第2話 夢の中では、令嬢も戦いますわ!
さて、昨日に引き続き投稿です。
憧れのドリーム学園での生活が始まって、数日が経った。
「今日は魔法について。知っている者も多いが、この世界には七つの属性を持った魔法がある。これらについて知っている者は……お、エートルくん」
エートルが、手を挙げ、席を立つ。
「はい! 火・水・木・土・風・光・闇の七つです!!」
「正解だ。素晴らしい。そう、この通り七つある」
エートルは、席へと座る。
「この七つを軸として考えることこそ、この魔法基礎学の考えとなる。そして、それら属性を生み出す力は、体内の『魔力器官』で動かすんだ」
そう、今は授業の時間。
わたくしの担任の先生、ヴィジオン・ダヴニール先生が、授業を受け持ってくれている。今は、魔法の授業だ。
「魔力器官は主に体内にある。人によってまばらだが、主には頭やお腹にある。珍しい例としては手足や背中なんかにある。最も珍しい例としては胸の奥にあるそうだ。ちなみに、私は頭にある。この魔力器官は、空気中に含まれる「マナ」を通して、魔力へと変換していく。そして、魔力器官が損傷すれば、魔力は当然使えなくなる。つまり、魔法の発生が困難になるというわけだ」
その後も、話は続く。
話を聞き、メモをする人々を、わたくしは眺める。
え? わたくしは何故しないのかって? こんな基礎の基礎、家庭教育でもう散々習いましたもの! 今更ノートを取るものは少ないですわ!!
「そして、その魔力器官の適性によって、それぞれどの属性が得意かがわかる。例え不得意でも、魔法を使えなくはない。が、才能のないものとあるものを考えれば、自ずとあるもののほうが勝ると言うのは世の常だ。皆、自分の得意を伸ばしていくように。ということで、今日は自分の得意を知ってもらうために、基礎訓練をしていく」
……え。わたくし……あまりしたくないのですけれど……!
──放課後。
彼女は机に突っ伏していた。
「パピヨン、また突っ伏してる」
「……疲れましたわ、レアリテ嬢」
「まだ数日しか経ってないのに?」
隣からレアリテが呆れたように言う。
「授業が思っていた以上に多いのですもの」
「普通だと思うけど」
「わたくし、もっと優雅な学園生活を想像していましたわ」
「どんなの?」
「お茶を飲みながら談笑したり、庭園を歩いたり……」
「それ授業じゃないでしょ」
「……確かにですわ」
二人で顔を見合わせる。
そして、同時に笑った。
レアリテ・ド・ラルレヴィ
彼女の寮の同居人だ。
いつも彼女に朝早くから起こされ、ランニングしたり見回ったりするのに付き合わされるうちに、レアリテは彼女に対して、なんとなしに砕けた話口調になっていった。
そして、いつしか彼女の友人になっていた。
そんな何気ない時間だった。
──その日の夕方。
いつものように、校舎を歩き、道に慣れようとするわたくしに、レアリテは付き合っていた。
「……ねえ、パピヨン」
レアリテが、廊下の外を見る。
そこには、色とりどりの、魔法を模した花が咲いていた。
「今、何か聞こえなかった?」
「え? ほんとですの?」
「うん。向こうの庭から」
わたくしはそう言われて、耳を澄ます。
──カチ。
何かがぶつかるような音。
「……?」
二人は顔を見合わせた。
「……確認してみます?」
「え?」
レアリテは、拍子抜けしたような声を出す。
「だって、気になるじゃない!」
「いや、普通は先生を呼ぶところじゃ……」
「まあまあ……とにかく動くが吉ですわ!!」
「あ、ちょっと……!! もう……!」
結局、二人は、音のする方向へと向かうことになった。
夕暮れの学園……普段なら生徒たちの声で賑わっている場所も、今は静まり返っている。
「……こっち?」
音を追っていけば、学校の中庭の一つにたどり着いた。
その奥の地面に、古びた鏡が置かれている。
それは、どこか趣を感じさせる、錆びが目立つものだった。
「……鏡……? こんなの、あるんだ」
レアリテが眉をひそめる。
「わたくしも初めて見ますわ。誰かの忘れ物かしら……」
彼女が鏡へ近づく。
鏡面には、二人の姿が、微かに映った。
しかし……
「……あら?」
彼女が首を傾げた。
鏡の中の庭は、現実とは少し異なっていたのだ。
空が赤く、木々の色が青い。
そして……
「レアリテ嬢!」
「なに?」
「鏡の中に、わたくし達以外の方がいらっしゃいますわ」
「え?」
レアリテが振り返る。
だが、背後には誰もいない。
それに驚いた彼女は、再び鏡を見る。
そこにも、誰もいない。
「あら……?」
「……見間違い? パピヨンってば疲れてるんじゃ……」
その瞬間──
鏡面が、大きく波打った。
「えっ?」
「あら……?」
次の瞬間、世界がひっくり返った。
足元が消え、身体が浮く。
わたくしは、捲れそうになるスカートをなんとか抑える。
「きゃあああっ!」
「レアリテ嬢!」
手を伸ばす。
しかし、それはわたくしの短い手には届かない。
そして──衝撃が下半身に響く。
二人は、柔らかな花の上へ落ちた。
「……痛ったぁっ……!」
「大丈夫ですの!?」
「う、うん……」
レアリテは、彼女の手を掴み、立ち上がる。
そこは、先ほどまで居た学園の中庭であった。
しかし、そこはどこかおかしい。
空には星が浮かび、校舎はどこまでも続いていた。
誰もいない、音もない。
まるで、深夜の学園に忍び込んだような、そんな感覚であった。
「ここ……学園でしょうか?」
「そう……だと思う。でも……なんでこんな……夜……?」
そのとき。
ズズッ……
何かを引きずる音がした。
二人は振り返った。
そこは、誰もいないはずの花壇の上……そこに、黒い何かが立っていた。
おそらく、人間ではない。エルフやドワーフといった亜人ですらないだろう。かと言って、獣にさえ見えない。
形そのものが曖昧で、輪郭から黒い霧が絶えず零れ落ちている。
「……何、あれ」
レアリテの声が震えた。
黒いものがこちらを向く。目のようなものが、二つ、淡く光った。
そして次の瞬間、怪物は、二人を認識した。
「……! 逃げますわ! 少し乱暴しますわよ!!」
「え……ちょっ……!!」
彼女は、レアリテを抱えて走る。
背後から黒い何かが伸びるのを感じた。
「パピヨン! 横! 横に!」
「わかりましたわ……!!」
彼女は、横へ飛び退いた。彼女が居た場所の床が、黒く染まる。
「危なっ……!」
後ろを向くレアリテは、その黒い何かを見ていた。
「なんなの……あれ……」
「レアリテ嬢! 魔法……使えます……!?」
「え……あ!」
レアリテは、手を翳す。
「土属性魔法! 【ロックシュート】!!」
しかし、発動体を持っていないレアリテが出す魔法は、小石程度のものしか出なかった。
もちろん、それが効いたような素振りもない。
「だめ! 効かない!!」
「レアリテ嬢の魔法小さすぎませんこと!?」
「しょうがないでしょ!! 今は発動体持ってないんだから!!」
このままでは追いつかれてしまう。そう感じたわたくしは、魔法を使う。
「レアリテ嬢! 少し目を瞑ってくださいまし!! 光属性魔法!! 【ライトアップ】!!」
閃光のような輝きが、辺りを満たす。
それにより、なんとか撒くことができた。
二人は、校舎の影に身を潜める。
「ありがとう、パピヨン……って、何してるの……?」
「目が……やらかしましたわ……! 目がぁ……目がぁ……!!」
「アホなことしてるんじゃないわよ!! まったく……」
しかし、二人は依然として考えている。
あれは何者なのか、あるいは、生物なのか? と。
「とりあえず……黒い何かですわね……」
「そうだね……とりあえず逃げる方法を探さないと……」
今の二人には、発動体も持たぬ人間。
亜人ならまだしも、この二人があの怪物を倒すことは到底できない。
「おっと……敵は勘が鋭いらしいですわ……」
「えっ!? ……!!」
二人の後ろに、黒い影が現れる。
レアリテを庇うように前へ出る。しかし、黒い霧が周囲へ広がった。
「……! ッ痛……!」
その時……
「……え?」
彼女の制服、木々、建物、そして視界全て……
世界から、色が抜けていく。
「なに……これ……」
自分の手を見る。
赤かったはずのリボンが、灰色になっている。
柔らかな色合いをしていた肌が、いつのまにか堅苦しい白色をしていた。
黒い怪物が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「レアリテ嬢、下がって!」
「でも! パピヨン!! あなた、目が……!!」
彼女の淡く光っていた目が、真っ黒になっていた。
ハイライトもない、光もない。
だが、彼女は前を向いた。
「レアリテ嬢!」
レアリテは、わたくしが出した大きな声に一瞬驚く。
「わたくしは大丈夫です! だから……離れて!!」
彼女は一歩前へ出た。
恐怖……
色のない世界が、これほど恐ろしいとは、彼女はつゆほども知らなかった。それでも。後ろに友人がいる。
ならば──。
「わたくしが、なんとかしますわ!」
その瞬間。胸の奥で、何かが弾けた。
そこから、光が溢れる。
「……え?」
身体を包む光。その光が、目を覆う。
そして、わたくしの目が、舞い散る七色の粒子を見せた。
ドレスのような衣装が、光の中から現れていく。
わたくし自身が、一番驚いていた。
「ちょ、ちょっと……!」
しかし、変化は止まらない。光が弾けた。
そこに立っていたのは――。
「……わたくし?」
「……パピヨン!?」
「……え!? なんですの!? これ!?」
いつもの制服ではない。
夢の中でしかありえないような、美しい衣装。
七色の魔力が、身体の周囲を巡っている。
そんなことはつゆ知らずか、黒い怪物が飛びかかってきた。
「……わっ!」
わたくしは反射的に腕を振る。
その腕から、炎が弾けた。
その衝撃が、怪物を後ろへ吹き飛ばした。
「えっ……? え!?」
わたくしは驚いた。
……今、魔法を発動しようとしたつもりはない。
「身体から……マナが……溢れてくる……!」
前から、怯まず突撃をしてくる黒い怪物が迫っていた。
「驚いている暇はなさそうですわね……!」
今度は横へと跳ぶ。
その動きを見て、わたくしは気づいた。
「……動きが、分かりますわ」
怪物は速い。
しかし、攻撃する直前に必ず身体が沈む。
(……動体視力も良くなったのかしら……)
「そこですわ!」
地面から風を巻き起こす。その威力に、怪物の身体がわずかに浮いた。
「まだ行きますわよ……!」
続けて、わたくしは木を生やし、黒い怪物を拘束する。
「怪物が止まった……!!」
レアリテは、そう呟く口を止める。
「だめ! パピヨン! なんか、怪物が膨らんでる!!」
怪物が怒ったように身体を膨らませる。
黒い霧が再び広がった。
「させませんわ!」
わたくしの周囲に水の泡を発生させる。
その泡は、レアリテの周囲の黒い霧を吸収し、浄化する。
しかし、怪物の周囲、そして、わたくしの周りには、黒い霧が充満していた。
「パピヨン!! 何して……!!」
「大丈夫……ですわ……これくらい……なんともありませんの……!」
痛い……身体中に、砂が当たるかのような痛み……いつものわたくしなら、すぐに音を上げて倒れ込んでいたことだろう。
しかし、今、後ろにはレアリテが居る。ここで倒れたら、魔法も消え、この痛みがレアリテにも襲いかかる。
「そんなこと……させるわけない……でしょう!?」
わたくしは、黒い霧の中を突っ切る。
「目眩しは、わたくしの……得意分野でしてよ!!」
わたくしは、光を放つ。それは、霧により暗くなった世界を、一瞬だけ翔ける。
怪物のうめき声が聞こえた。
そして……
「これで……終わりですわ!」
七色の魔力が一つに重なる。
「光属性魔法! 【クレセント・エッジ】!!」
眩い光の刃が、黒い怪物を刻み込んだ。
「……………………!!!!!」
轟音が鳴り響いた。
怪物の、黒い身体が崩れていく。
最後に残ったのは、小さな黒い欠片だけだった。
「……終わった?」
「……みたいですわね……」
わたくしは息を整えながら、それを見つめる。
その時、空間にひびが入った。
「え?」
景色が砕け、光が溢れる。
そして、二人は吸い込まれる。
「パピヨン!」
「レアリテ嬢!」
二人は、互いの手を掴んだ。
そして……
目を開ける。
「……元に戻った……?」
そこは、さっきの庭だった。
古びた鏡も消えている。
二人はしばらく何も言えなかった。
「……夢?」
レアリテが呟く。
「そう、みたいですわね……」
わたくしは自分の手を見る。
何も変わっていない。
あの衣装もない。
七色の魔力もない。
まるで全部、夢だったかのようであった。
「……寝てたのかな……」
「……なんだったのかしら……あれは……」
ふと、 わたくしは、足元に何か落ちていることに気づく。
「これは……扇子……?」
そこには、雅というには少し可愛い色をした扇子が落ちていた。
……翌日
学園内には、一枚の掲示が出されていた。
『最近、生徒の間で奇妙な夢を見たという報告が増えています。黒い獣を見たという証言も確認されています』
わたくしとレアリテは、その掲示を黙って見つめていた。
「……これって……昨日の、あれ」
「ですわね……」
「てことは……夢じゃなかった……!?」
その横を、ヴィジオン・ダヴニールが通り過ぎる。
彼は掲示を一瞥すると、ほんの少しだけ表情を変えた。
「……夢を蝕むもの……」
「……先生?」
「……いえ、ただの独り言です」
ヴィジオンは何事もなかったかのように微笑んだ。
「授業に遅れますよ、お二人とも」
そう言って去っていく。
わたくしは、その背中を見つめた。
「新たな戦士か……あの方に知らせなければな……」
男の小さな独り言が、誰もいない廊下に響いた。
さて、ここで多分説明しないであろう情報を
各魔法には、それぞれイメージカラーがあります。
火属性 赤・ピンク色
水属性 青色
木属性 緑色
風属性 シアン色
土属性 黄色
光属性 白色
闇属性 黒色
となっています。
多分今後説明することはない! かも……?
そのうち、キャラクターについての説明などもしたいなと思ってます!




