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地底より、トラブルを  作者: 尻毛又丸
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第四章 交差する想い、別れの言葉

 日が沈み、空が一割の赤橙色と九割の暗紫色のグラデーションで染まった、いわゆる黄昏時。

 ソフトボール部の練習を終え、着替えて帰り支度をする。

「はあ~。終わったぁ」

 全身に疲労が蓄積していることを感じつつ、私は部室を出た。

 あ~、何か帰りたくないなぁ。

 ――なんて言うと、家庭のことで悩みがある人の様に誤解されるかもしれないが、疲れていて歩くのも億劫だというだけの事だ。

 家までの道は歩いて三十分。

 部活仲間で同じ方角の子が誰もいないので、独りで三〇分間歩き続けなくてはならず、これが疲れている時には結構堪えるんだよね。

 部活が休みの日は優や綾子と途中まで一緒に帰るので、その三〇分間もあっという間に過ぎて行くんだけどね。

「――あ、桃ちゃん。部活終わったの?」

 優のことを考えていた為か、校門を通った所で彼女の声の空耳が聞こえてきた。

「ちょっ、ちょっと!無視しないでよー!」

 校門を通り過ぎた私は後ろからタックルを受けた。

「え……あ、本物!?」

「何を言ってるの?」

 呆れた顔をする優。

「えっ?えっ?えっ?」

「桃ちゃん、何それ?どっかの天然記念物の鳴き真似?」

「違うって。何で優がまだ学校にいるのよ?」

 優は文化系の部活にも体育会系の部活にも属していない……つまり、帰宅部だ。こんな時間まで学校に残っている事なんて滅多にない。

「実はねぇ、等村先生に呼び出されてたんだ」

 等村先生とはうちのクラスの担任。二五歳の爽やかで人気のある美術教師だ。

「呼び出し?どんな用事で?」

「……聞きたい?」

 ずん、と一気に沈んだ雰囲気を出す優。何があったんだろう。

「禁断の――ってヤツだよ」

 普段と違い、小さく歯切れの悪い声でしゃべる優。

「禁断の?」

「そう、先生と女子生徒が放課後に……このシチュエーションなら、もう説明しなくても分かるでしょ?」

「え……あ……えええええ!?」

 優の言っている事を理解し始め、動揺しまくる私。

「……結局、先生って言っても結局『男』なんだよね」

「ちょっ!何されたの!?」

 事と次第によってはいくら担任でも許せない、そんな思いで優に詰め寄る。

「それは……」

 優らしくない、暗い顔で私をじっと見つめる。

「……優…………」

「……………………ぷっ」

 その表情がいきなり反転し、吹き出す優。

「…………ゆ、優?」

 何が何だか分からず私は戸惑った。

「あははははははは。何もされてないに決まってるじゃない」

「何も……されてない?」

 腹を抱えて笑い出す優。

 その目には涙まで浮かんでいる。

「本当は、美術の課題の絵が私だけまだ出来上がっていなかったから居残りさせられてただけだよ。それなのに、あははははははは」

「……騙したのね?」

 私の中で優の事を心配していた気持ちが、そのまま騙されたことに対する怒りと、変な想像をしてしまったことに対する恥ずかしさに変わった。

 しかし、優は手を横に振って、

「別に騙してなんかいないよぉ。先生と女子生徒が放課後にすることって言ったら当然、居残りでしょ?」

「でも、『禁断の――』って言ったのは?」

「私の絵のタイトル『禁断の一瞬』って言うんだー」

「なっ……じゃあ、『先生と言っても結局男』ってのは?」

「それはね、私の絵に出てくる男の人のモデルを先生にやってもらってたって事……つじつまは合ってるでしょ?」

「合ってる……けど……」

 怒りの全てが受け流された感じがしてものすごく悔しい。

「でも、あんなことを真に受けるなんて、桃ちゃんって素直って言うか、単純って言うか……ホントからかい甲斐があるなぁ」

「……うるさい!」

 拗ねた口調で私は言った。

「ホントに心配したんだから……」

「あはは、ごめんね」

 ちょっとだけ反省したように優が謝った。

 ふぅ……でも、冷静に考えると、嘘でホントに良かったと思う。

「――あ、ところでね」

 その後もしばらく優は私をからかいながら歩いていたが、ふと何かを思い出したかのように話題を変えた。

「最近、学校に流れている噂、知ってる?」

「噂?怪談とか?」

 首を横に振る優。

「何でもね、ある生徒が学校の帰り道に誰も住んでいない廃屋を通ったときにね、その廃屋の中からガタ、ゴトって音がしたらしいの」

「……猫か何かじゃないの?」

「うん、その子もそう思って素通りしようとしたらしいの。その日は部活帰りで日も暮れていたし、早く帰りたかったみたいなの。でも、通り過ぎた所で、何だかとってもその音が気になってきて、振り返ったらしいの。そしたらなんと、その廃屋の窓に明かりが点いたんだって……もちろん、その家には誰も住んでいないから、電気もガスも当然止められてる。不思議に思ったその子が戻って窓から廃屋の中の様子を覗いてみると――」

「って、やっぱり怪談じゃない!」

 話が盛り上がった所で私はそれを遮った。

 私はこの手の話が、その、あまり得意ではないのだ。

「またからかおうとしてるんでしょ?」

 しかし、優はまたしても首を横に振り話を続けた。

「そうじゃなくて……その子の目に映ったのは、身長三〇センチ程度のまるで生きたようにしか見えない動く人形だったらしいの」

「それって、まさか……」

 私の家にいる二人の影が私の脳裏に現れた。

「うん、ひょっとしたらルーク君達と同じ地底人じゃないかって思って。話によると四、五人はいたらしいから――」

「ルーク達じゃあない、か」

 じゃあ一体誰だろう、と首を捻る私に一人だけ思い当たる人物がいた。

 この間出会った口に機関銃を持った少女だ。

 あの子と会ったことで私たちは地上に出てきている地底人はルークとカリュだけではない事を知った。

「それで、その廃屋ってどこにあるの?」

「うん、三丁目の工場の近くって聞いたけど」

「三丁目……家から結構近いわね」

 今度、ルーク達と行ってみよう。同じ地上に来ている地底人だ、ルーク達なら会ってみたいと言うだろう。

そうこう考えている内に大きめのガソリンスタンドの前の大きな交差点に差し掛かった。

ここからは家の方向が違うため、この交差点を私は右に、優は左に分かれることになる。

「バイバイ桃ちゃん。また明日ね」

「うん、また明日」

 手を振って別れる。

 ここから家まではもう五分もかからない距離だ。やっぱり友達と話しながらだと時間が経つのが早く感じるなぁ。

「おい、そこの女」

「え?」

 突然の後ろからの声に私はビクッとした。

「誰――」

 振り返るより早く、がっ、と鈍い衝撃が私の首の後ろを襲った。

「ぐっ…………」

 状況を何も理解できず、意識が遠のいていくことだけが分かった。

 そして、意識が途切れる寸前、

「これ……くの………か?」

「……かい……」

「……も……じょ……っす」

 複数の声が耳に届いたが、感覚が薄れていく中その内容は理解できず、全てが闇に閉ざされた。


 ぎし……ぎし……

 木、というか、木材の軋む音で私の意識は目覚めた。

「うぅん……ここは?」

 目を開くと、見覚えのない暗い部屋で横向きに寝転がされているという自分の状況が分かった。

「何でこんな所に……ん?」

 起きあがろうとする私を何かが妨げた。

 首を捻って自分の体を見ると、両腕が縄で結ばれており、その縄がすぐ近くの壁に繋がっていた。

「何これ……あ!」

 意識を失う寸前の記憶が蘇った。

 確か優と別れた後、誰かに声をかけられて、殴られて気を失ったんだっけ。

 ひょっとして、これって誘拐?

 ――いや、ひょっとしなくても間違いなく誘拐だろう。

って事は、身代金とか要求されたりするのかな?

まいったなぁ。家の家計に大金を支払うような余裕なんてないんだけど……ってお金の心配よりまず自分の身の心配をするべきだよね。

私は意外と冷静な自分に驚いていた。

「――目が覚めたか?」

 声がして、突然部屋に明かりが灯った。

 暗かった部屋になれていた私の目にはその光は強すぎて痛い。

 目が明るさに対応し始めると、数人の人影が部屋に入ってきた。

「――って、小っちゃ!」

「小っちゃいとは何だ!貴様がデカすぎるだけだ!」

「そうだそうだ」

 私に言葉に反発する彼らは、ルーク達と同じ地底人の様だった。

 全部で四人、中央のリーダーっぽい人がおっさんなのは分かったが、他はみんな覆面をしていて性別すら分からない。服装は全員黒い軍服の様な物で統一されている。

 これはひょっとして、さっき優が言っていた噂の地底人達ってこいつらの事かな?

 しかし、こうして小人に縛られるってどこかで聞いたことのあるような話……あ、『ガリバー旅行記』か。

「え、えっと……?」

「ふっふっふ。女、我らの事を聞きたいか」

「あ、それは別にいいわ」

「興味持たんか!」

 私がきっぱりと断ると、何故だか怒り出すおっさん地底人。

 そして、おほん、と咳払いを一つして勝手に語り始めた。

「オレの名はデビス・バーグ。地底王国『トランスエッジ』の第九憲兵隊隊長だ。そして、こいつらがオレの部下の覆面A、B、Cだ!」

「ちゃんと名前で紹介してやりなよ。覆面の下の瞳がとっても悲しそうだよ、あんたの部下達」

「ふんっ」 

 とデビスは鼻息一つ返すだけ。

 なんだか、この覆面達に同情してしまうなぁ。

 それにしても、憲兵隊か……それってルーク達のことを追っている人たちの名前だよね。

 何で、私がルーク達を匿ってる事を知ってるんだろ……ってのは愚問か、結構騒ぎ回ってルーク達を目撃している人も多いはず。調べようと思えば簡単に調べられるのだろう。

「ふっ、その顔ではどうやら憲兵隊の事は知っているようだな。ならば、我らの目的も知っているだろう?」

「目的……ナンパとか?」

「違う!そのような卑猥な目的ではないわ」

 とぼけてみせると期待通りの反応を示すデビス。

 優や、綾子がよく言っている「からかい甲斐のある」とはこういう事か。いつもはからかわれる側だから分からなかったけど、意外と楽しいかも。

「いいか!我らが地上に来た目的はズバリ極悪人ルーク・アイソトープとカリュキュール・レイトを『トランスエッジ』憲兵隊の正義と威信の為に逮捕することだ!」

私はやや冷めた目でデビスを見つつ、

「……で、私を誘拐したのもその正義と威信のためなの?」

「ふっ、お前は奴らを逮捕するための人質だ」

「はぁ、なんか正義とか言いつつ、なかなか卑怯な事するのね」

「効率の良いやり方だと言ってもらおう。これは誰に迷惑をかけることもなく、最低限の労力で最大限の効果を発揮する優れた手段だぞ」

「……私にはすっごい迷惑かかってるんだけど?」

「黙れ!地上人の――それも、あの忌々しきルーク・アイソトープを匿うようなヤツをするようなヤツの事を気にかけてやる法など我らにはないわ!」

 唾を撒き散らしながら熱苦しく語るデビス。

 うわぁ、なんだか滅茶苦茶なおっさんだな。

 ――それにしても、ルークの名前を言うときだけやけに力が入っているのは何故だろう?

「ねぇ、ルークに対して何か恨みでもあるの?」

「ふんっ、そのような事貴様にせつめいしてやる必要などないだろうが!」

 突き放すように言うデビスの横にいた覆面の一人が近づいてきて私に耳打ちをした。

「あのですね、隊長はもともとメタリックウイング史上最高のゴールデンペアと呼ばれたルーク・カリュの大ファンだったんですよ。それなのにいきなり二人がレースをやめて姿を消しちゃったから」

「覆面A!何を話とるか!」

 デビスに叱咤され、慌てて戻っていく覆面A。

 なるほど、このおっさんがルークを憎んでいるのはそういうことか。例えるなら、プロ野球で三冠王を取った選手が翌年いきなり引退してしまうようなものか……大ファンであるが故に失望も大きく、それが憎しみに転化したんだろう。

 でも、それは結局ただの逆恨みのようなもの。多少の理解は出来ても、絶対に共感する事はできない。

「とにかく!ヤツ等にはもう手紙を出しておいた。『地上人の女を返して欲しければここに来い』と、地図付きでな!もうすぐ来るだろう!」

 ファンファンファン。

 良いタイミングで警報が家中に響いた。

「た、隊長!ルーク達の反応っす」

「覆面Bよ、落ち着け。こっちには人質がいるのだから大丈夫だ!」

「……来ます」

 覆面Cがポツリと言う……あ、この人だけ女性なんだ。

「わっはっはっはっはっはっはっは!」

 部屋の扉の向こう側からルークのとても演技っぽい高笑いが聞こえた。

「この世に我らがいる限り、貴様等のような悪は許してはおけない!」

 そこで、どんっ、と扉が勢いよく開いた。

「迷惑戦隊トラブルスリー参上!」

 今流行の戦隊ヒーローの真似をして扉の向こうでポーズを取るルークとカリュ。

 ノリノリなルークとは違い、カリュはかなり恥ずかしそうにしている……やりたくなかったんだろうなぁ。

それにしても、迷惑戦隊って、どんなのよ……いや、その前にトラブルスリーって割に二人しかいないじゃない……あ、トロッキーも入れてスリーか。

周りを見ると私と同様、デビス達も唖然としていた。

「今だ、カリュ!」

「うんっ!」

 呆気にとられていた憲兵隊の隙を突いてカリュが発煙筒を部屋に投げ込んだ。

 瞬く間に煙が部屋中に広がり、視界が非常に悪くなる。

「うわわわわわわわ?」

「た、隊長!見えません!」

 パニックになる憲兵隊。

「もも、大丈夫か?」

 煙で何も見えない中、ルークの声がすぐ近くで聞こえ、プツッという感触がして私を拘束していた縄が切られた。

「ありがと」

「きゅおおおお」

 服の袖を咥えて誘導しようと引っ張るトロッキーに私はついて行き、部屋から、そして廃屋から無事に外に出た。

 私と目が合ったルークが満面の笑みを浮かべた

「よっしゃ!奇襲作戦大成功!」

「あの発煙筒、あたしが発明したんです。ちっとも煙たくなかったでしょ?」

 珍しく自慢をするカリュも興奮しているようだった。

 確かに、あれだけの煙が出ていた割に喉とか全く痛くないな。

「あ、でも、ごめんなさい、ももさん。あたし達の所為でこんな事に巻き込んじゃって」

 しかし、自慢げな顔は一瞬で申し訳なさそうになった。

「何言ってるの。不用心すぎた私がドジだっただけだし……っていうか、悪いのはあの憲兵隊の連中でしょ」

「ももさん……」

「気をつけろ!憲兵隊が出てくるぞ!」

 ルークが大声で注意を促すと同時に廃屋の二階、さっき私が捕まっていた部屋の窓が割れて、憲兵隊が姿を現した。

「ふっふっふっふ。ここであったが百年目、今日こそ観念しろ!ルーク・アイソトープ!」

「百年目?」

 気合いが入っているデビスに対し、ルークは困った表情になった。

「百年も何も初対面じゃないのか?」

「何!貴様、このオレを忘れたと言うのか!?」

 血管を浮かばせ怒鳴るデビス。

「二年前もメタリックウイング決勝戦で優勝したお前にサインをもらいに行っただろうが!」

「覚えとれるかぁ!そんな事!」

「そんな事だと!?握手までしてもらったんだぞ!ファンの顔くらい全て記憶するのがスターというものだろう!?」

「ボス、それはちょっと無茶ですよ」

 部下にまでツっこまれる始末……なんだかなぁ。

「と、とにかくだ!貴様等は応援していたファンを裏切ったのだ!」

「くっ…………」

 ファンを裏切った、その言葉に一瞬罪の意識を感じ、顔を歪ませるルーク。

「ふんっ、まぁ、それはこの際置いといて……ルーク・アイソトープ、カリュキュール・レイト!脱地底法違反の罪で逮捕する!」

「へんっ、やれるもんならやってみろ!」

 舌を出して挑発するルーク。

「ふっ、その言葉、後悔するがいい!出でよフォルティッシモ!」

 デビスがパチンと指を鳴らすと、廃屋が振動をし始め、轟音と粉塵を撒き散らしながら崩れた。

 そして、その粉塵の中から現れたのはメタリックなボディーの巨大ロボットだった。

「……な……な……」

 びっくりして私たちは言葉も出ない。

 ロボットは身長がだいたい十メートル強、廃屋よりも少し大きい。

 私から見ても巨大なその体は、ルーク達から見ればもっととんでもない大きさに見えているはずだ。

 そのロボットの足下で胸を張るデビス。

「どうだ!これが地底人の技術を結集して作った巨大ロボ、フォルティッシモだ。ふっ、言葉も出んようだな。だが驚くのはまだ早い!」

 ロボットが右手を上げると、その手に付いていた筒状の先が光った。

 どぉうっ――一瞬遅れて私たちから少し離れた地面に半径一メートルくらいのクレーターが出来た。

「じゅ、銃!?」

「反則だろ、それは!」

 非難する私たちの言葉など通じず、ロボットはその手をこっちに向けてきた。

 勝ち誇ったかのようにデビスが笑う。

「さあ、選べ!このままこいつで大けがを負うか、それともおとなしく逮捕されるか!」

「どっちもごめんだ」

 勇気を振り絞って断るルーク。

「そうか…………やれ」

 デビスの号令と共に、ロボットの銃が再び火を噴いた。

「くそっ、カリュ、もも、逃げるぞっ!」

言うが早いか、ルークはトロッキーを反転させて全速力で逃げ出した。

私も駆け足でルーク達についていく。

「逃がすかっ!追え、フォルティッシモ!」

「ボス、それは出来ませんよ。ろくに充電していないんですから走らせる事なんて出来ませんよ」

「何だと!?何でちゃんと充電しておかなかった」

「それが、どうもこの屋敷は電力の供給がなされていない様でして……」

「ぐぬぬぬ」

 背中の方からデビスの悔しそうなうめき声が聞こえた。

 どうやらあのロボットは追いかけては来ないみたい。

「助かったぁ」

安堵の表情を浮かべながら、それでも足は止めずに私達は家へと向かった。


家に戻り、自室に入った私はそのまま着替えもせずに布団に倒れ込んだ。

「疲れたぁ~」

このまま目を閉じればインスタントラーメンを作るより早く眠ってしまいそうだった。

汗掻いてるし、シャワーでも浴びたいんだけど……ダメだ、どうしても睡魔に勝てず、起きあがる事が出来ない。

まぁ、少し寝てから浴びればいいかな?

「もも」

 耳元でルークが呼んだ。

 ん~、眠いし出来れば話しかけないで欲しいんだけど。

「ごめんな俺たちの所為でももにまで迷惑を掛けてしまって」

 意識が白濁とし始めた私は、適当に口を動かした。

「何言ってるの。さっき言った様に、悪いのは憲兵隊の連中でしょ」

「でも――」

「それに、あんた達が来てから大変な事件ばかり起きてるし、今更あれくらいなんでもないわ」

「そうか……」

 ダメだ、もう意識が持たない。

「やっ……俺……」

 なにやらロイが喋っていたが、朦朧とする意識の中ではその内容を理解する事は出来ず、私は眠りについた。


 窓から差し込む強い光を顔面に受け、私は目を覚ました。

「うぅん……朝か……って、朝!?」

 びっくりして跳ね起きた私は、すぐに時計みて時間を確認する。

 時計の針は一直線で六時ちょうどを示していた。

 昨日帰ってきたのが、確か夜の八時頃だったから、十時間も寝てた事になるんだ。

 ちょっと仮眠を取るだけのつもりだったんだけど、よっぽど疲れてたみたいだね。

 寝過ぎてしまった、と軽く後悔したけど、私はすぐに気持ちを切り替える。

 過ぎた事は仕方がないし、いつもより早く起きたため、とりあえずシャワーを浴びる余裕はある。

 気持ちが前を向いた所で、私はある事に気付いた。

「あれ?ルーク?カリュ?」

 いつもは私の机の上で寝ている二人の姿が見えない。

 代わりに、白い親指くらいの大きさの紙が置いてあった。

 手に取って見ると、極めて小さな字が書かれていた。

 見難い!って、身体の大きさが小さいんだし、字も小さくなって当然なのか。

 私は目を凝らして、

「………………え?」

 一瞬、そこに書かれている言葉の意味が理解できなかった。

 私は、しばらく何も考えられずに呆然と立ちつくした。

 その紙には、

『今まで迷惑かけて悪かった。さようなら』

 と書かれていた。


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