第97話「群」
「……まだ終わりじゃねぇ」
視線の先に、“それら”がいる。
ひとつではない。
複数。
だが数を数える意味はなかった。
「……増えたな」
数だけじゃない。
空気の質が違う。
さっきまで相手にしていた“それ”と同格のものが混ざっている。
その中には、さらに一段上にいるとしか思えない気配まであった。
「……上もいるな」
背後で神崎が息を呑む。
「……マジかよ。今の倒して終わりじゃねぇのか」
レオンの声は低いが、さすがに緊張が混じっていた。
「……これは別だ。判定がひとつ終わって、次の層が開いたと見るべきだな」
「……だな」
短く返す。
けれど、嫌な感じはなかった。
面倒ではある。
だが、引く理由にはならない。
「……いい」
少しだけ笑う。
「……まとめて来い」
その瞬間、“それら”が同時に動いた。
前触れはない。
気づいた時には、空間が薄く剥がれ、時間の流れがいくつもにずれ、存在そのものを削るような圧が周囲から押し寄せていた。
「……来るぞ」
踏み込む。
回避。
だが、一つを避けても次が来る。
「……多いな」
ひとつひとつは読める。
だが、重なり方が厄介だった。
連続というより同時。
別々に処理させることで、こちらの認識そのものを裂きにきている。
神崎が舌打ちする。
「これ無理だろ! 避けても避けても次が来る!」
レオンが前へ出る。
「……分散しろ。ひとつに集中されるな」
「……ああ」
返事をして、一体へ絞る。
「……一つずつだ」
斬る。
「——斬る!」
——ガキンッ!!
衝突。
手応えはある。
削れもする。
「……通る」
だが、次の瞬間には背後に別の気配が生まれる。
「……来る!」
身をひねって避ける。
避けた先に、さらに別の“それ”がいる。
「……キリねぇな」
その言葉を口にした瞬間、逆に違和感が強くなった。
「……違うな」
動きを止める。
完全にではない。
ほんの一拍、呼吸を浅くして意識を引いた。
攻撃の順番。
消える位置。
圧が戻っていく先。
別々に見えるのに、全部同じ奥へ吸い込まれている。
「……戻る場所があるな」
レオンがすぐに反応した。
「……気づいたか」
「……ああ」
複数に見える。
だが、動いたあとの残り方が同じだ。
「……奥が一つだ」
神崎が叫ぶ。
「マジかよ! だったら最初からそう言え!」
「……今分かった」
視線を走らせる。
その瞬間、わずかに空気の戻りが遅い場所が見えた。
他より深い。
他より重い。
すべてのズレが、そこへ戻っていく。
「……あそこだ」
「本体か」
「……たぶんな」
笑う。
見つかったなら話は早い。
踏み込む。
他は無視。
一直線。
「……邪魔だ」
斬る。
押し切る。
削る。
まとわりつく別個体を振り払うたび、中心の濃さがはっきりしていく。
「……届く」




