第95話「本質」
「……ここからだ」
“それ”が変わる。
形。
今まで曖昧だったものが、ゆっくり固定されていく。
輪郭。
構造。
「……固定されるな」
「……人型か」
神崎が息を詰める。
だが、在真はすぐに違和感へ気づく。
「……違うな」
密度が違う。
神崎が低く漏らす。
「……これ、さっきまでのと別物だぞ」
レオンが短く言った。
「……本来形態だ」
「……なるほどな」
在真は笑う。
「……やっとか」
“それ”がこちらを見る。
『本質解放』
その瞬間、空間が消えた。
時間も消える。
「……っ」
完全な“無”。
さっきまでいた層すら、足場として残っていない。
立っている感じだけを、自分で掴んでいないと、そのままほどけそうだった。
息を吸ったつもりなのに、胸に何も入ってこない。
脚を踏ん張っているはずなのに、その感覚が薄い。
だが——。
「……問題ねぇ」
存在だけで立つ。
「……ここでも動ける」
踏み込む。
距離がない。
位置も曖昧だ。
それでも、斬りに行く意志だけは真っ直ぐ通る。
自分の体より先に、そっちへ向かう感じだけが残っている。
体がついてきているのか、自分だけ先に出ているのかもよく分からない。
それでも止まるほうが鬱陶しかった。
「……関係ねぇ」
「——斬る!」
——ガキィィィンッ!!
完全な衝突。
今までよりも、はっきり重い。
「……重いな」
笑う。
「……やっと戦いになる」
“それ”が動く。
速い。
だが——。
「……見える」
回避。
同時に斬り返す。
「——斬る!」
——バキィッ!!
削れる。
今までより明確に。
「……通るな」
“それ”が初めて大きく揺れた。
『……同等判定進行』
「……遅ぇな」
笑う。
「……もう超えてる」
踏み込む。
連続。
「……全部重ねる」
——ガキンッ、バキッ、ドンッ!!
削る。
押す。
崩す。
“それ”の本質へ届くたび、この場所の静けさが薄く揺れた。
剣を構える。
最後の距離。
ここで決まる。
ここで通せなければ、また何かを削られる。
そういう嫌さだけは、妙にはっきりしていた。
何を落とすのかは分からない。
でも、次はもう戻ってこない気がした。
「……ここで決める」
“それ”も動く。
全力。
完全な衝突。
「——斬る!」




