第十五話 老人の最後の証言
第十五話 老人の最後の証言
第一章 消すなと書かれた名
商人が持ち込んだ写しは、思いのほか粗末なものだった。
紙の端は擦り切れ、墨はところどころ薄くなっていた。人名がいくつか並び、その横には土地の名や、物資の数量らしき数字が書き添えられている。役所の帳簿から写したものだという説明に、ジュザイイーは疑問を持たなかった。少なくとも、帳簿らしい顔はしていた。
問題は、一つの名前だった。
列の中央にあるその名だけが、ほかと異なる筆跡で書き足されていた。さらに、その横には小さな文字で注記がある。
――この者については、記すな。
「これは、どこから手に入れたものですか」
ジュザイイーが尋ねると、商人は手を組んだ。
「ある家の遺品です。家主が亡くなり、親族が古い紙を整理していたところ、出てきたそうです」
「元の帳簿は?」
「ありません」
「誰が写したのです?」
「わかりません」
「いつの記録ですか?」
「それも、はっきりとは」
ジュザイイーは顔を上げた。
「あなたは、何がわかっているのですか」
商人は少し困った顔をした。
「この紙が、ある家に残されていたことです。それから、持ち主は、捨てずに取っておいたということです」
「それだけですか」
「それだけです」
男は悪びれなかった。知らないことを知っているふりをする商人もいるが、この男は、自分が売り込める情報の限界を理解しているようだった。
「ですが、先生。名前の横に、わざわざ『記すな』とあるのです。普通の帳簿ではないでしょう」
「普通でないことと、特別な秘密が隠されていることは同じではありません」
「もちろんです」
商人はすぐにうなずいた。
「ですから、私も秘密だとは申しません。ただ、誰かがこの名前を残したくなかった可能性はあります」
ジュザイイーは、紙をもう一度見た。
前の羊皮紙では、名が記されていなかった可能性が問題だった。今度は、名が記され、その横に記すなという命令がある。
一見すると、前の紙よりも一歩先へ進んだように思える。
しかし、紙が一枚増えたからといって、真実へ近づいたとは限らない。
むしろ、問いが増えただけかもしれなかった。
「この写しを、しばらく預からせてください」
「かまいません。ただし、もし価値のあるものだとわかったら、私の名も記録しておいてください」
「あなたの名を?」
「ええ。後世の学者が、この紙を誰が見つけたのか知りたがるかもしれません」
「見つけたのは、あなたではないでしょう」
「では、見つけた家の名も書いてください」
商人は真剣だった。
ジュザイイーは、思わず笑った。
「わかりました。確認できる範囲で、あなたがこの紙を持ち込んだことは記しておきます」
「それで十分です」
男は満足そうに立ち上がった。
人は、歴史に名前を残したがる。
しかし、その名が何を意味するかまで、考えている者は少ない。
ジュザイイーは、商人が去ったあと、注記の文字を丹念に調べ始めた。
第二章 同じ文字、違う手
注記は、本文よりも濃い墨で書かれていた。
文字の形も異なっている。本文を書いた者が、後から注記を加えたのか。それとも、別の人物が、すでに存在していた帳簿に書き足したのか。
紙の状態からは、どちらとも決められなかった。
ジュザイイーは、書記の知人に写しを見せた。
男は文字をしばらく眺め、指先で紙の端を押さえた。
「同じ手ではないように見えます」
「断言できますか」
「いいえ。筆記具も墨も違う可能性があります。急いで書いたのかもしれませんし、書いた者が別人なのかもしれません」
「では、この注記は、本文より後に書かれたのでしょうか」
「それも断言できません。少なくとも、文字の見た目だけでは」
ジュザイイーはうなずいた。
彼は、似た筆跡を見つけるたびに、過去の紙片とのつながりを考えてしまう。削られた名、開かれた門、記録することを禁じる言葉。どれも、何か大きな出来事の断片に思えた。
しかし、筆記者の違いは、必ずしも事件の違いを示さない。
同じ役所で働く者たちも、同じような文字を書くことがある。反対に、一人の書記が、急いで書いた文字と、丁寧に清書した文字を使い分けることもある。
「この紙を見て、何を思いますか」
ジュザイイーが尋ねると、書記は答えた。
「誰かが、記録に何かを付け加えたのだと思います」
「それだけですか」
「それ以上は、紙に書かれていません」
男は、淡々と言った。
「紙に書かれていないことを、紙から読み取るには、ほかの証拠が必要です。証拠がないまま読み取るのなら、それは紙を読むというより、自分の考えを紙に映しているのでしょう」
その言葉は、ジュザイイーの胸に残った。
彼はこれまで、失われた名前の意味を考えてきた。名が削られたのはなぜか。記すなと命じられたのは誰か。記録の空白に、どんな事情が隠されているのか。
だが、空白は、どんな物語も受け入れてしまう。
空白を見つめる者が、最も恐れるべきものは、空白そのものではない。
空白を埋めたいという、自分自身の欲望なのかもしれなかった。
第三章 老人が語らなかったこと
その夜、ジュザイイーはバットゥータに新しい写しを見せた。
老人は、注記を読んだあと、すぐに紙を返した。
「何か思い当たることはありませんか」
「何についてだ」
「旅先で、記録してはならない名を聞いたことです。あるいは、名を記さないよう命じられたことは」
バットゥータは、窓の外へ目を向けた。
「旅をしていれば、口にしないほうがよい名前を聞くことはある」
「どこで?」
「いくつもの場所でだ」
「具体的には?」
老人は返事をしなかった。
ジュザイイーは、筆を持ったまま待った。
バットゥータが話したくないのか、思い出せないのか、それとも質問の仕方が悪いのか。彼には判断できなかった。
「あなたは、以前、ある港で荷を運んだ男の話をしましたね」
「ああ」
「その男の名を聞かなかったことを、覚えていました」
「覚えている」
「では、名前を聞かないことと、名前を記さないことは、同じでしょうか」
「違う」
老人は短く答えた。
「名前を聞かなかったのは、私が知らなかったからだ。名前を記さなかったのは、知っていても書かなかったということかもしれない。だが、知っていたのに書かなかった理由は、一つではない」
「たとえば?」
「忘れた。重要だと思わなかった。書く場所がなかった。相手が名を明かさなかった。誰かに書くなと言われた。あるいは、書くと面倒なことになると思った」
バットゥータは指を折りながら挙げた。
「人間は、同じことをするにも、いくらでも違う理由を持つものだ」
「その中に、誰かを守るためという理由もありますか」
「あるだろう」
「誰かを陥れるためという理由も?」
「それもあるだろう」
「では、この注記が何を意味するのか、あなたにもわからない」
「わからない」
老人は、迷いなく答えた。
「だが、お前は、私がわからないと言うたびに、何かを隠しているのではないかという顔をするな」
ジュザイイーは、自分の表情を意識した。
「あなたが長い旅をした人だからです」
「長く旅をした者は、何でも知っていると思うのか」
「そうではありません」
「では、長く旅をした者は、何でも隠していると思うのか」
ジュザイイーは、答えられなかった。
バットゥータは、少し疲れたように息を吐いた。
「私は、見たこともあれば、聞いたこともある。聞いたことを見たように覚えていることもあるだろう。だが、私が知らないことまで、私の沈黙の中に答えを探そうとするな」
老人は立ち上がった。
「沈黙は、秘密の証拠ではない。ただ、話されなかったというだけのこともある」
その言葉を残し、バットゥータは部屋を出ていった。
ジュザイイーは、しばらく筆を動かせなかった。
老人の沈黙は、何かを隠しているようにも見えた。
しかし、沈黙を秘密と解釈するのは、聞き手の側だった。
第四章 最後の証言
翌日の午後、バットゥータはジュザイイーを呼び止めた。
「昨日の話だが」
老人は言った。
「一つ、思い出したことがある」
ジュザイイーは、すぐに紙と筆を用意した。
「ある土地で、私は一人の役人に会った。役人というより、役人のそばで働く男だったかもしれない。私は、その男の名前を聞いたと思っていた」
「思っていた?」
「ああ。だが、今になって考えると、誰かがその名を呼んだのを聞いただけだったのかもしれない。本人の名だったのか、別の者の名だったのかも、確かではない」
「その男は、何をしていたのですか」
「文書を運んでいた。役所から出てきて、別の建物へ向かった。途中で誰かに呼び止められ、包みを渡した。私は、その様子を見た」
「包みの中身は?」
「知らない」
「文書だったのでしょうか」
「そうかもしれない。布に包まれていたからな」
ジュザイイーは、筆を止めた。
「その男が、何か重要な記録を運んでいた可能性はありますか」
「ある」
「名前を記すなという命令に関係していた可能性は?」
「ある」
「その男が、記録を隠した可能性は?」
「ある」
老人は、少し笑った。
「お前が望む答えを、いくらでも並べられるぞ」
ジュザイイーは筆を置いた。
「では、何が確かなのですか」
「私が、そういう光景を見たと覚えていることだ」
それが、老人の最後の証言だった。
ジュザイイーは、その言葉を書き留めた。
バットゥータは、男の名を断言しなかった。土地の名も、正確な年月もわからなかった。包みの中身も、その後の行方も知らなかった。
そして何より、老人自身が、自分の記憶に確信を持っていなかった。
証言としては、あまりにも頼りない。
それでも、彼は捨てることができなかった。
「もう一度、思い出していただけますか」
ジュザイイーが尋ねると、バットゥータは首を振った。
「これ以上は、無理だ。今、私が話したことに何かを付け加えれば、思い出したのではなく、考えついたことを話すことになる」
「それでも、何かがわかるかもしれません」
「何かがわかるかもしれないという理由で、わからないことを事実にしてよいわけではない」
老人は、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「お前は、証言が歴史を救うと思っているのかもしれない。だが、証言は、歴史を救うこともあれば、誤った道へ導くこともある。証言した者が嘘をつかなくても、聞いた者が間違えることはある」
ジュザイイーは、紙の上の文字を見た。
自分は今、老人の記憶を書き留めている。
だが、その記録が残れば、後世の者はこう読むかもしれない。
ある役人が文書を運び、包みを渡した。
その男は、記録を隠したのかもしれない。
その出来事は、名を記すなという命令に関係していたのかもしれない。
そして、いつか誰かが、その「かもしれない」を削り取る。
残るのは、役人が文書を運んだという一文だけだ。
老人が確かでないと言ったことも、ジュザイイーが迷いながら書いたことも、写しを作る者が省略してしまえば、失われる。
記録は、残すことで確かなものになるのではない。
残す過程で、確かでないものが確かに見えてしまう危険を抱えている。
第五章 書かれなかった一文
その晩、ジュザイイーは老人の証言を清書した。
彼は、何度も文を読み返した。
役人の名は、書かなかった。
土地の名も、年月も、確かではないため、断定を避けた。
包みの中身については、老人が知らなかったことを記した。
そして、最後に一文を書き加えた。
――以上は、イブン・バットゥータが晩年に語った記憶である。本人は、出来事の細部について確信がないことを明言した。
書き終えたあと、ジュザイイーはその一文を見つめた。
それは、証言の価値を下げる注記にも見える。
同時に、証言を守る注記でもあった。
老人が確信していなかったことを記すことで、後世の読者は、彼の言葉をどこまで信じるべきか判断できる。
少なくとも、判断するための手がかりは残る。
ジュザイイーは、別の紙に問題の写しを書き写した。
人名の横にある「この者については、記すな」という注記も、そのまま写した。
さらに、写しの由来が確かでないこと、元の帳簿が確認できていないこと、本文と注記が同じ時期に書かれたかどうかわからないことも記した。
これで、すべての疑問が解決したわけではない。
むしろ、疑問の数は増えていた。
だが、彼は、疑問を減らすために不確かな答えを作ることはしなかった。
「お前は、ずいぶん慎重になったな」
背後から声がした。
バットゥータが戻ってきていた。
「あなたのおかげです」
「それは困るな。私は、もっと大胆な人間として後世に残りたい」
「大胆な人間と、事実を誇張する人間は違います」
「その違いを、後世の者が理解してくれるとよいが」
老人は机の上の写しを手に取った。
「お前は、私が確かでないと言ったことまで書いたのだな」
「はい」
「ならば、一つ頼みがある」
「何でしょう」
「私が確かでないことを話したとき、その不確かさを消さないでくれ」
ジュザイイーは、うなずいた。
「約束します」
「約束は記録に残せ。人間の記憶は、約束したことまで忘れるからな」
ジュザイイーは、老人の言葉をそのまま書き留めた。
その一文は、歴史の謎を解く鍵にはならないだろう。
しかし、後世の者が老人の証言を読むとき、そこには一つの注意が残る。
この男は、すべてを知っていたわけではない。
自分が知らないことを、知らないと認めていた。
そして、その不確かさもまた、彼の証言の一部だった。
第六章 老人の沈黙
それから数日、バットゥータは以前よりも短く話すようになった。
疲れているのだろうと、ジュザイイーは思った。
長い旅の記憶をたどることは、老人にとって容易な仕事ではない。語るたびに、遠い土地の景色だけでなく、失った友人や、二度と会うことのない人々の顔まで呼び戻されるのかもしれない。
ある夕方、ジュザイイーは、老人の部屋を訪れた。
バットゥータは窓の近くに座っていた。机の上には、飲みかけの水と、読みかけの紙が置かれている。
「今日は、話を記録しなくてもよいのですか」
ジュザイイーが尋ねると、老人は笑った。
「毎日話していたら、いつか私の人生より、私の話のほうが長くなる」
「すでに、かなり長くなっています」
「ならば、そろそろ私のほうが休む番だ」
ジュザイイーは、椅子に座った。
しばらく、二人は何も話さなかった。
沈黙の中で、ジュザイイーは、これまでに聞いた数々の話を思い返した。遠い国の王、黄金の都の噂、名のない門、消されたかもしれない人物。どの話も、記録にすることで、何かが残る。
だが、記録にすることで、何かが失われることもある。
語り手の迷いが消える。
言葉の調子が平らになる。
聞き手の表情や、話の途中に挟まれた笑い声や、語られなかったためらいが、紙の上では見えなくなる。
記録は、沈黙を埋めることができる。
しかし、沈黙そのものを、そのまま残すことは難しい。
「あなたは、まだ話していないことがありますか」
ジュザイイーが尋ねた。
バットゥータは、すぐには答えなかった。
「あるだろう」
「それは、話したくないことですか」
「そういうものもある。単に忘れたこともある。思い出せないこともある。話すほどのことではないと思っていたこともある」
「では、私はそれを知ることができない」
「そうだ」
老人は、窓の外を見た。
「だが、それでよいのではないか。私の人生には、私が語ったことより多くのことがあった。お前が記録したものより多くのことがあった。記録に残らないからといって、それらがすべて無意味になるわけではない」
ジュザイイーは、うなずいた。
「ただし、記録に残らないものがあることは、忘れないようにします」
「それで十分だ」
バットゥータは目を閉じた。
その夜、ジュザイイーは新しい質問を用意しなかった。
老人の沈黙を、何かの答えとして記録することもしなかった。
ただ、話を聞かなかった夜があったことを、自分の記憶に留めておこうと思った。
第七章 最後の証言のあと
翌朝、ジュザイイーは机に向かい、これまでの記録を整理した。
老人の証言は、少しずつ一つの書物になりつつあった。
語られた都市の名が並び、旅の道筋が描かれ、出会った人々の姿が記されていく。
その中には、確かな記憶もあれば、伝聞もある。本人が見たものもあれば、誰かから聞いたものもある。何度も語られたために形の整った話もあれば、最後まで曖昧なままの話もあった。
ジュザイイーは、それらを同じものとして扱わないよう努めていた。
しかし、書物を完成させるためには、文章を整えなければならない。重複を省き、順序を決め、読者が理解できるように言葉を選ぶ必要がある。
その作業を進めるほど、彼は、自分が何をしているのかを意識するようになった。
彼は、旅を記録している。
同時に、旅の語り方を決めている。
何を先に語り、何を後に置くか。
どの話を詳しく記し、どの話を短くするか。
どの言葉をそのまま残し、どの言葉を読みやすく整えるか。
それらの選択は、すべて書物の形を変える。
そして、書物が完成したあと、読者はその形を、旅そのものの形だと思うかもしれない。
ジュザイイーは、最後の証言を写した紙を取り出した。
老人が確かでないと言ったこと。
名前を思い出せなかったこと。
包みの中身を知らなかったこと。
彼は、それらを削らずに残した。
確かでない証言を、確かな歴史に変えることはできない。
しかし、不確かだったという事実は、記録に残すことができる。
そのとき、ジュザイイーは、紙の隅に小さな印があることに気づいた。
商人が持ち込んだ写しにも、同じような印があった。
以前に見た羊皮紙の傷と似ているようにも思えた。
ただし、それが同じ印なのか、単なる筆の癖なのかはわからない。
彼は、二枚の紙を並べた。
印の形は、よく似ていた。
しかし、紙の由来は異なり、書かれた年代も確かではない。誰が印をつけたのかも、何を意味するのかもわからない。
これを手がかりに、すべての文書を結びつけることはできるだろう。
名を記すなという命令。
門についての記録。
老人が見たかもしれない役人。
そして、同じ印。
一つの物語を作るには、十分な材料に思えた。
だが、その物語が真実であることを示す証拠は、まだなかった。
ジュザイイーは、二枚の紙を別々に戻した。
印については、記録の余白に、観察した事実だけを書き留めた。
――二つの文書に、形の似た印がある。両者の関係は不明。
彼は筆を置いた。
老人の最後の証言は、謎を解かなかった。
むしろ、謎を語るときに何をしてはならないのかを、教えたように思えた。
知らないことを、知っているように書かない。
不確かなことを、確かなことに見せない。
沈黙を、秘密の証拠にしない。
そして、誰かが語った言葉を、自分の望む物語のために使わない。
それは、歴史を作るうえで、あまりにも消極的な態度なのかもしれない。
しかし、消極的であることと、何もしないことは違う。
わからないものを、わからないまま残す。
そのためにも、書き手は筆を動かさなければならない。
窓の外では、フェズの町がいつもの一日を始めていた。
市場へ向かう者があり、仕事を終えて帰る者があり、誰にも記録されない小さな出来事が、無数に起こっている。
そのすべてを記録することはできない。
それでも、何かを記録することはできる。
ジュザイイーは、次の頁を開いた。
老人はまだ生きている。
旅の記録も、まだ終わっていない。
だが、彼は初めて考えていた。
いつか老人が語らなくなったあと、この書物に残るのは、老人の言葉だけではない。
聞き手が選んだ順序が残る。
書き手が削らなかった言葉が残る。
そして、何を知らなかったのかという、書き手自身の限界も残る。
そのことを、後世の読者は覚えていてくれるだろうか。
それとも、彼らは完成した書物を開き、そこに書かれたすべてを、ただ一人の旅人が見た世界そのものだと信じるのだろうか。
ジュザイイーは、まだ答えを持っていなかった。
彼にできることは、次の頁にも、できる限り正直に書くことだけだった。




