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第八話 元朝の黄金要塞

第八話 元朝の黄金要塞




第一章 記録にない城


「先生、地図にない都と、記録にない城では、どちらが厄介でしょうか」


イブン・ジュザイイの問いに、イブン・バットゥータは朝食の皿から目を上げた。


「城のほうだ」


「なぜですか」


「都なら、誰かが住んでいるかもしれん。城なら、誰かが守っている」


「記録にない城を、誰が守るのでしょう」


「記録にない城を探す者から、だろうな」


老人はパンをちぎり、口へ運んだ。


二人が滞在していた港町には、東方から来た商人が集まっていた。絹や香料を扱う者、馬を売る者、遠い国の王の噂を売る者。最後の商売は、品物を運ぶ必要がないぶん、利益率がよいらしかった。


前日、黄金の都について語った商人は、今朝も港に姿を見せた。


「新しい話を聞きました」


男は、挨拶より先にそう言った。


バットゥータは、ため息をついた。


「昨日の話は、もう古くなったのか」


「昨日の話に、続きが見つかったのです」


商人は革袋から一枚の紙を取り出した。


「元朝の領土に、黄金で飾られた要塞があったそうです。そこには、皇帝の命令さえ届かなかったといいます」


「皇帝の命令が届かないのなら、誰の命令が届いたのだ」


「その点は、わかりません」


「便利な城だな」


老人は笑った。


ジュザイイは紙を受け取った。


そこには、東方のある土地に存在したとされる城について、短い文章が記されていた。


城壁は高く、門は黄金で飾られていた。


城の周囲には三重の堀があり、門を開くには、皇帝の印璽を持つ者の命令が必要だった。


しかし、その城の名は書かれていなかった。


「この記録は、誰が書いたのですか」


ジュザイイが尋ねた。


「元朝に仕えた書記官だと聞いています」


「その書記官の名は?」


「わかりません」


「原本は?」


「残っていないそうです」


「では、この紙を書いた者は?」


商人は、少し考えた。


「それも、わかりません」


ジュザイイは紙を置いた。


「先生。黄金の都に続いて、今度は黄金の城です」


「人間は黄金が好きなのだ」


「なぜ、どちらも名前がないのでしょう」


「名前が失われたのかもしれん。最初からなかったのかもしれん。あるいは、名前を書けば困る者がいたのかもしれん」


老人は、商人の顔を見た。


「お前は、どれだと思う?」


「私は、名前が隠されているのだと思います」


「誰が隠した?」


商人は答えられなかった。


バットゥータは、紙を商人へ返した。


「名前がないことは、謎の始まりにはなる。だが、それだけで陰謀の証拠にはならん」


商人は不満そうだった。


「それでは、何を証拠にすればよいのです」


「まずは、その城が存在したという証拠だ」


老人は立ち上がった。


「黄金の話は、そのあとで聞こう」


ジュザイイは、紙に書かれた文章をもう一度見た。


城の名はない。


書記官の名もない。


原本もない。


それでも、黄金だけは、はっきりと記されていた。




第二章 皇帝の印璽


その日の午後、ジュザイイは東方の商人たちが集まる市場へ出かけた。


元朝の領土を旅した者がいないか、古い記録を知る者がいないか、話を聞いて回るためだった。


最初に出会ったのは、馬を扱う商人だった。


「黄金の要塞ですか。聞いたことがあります」


商人は、すぐに答えた。


「どこにあるのですか」


「北のほうです」


「北のどこですか」


「大きな川を越えた先です」


「川の名は?」


商人は首を振った。


「覚えていません」


次に出会ったのは、絹を扱う商人だった。


「黄金の要塞なら、南にあります」


「北ではないのですか」


「北? とんでもない。南です。山を三つ越えた先にあります」


「川は?」


「川などありません」


三人目の男は、要塞が海の近くにあったと言った。


四人目は、要塞など存在しなかったと言った。


五人目は、要塞は存在したが、すでに皇帝によって破壊されたと語った。


ジュザイイは、話を聞くたびに記録した。


北。 南。


川の向こう。 山の向こう。


海の近く。 そして、存在しなかったという証言。


昼過ぎには、紙が何枚も埋まった。


夕方、彼はバットゥータのもとへ戻った。


「先生。証言が集まりました」


「それで、城は見つかったか」


「いいえ。証言だけが増えました」


「それは、よい知らせだ」


「よい知らせでしょうか」


「昨日まで、お前には一つの噂しかなかった。今は、複数の噂がある」


ジュザイイは、机の上に紙を広げた。


「しかし、証言は互いに矛盾しています。ある者は北と言い、ある者は南と言い、ある者は海の近くと言います」


「では、三つの場所に城があったのかもしれんな」


「黄金の要塞が三つもあったと?」


「黄金が好きな王なら、三つ建てても不思議ではない」


「先生。私は、冗談を聞いているのではありません」


「私もだ。王というものは、金の使い道を考えるときだけは、驚くほど大胆になる」


ジュザイイは、思わず笑った。


だが、すぐに表情を戻した。


「先生。もう一つ、奇妙な証言がありました」


「何だ」


「ある商人は、要塞の門を開くには、皇帝の印璽が必要だったと言いました」


「昨日の紙と同じだな」


「はい。ただ、その商人は、印璽を見たことがないそうです。印璽を見た者から聞いたと言っていました」


「その者は?」


「別の者から聞いたそうです」


バットゥータは、深くうなずいた。


「話が、また遠くなったな」


「はい」


「では、その印璽を見た者がいるか、探してみろ」


ジュザイイは、記録を束ねた。


皇帝の印璽。 黄金の門。


そして、門を開く者の名は、どこにもない。


彼は、古い書付の削られた名前を思い出した。


名前が消されているとき、人は、その名前に大きな意味を見つけたくなる。


しかし、名前が消された理由は、まだわからない。


それでも、消されたという事実だけは、そこに残っている。




第三章 門を開けた男


三日後、ジュザイイは市場で、一人の老商人に出会った。


男は東方で長く商いをしていたという。顔には深い皺があり、話す前に必ず相手の手元を見る癖があった。


「黄金の要塞を探しているそうですね」


老商人は、ジュザイイの記録を見て言った。


「はい。ご存じなのですか」


「城そのものを見たことはありません。しかし、その城について書かれたものを読んだことがあります」


ジュザイイは身を乗り出した。


「どこにあった記録ですか」


「ある役人の家です。彼は、元朝に仕えた者の子孫だと言っていました」


「その記録には、城の名がありましたか」


「ありました」


ジュザイイは筆を構えた。


「何という名ですか」


老商人は、すぐには答えなかった。


「残念ながら、覚えていません」


ジュザイイは、筆を止めた。


「では、何を覚えていらっしゃるのですか」


「門を開けた男の名です」


「男の名?」


「はい。記録には、こう書かれていました。『門は皇帝の命令によって開かれた。しかし、命令を持ってきた者の名は、記すべからず』と」


ジュザイイは、その言葉を紙に書いた。


「なぜ、名前を記すべきではなかったのでしょう」


「そこまでは、わかりません」


「その記録は、今も残っているのですか」


「わかりません。私が読んだのは、ずいぶん昔のことです」


ジュザイイは、しばらく黙っていた。


「その役人の名前は?」


老商人は、首を振った。


「覚えていません」


「家の場所は?」


「それも、覚えていません」


「では、その記録が本当に存在したという証拠は……」


「ありません」


老商人は、あっさりと答えた。


「あなたが信じるかどうかは、あなたの自由です。ただ、私は確かに、そういう文章を読んだと記憶しています」


ジュザイイは、男の顔を見た。


嘘をついているようには見えなかった。


しかし、嘘をついていないことと、記憶が正確であることは違う。


男が読んだ文章は、本当に元朝の記録だったのか。


役人は、本当にそのような家の出身だったのか。


門を開けた男の名前は、実際に書かれていたのか。


それとも、長い年月のうちに、別の話が混ざったのか。


「先生に、この話を伝えてもよろしいでしょうか」


ジュザイイが尋ねると、老商人はうなずいた。


「もちろんです。ただし、私の名は記さないでください」


ジュザイイは、筆を止めた。


「なぜですか」


「私の話を信じる者がいるかもしれないからです」


「信じられることが、困るのですか」


老商人は、少しだけ笑った。


「信じられた話は、やがて、語った者の手を離れます。私が言っていないことまで、私が言ったことになるかもしれない」


ジュザイイは、その言葉を書き留めた。


今度は、名前を空欄にしたまま。




第四章 黄金よりも重いもの


その夜、ジュザイイはバットゥータに、老商人の話を伝えた。


老人は、黙って聞いていた。


「つまり、城の名は覚えていないが、門を開けた男の名は記録にあったというのだな」


「はい。ただし、その名も、老商人は覚えていません」


「便利な記憶だな」


「先生」


「すまん。続きを聞こう」


ジュザイイは、老商人が読んだという文章を説明した。


門は皇帝の命令によって開かれた。


しかし、命令を持ってきた者の名は、記すべからず。


バットゥータは、しばらく考えていた。


「お前は、これをどう思う」


「誰かが、門を開けた者の名を隠そうとしたのではないでしょうか」


「なぜ?」


「その者が、命令を正しく伝えた人物ではなかったのかもしれません。あるいは、命令そのものが偽物だったのかもしれません」


「可能性はいくつもあるな」


「はい」


「では、どれが正しい?」


「まだ、わかりません」


老人は満足そうにうなずいた。


「よろしい。わからないことを、わからないと認めるのは、黄金を手に入れるより難しい」


ジュザイイは笑った。


「先生は、黄金に興味がないのですか」


「あるとも」


「では、なぜ探さないのです」


「黄金は、見つけた者が持っていく。記録は、見つけた者が書き換える」


「どちらが危険なのでしょう」


「黄金は盗まれる。記録は、盗まれたことにさえ気づかれない」


老人は、机の上の紙を指さした。


「この城が本当に存在したのか、今はわからん。だが、誰かが黄金の要塞について語り、誰かが記録を読んだと主張し、誰かが門を開けた者の名前を隠す文章を覚えていた。そこまでは、お前の記録に残せる」


「その先は?」


「その先は、証拠が見つかるまで待て」


ジュザイイはうなずいた。


彼は、老商人の話を記録した紙の下に、短い注記を書いた。


「この証言は、原本によって確認されていない」


その一文を見て、彼はふと考えた。


もし、後世の誰かが、この注記だけを削ったらどうなるだろう。


老商人の話は、確かな記録として読まれるかもしれない。


反対に、老商人の話そのものが削られれば、彼が何を記憶していたのか、誰にもわからなくなる。


一行を消すだけで、記録の意味は変わる。


一つの名前を消すだけで、物語の主役は変わる。


そして、消された者は、自分が消されたことさえ知らない。


ジュザイイは、前の島で手に入れた書付を思い出した。


削られた名前。


その近くの、小さな傷。


あの傷もまた、消されたもののそばに残された、何かの痕跡なのだろうか。


彼は、まだ答えを出さなかった。




第五章 地図にない要塞


翌日、商人が再び訪ねてきた。


「要塞について、さらに話がわかりました」


バットゥータは、椅子に座ったまま尋ねた。


「今度は、誰から聞いた?」


商人は苦笑した。


「東方から来た別の商人です」


「その者は、要塞を見たのか」


「見ていないそうです」


「その者に話した者は?」


「要塞を見た者から聞いたそうです」


「その者は、今どこにいる」


「わかりません」


老人は、ジュザイイを見た。


「話が増えたな」


「はい」


「証拠は?」


「増えていません」


「では、昨日と同じだ」


商人は、納得できない様子だった。


「しかし、これほど多くの者が語っているのです。まったくの作り話とは考えにくいのではありませんか」


「多くの者が語っていることは、その話が広まっている証拠にはなる」


バットゥータは答えた。


「だが、話の始まりが正しかったことの証明にはならない」


「それでは、何を信じればよいのです」


「何を信じるかは、お前が決めればよい。ただし、自分が信じたいからといって、証拠が増えたことにするな」


商人は、黙り込んだ。


やがて彼は、革袋から小さな金属片を取り出した。


「これを見てください」


金属片は黒ずみ、縁が欠けていた。表面には、円形の刻印らしきものが残っている。


「東方の古い遺物です。ある者は、皇帝の印璽の一部だと言いました」


ジュザイイは、それを受け取らずに尋ねた。


「誰がそう言ったのですか」


「骨董を扱う商人です」


「その者は、これが元朝のものだと確認したのですか」


「いえ。そういう品に似ていると言っただけです」


バットゥータは、金属片を眺めた。


「これは、いつ手に入れた?」


「数年前です」


「どこで?」


「東方です」


「誰から?」


商人は、口を閉じた。


「……覚えていません」


老人は、金属片を机へ戻した。


「この品が古いのか、新しいのか。元朝のものなのか、別の時代のものなのか。印璽なのか、ただの飾りなのか。今のところ、何もわからない」


「しかし、刻印があります」


「刻印があることと、皇帝の印璽であることは違う」


ジュザイイは、金属片の縁を見た。


欠けた部分は不規則で、刻印の意味も判然としない。


それでも、商人はこの品を、黄金の要塞の証拠にしたがっているようだった。


「先生」


ジュザイイが言った。


「もし、この金属片が本物だったとしても、要塞が存在した証拠にはならないのではありませんか」


「そのとおりだ」


「では、なぜ商人は、これを持ってきたのでしょう」


「自分が探しているものに、近づいたと感じたいのだろう」


バットゥータは、商人へ金属片を返した。


「人間は、手に入れたものを無意味だと思いたくない。だから、その品に意味を与える。意味を与えたあとでは、今度は、その意味を疑いたくなくなる」


商人は、金属片を革袋へしまった。


「私は、黄金の要塞を見つけます」


「そうか」


「必ず、真実を明らかにします」


バットゥータは、笑わなかった。


「ならば、まず、見つからなかったときにも、その事実を受け入れる覚悟を持て」


商人は答えず、去っていった。


ジュザイイは、その背中を見送った。


黄金の要塞は、まだ地図にない。


皇帝の印璽も、確かな証拠を欠いている。


だが、黄金の要塞を探す者は、確実に存在していた。


そのこともまた、記録に残す価値があるのかもしれなかった。




第六章 名前のない命令


その夜、ジュザイイは記録を整理した。


黄金の要塞について語った商人。


元朝の記録を読んだという老商人。


門を開けた者の名を記すべからず、という一文。


そして、皇帝の印璽だと主張された金属片。


それぞれを別の項目に分け、どの証言がどの証言に依存しているのかを書き加えた。


すると、奇妙なことが明らかになった。


要塞を見たという者は、一人もいない。


要塞について書かれた原本を見たという者も、今のところ確かめられない。


皇帝の印璽を見たという者もいない。


あるのは、誰かが誰かから聞いたという話ばかりだった。


それでも、話は少しずつ具体的になっていく。


最初は黄金の都だった。


次に黄金の要塞が現れた。


そして、皇帝の印璽が加わり、門を開けた者の名前を隠す命令が語られた。


話が増えるたびに、謎は深くなった。


だが、謎が深くなったことと、真実に近づいたことは同じではない。


ジュザイイは、記録の末尾に書いた。


「黄金の要塞について、複数の証言がある。しかし、いずれも原本または直接の目撃によって確認されていない」


その下に、もう一行加えた。


「これらの証言が同じ出来事を指しているのか、それとも別々の話が混ざったものなのかは、わからない」


書き終えたとき、彼はふと、前の島で手に入れた古い書付を思い出した。


そこにも、名前を消すことについての問いがあった。


誰かが名前を削った。


その近くには、小さな傷が残っていた。


もし、黄金の要塞の記録にも、同じような傷が残されていたら。


もし、名前のない命令が、実際には誰かの手によって書き換えられたものだったら。


そのとき初めて、二つの記録はつながるのかもしれない。


しかし、それはまだ想像にすぎなかった。


ジュザイイは、二つの記録を結びつける文章を書かなかった。


証拠がないものを、証拠があるように書かない。


彼は、前話までに学んだことを守ろうとした。


だが、記録を守ることは、記録の意味を永久に固定することではない。


いつか別の証拠が見つかれば、今日の記録は読み直されることになるだろう。


そのとき、彼の書いた一行が、真実への手がかりになるかもしれない。


あるいは、誤解を生む原因になるかもしれない。


彼には、まだわからなかった。




第七章 次の記録


翌朝、船の出発が告げられた。


バットゥータは、港の様子を眺めながら、ジュザイイに尋ねた。


「黄金の要塞は見つかったか」


「いいえ」


「門は開いたか」


「いいえ」


「皇帝の印璽は?」


「確かめられませんでした」


老人は満足そうにうなずいた。


「よろしい」


「先生。何もわからなかったのに、なぜ満足なのですか」


「何もわからなかったということが、はっきりしたからだ」


ジュザイイは、少し考えた。


「それも、一つの記録になるのですね」


「もちろんだ。見つからなかったものを、見つかったことにする必要はない」


「では、黄金の要塞については、これ以上調べないのですか」


「調べる価値がなくなったわけではない。ただ、今はこれ以上、確かなことがわからん」


老人は、船へ向かって歩き出した。


「記録は、いつでも完成するとは限らない。書いた者が死んだあとに、別の者が続きを書くこともある」


「では、私の記録も、未完成のままでよいのでしょうか」


「完成したと思った瞬間から、疑うことをやめるならな」


ジュザイイは笑った。


船が岸を離れると、港町は少しずつ遠ざかっていった。


黄金の都。


黄金の要塞。


皇帝の印璽。


門を開けた者の名前。


どれも、まだ確かな答えにはたどり着いていない。


それでも、ジュザイイは記録を捨てなかった。


証言が存在したこと。


証言が食い違ったこと。


証拠が確認できなかったこと。


そして、何がわからないのかを整理したこと。


そのすべてを、彼は記録に残した。


荷物の奥には、古い書付がある。


削られた名前。


小さな傷。


あの傷の意味も、まだわからない。


だが、いつか別の記録と照らし合わせる日が来るかもしれない。


そのとき、今日の記録が役に立つかどうかは、後世の者に委ねるしかなかった。


ジュザイイは、最後に一行を書いた。


記録にない城を探す者は、城を見つける前に、自分が何を信じたいのかを見つけなければならない。


彼は筆を置いた。


船首では、バットゥータが次の土地について語り始めていた。


次に向かうのは、かつて大都と呼ばれた都市に関する記録が残る場所だった。


そこには、同じ旅人について書かれた、二つの異なる日付があるという。


一方の記録では、旅人はすでに都を去っていた。


もう一方の記録では、その旅人はまだ都に滞在していた。


どちらも、古い文書に記されている。


そして、どちらも、簡単には捨てられない。


ジュザイイは、その話をまだ知らなかった。


ただ、記録を束ねる紐を、いつもより少し強く結んだ。


物語は続く。記録も続く。


そして、記録のあいだに生じた小さな食い違いは、いつか、歴史そのものを揺るがす問いになるのかもしれなかった。


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