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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第一章 家の裏の骨塚

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第十話 三体

 翌日は、ガルと家にいた。


 ガルの包帯を替え、食事を二度に分ける。左前脚を床へつく時間は少しずつ長くなったが、走ろうとすると肩が落ちた。俺の右目も、頭を急に動かせば景色が二重になる。


 その次の朝、装備を整えて勝手口へ向かうと、ガルが先に立った。


「今日は見るだけだ。無理なら戻る」


 ガルは鼻先で戸の下を嗅ぎ、開くのを待った。


 石段を下りる足取りは、野生時より明らかに遅い。ガル自身もそれを分かっていないようで、最初の踊り場を飛び越えようとして前脚を滑らせた。何事もなかったように立ち直ったが、次からは一段ずつ下りた。


 供給室へ直接行かず、帰還通路の途中にある割れ目へ入る。ガルが使っていた迂回路には、途中で下へ折れる枝道があった。前回は負傷した身体を運ぶことで精一杯で、気づかなかった場所だ。


 枝道の前で、ガルの耳が立つ。


 一度、鼻を鳴らす。少し間を置いて二度。数を伝えているのかは分からないが、奥に一体ではない何かがいる。


 俺は予備灯を枝道の入口へ置いた。頭灯を失っても、帰る方向に光が残る。天羽々斬を抜き、ガルには自分の後ろを指した。


「見つけるのは任せる。戻る道は俺が空ける」


 ガルは従わなかった。俺の後ろではなく、左の壁沿いへ進む。正面を譲りながら、別の匂いを取れる位置だった。


 枝道の先は、三方を低い石壁で囲まれた区画へつながっていた。中央にスケルトンが一体。右の窪みにもう一体。ガルの視線は、左奥の暗がりへ向いている。


 三体目がいる。


 一体目だけを見て踏み込めば、左右から挟まれる配置だった。


 俺は入口から動かず、天羽々斬の峰で石壁を叩いた。中央のスケルトンが短剣を抜く。右の一体も顔を向けた。左奥では、骨の足が床を擦る。


 三体が同時に来る前に、俺は枝道の口まで下がった。幅は一人と一頭が並べないほど狭く、正面から来られるのは一体ずつになる。ガルは区画側の壁際に残り、俺へ向かう骨の脚を見ていた。


 最初のスケルトンが短剣を突き出す。前回より遅く見えたのは、Lvが上がったからではない。同じ動きを一度受けたからだ。右手、踏み込む足、肋骨の向き。順に見ると、刃が来る場所を早く読める。


 短剣を刀の側面で外し、膝の接続を斬る。崩れた骨格の首へ二撃目を入れた。青い火が消える前に、背後の二体目が一体目を踏み越えてくる。


 骨の山に足を取られ、動きが止まった。


 俺は胸元を斬らず、短剣を持つ右腕の接続を落とす。返す刃で首を狙ったが、右目の霞みで半歩ずれ、肩甲骨へ当たった。


 二体目の左手がヘルメットを叩く。硬い音が頭へ響いた。衝撃は防げても、視界が揺れる。


 ガルが横から骨盤へ噛みついた。


 野生時のように身体ごと投げる力はない。それでも二体目の腰が引かれ、俺から離れる。俺は左目で首の位置を捉え直し、頸骨を断った。


 ガルがすぐに牙を離す。三体目の姿がない。左奥で骨の足音が続いていた。低い石壁の陰に抜け道があり、予備灯を置いた退路へつながっている。二体を相手にしている間に、そちらへ回られていた。


「そっちを止めろ」


 ガルは俺の声より先に走っていた。


 正面から飛びかからず、スケルトンと予備灯の間へ身体を入れる。牙を見せ、左右へ細かく動く。スケルトンが短剣をガルへ向けるたび、戻る道が一瞬ずつ空いた。


 俺は二体目の骨を越え、低い石壁の脇から抜け道へ回った。ガルに気を取られている背後へ入り、短剣を持つ肘を斬る。刃が落ちると同時にガルが左へ退き、俺が前へ出た。


 露出した首へ一撃を入れる。


 三体目の頭蓋骨が床へ落ちた。


 ガルは倒れた骨へ近づかず、枝道の奥へ鼻を向けた。まだ敵がいるのかと刀を構え直したが、耳は伏せていない。区画の奥にあった灰色の膜が、音もなくほどけ始めていた。


 下へ続く石段が現れる。


――――――――――


通常スケルトン三体を討伐しました。

〈下層入口区画〉を初回突破しました。


大月在真

獲得EXP:810(〈下層入口区画〉初回突破報酬を含む)

Lv:1 → 5


最大HP:300 → 570

魔力:130 → 210

攻撃:230 → 320

防御:100 → 160

素早さ:180 → 260

器用さ:200 → 290

知力:190 → 270

感知:190 → 280


天羽々斬

武器Lv:1 → 5


ガル

獲得EXP:156

Lv:1 → 3


最大HP:1,700 → 1,790

魔力:190 → 200

攻撃:1,000 → 1,040

防御:630 → 660

素早さ:1,660 → 1,730

器用さ:1,420 → 1,490

知力:300 → 320

感知:1,280 → 1,340


刀剣を用いた実戦経験が発現条件を満たしました。

蓄積済みの実戦経験から段階を判定します。

スキル〈剣術III〉を取得しました。

熟練:20%


――――――――――


――――――――――


スキル〈剣術III〉


刀剣を用いた攻撃、受け流し、足運びを補正する。

補正量は熟練に応じて上昇し、III段階では最大35%。


――――――――――


 熱が身体を通り過ぎる。肩の痛みや右目の霞みが消えたわけではない。それでも刀を握る指と足裏の感覚が、さっきまでより近くなった。


 ガルも身体を震わせ、左前脚を床へついた。傷が治ったわけではない。けれど、体重をかけても肩が落ちなくなっている。


 現れた石段の先から、乾いた風が上がってきた。


 俺は先へ下りず、予備灯を拾った。三体の位置、ガルが見ていた左奥、退路へ回った三体目の道を紙へ書く。


 勝てたから進むのではなく、戻ると決めていたところで戻る。


「今日はここまでだ」


 ガルは下り階段を一度嗅ぎ、それから俺より先に帰還通路へ向かった。

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