らず、大剣だけを横へ振った。刃が扉の縁へ当たり、前からあった傷を深くする。
大剣を引き戻す時、スケルトンナイトは両腕を高く上げた。後頭部の下、首の後ろに鎧のない細い骨が見える。
弱点だとは表示されない。肩や膝より細く、刃を入れやすそうに見えただけだ。
俺はそれ以上試さず、ガルと地上へ戻った。
居間の紙へ、首の後ろと書く。次に、三本の床の溝を測った歩数でつなぐ。最も深い溝は石扉から七歩。騎士が突進を止め、方向転換のために足を開く場所と重なっていた。
ガルへ紙を見せても意味はない。俺は畳の上に工具箱と椅子を置き、部屋の位置を作った。
「俺が正面に立つ」
工具箱を騎士に見立て、椅子を石柱にする。自分は石扉側。ガルは最初、動かずに見ていた。
「ここへ走らせる。避けたら、向きを変える右脚を止めてくれ」
ガルの右前脚を指さし、それから工具箱の右後ろへ手を置く。命令の言葉が通じなくても、位置なら伝えられるかもしれない。
俺が工具箱の前を通り、右へ回る。ガルは左へ動いた。
「反対だ」
もう一度やる。今度はガルが先に工具箱の右へ回り、俺が遅れた。三度目は同時に動き、廊下へ置いていた水の鍋をガルの尻尾が倒した。
畳へ水が広がる。
ガルは俺を見たあと、濡れていない場所へ座った。
「拭くのは俺か」
返事はない。
水を拭き、今度は椅子も鍋も使わずに繰り返した。俺が正面から右へ抜け、ガルが逆側から後ろ脚へ入る。三度続けて同じ位置へ動けたところで終わる。
右目を閉じて同じ動きをすると、工具箱との距離を取りすぎた。開けば位置は合うが、急に振り向いた時だけ床が二重にずれる。完治したつもりで速く動けば、騎士ではなく自分の足へ引っかかる。
畳の縁へ養生テープを貼った。ここを越えたら、首へ届かなくても離れる。もう一本は、ガルが噛みつく場所。勝つための線と、逃げるための線を同じ色にしない。
六度目、俺が足を滑らせた。ガルは工具箱へ向かわず、倒れかけた俺の肩へ鼻先を当てた。
違うと言いかけてやめる。実際の部屋でも、予定どおりに動けなくなるのは俺かもしれない。最初からやり直し、今度は途中で立ち止まる動きも混ぜた。ガルは二度目には工具箱へ行かず、俺の前へ残った。
ガルが止められるのは、一秒か二秒だ。野生時のように騎士の腕へ噛みつき続ける力はない。その間に俺が首の後ろへ届かなければ、二人とも大剣の近くへ残される。
天羽々斬を抜き、刃を確認する。肩鎧へ当てた場所に小さな曇りがあった。砥石を使い、角度を変えずに何度も研ぐ。
準備をすれば勝てるとは思わない。
それでも次は、何も知らずに広い部屋へ入るわけではなかった。




