第3話 侯爵令嬢、噂される
少しだけ忙しい……
ぐりお
わたくしは、今まさに絶望している。
「あ、あれが噂の悪い令嬢だ」
「本当だ……あれが悪さをする令嬢?」
「近づいたら不幸になるとか……」
「あの方の周りには黒い噂が絶えないとか……」
わたくしの周りで、そんな声が聞こえる。
「パピヨン……だいじょう……」
レアリテの言葉を遮るように、わたくしは言う。
「……どうして」
手が震える。そして、少し大きな声で……
「……どうして……どうしてこうなりましたのぉ〜〜!!?」
そんな奇声を出してしまった。
話は、少し前に遡る。
◇◇◇
──不思議な世界に舞い込んだ日の翌朝
彼女は暖かい日差しで目を覚ます。
「ふぁ〜……起きましたわぁ〜」
「遅いパピヨン。もうすぐ学校! 早く準備して!」
「レアリテ嬢……あなたはせっかちですわ〜」
「違うわ! パピヨンが遅いだけ! ほら、早く起きた起きた!!」
そう急かされるままに、彼女は支度を済ませる。
──そして
「パピヨン・ド・レーヴ! 復活ですわ!!」
「眠気覚ましたら元気すぎ……寒暖差で麻痺しそう……」
寮からの登校中、わたくしとレアリテは話しながら歩いていた。
(優雅な朝を迎えたこと、レアリテ嬢に感謝しなくては)
「そういえば……あの黒い生物……なんだったのでしょうか……?」
「もしかしたら、七不思議に関連してるのかも……」
「七不思議?」
わたくしは、興味津々でレアリテの方を向く。
「……わかったわかった……どぉどぉ! 説明するから!」
レアリテは話し始める。
「七不思議ってのは、この学園にある7個の不可思議……解明されてないことを言うらしいの。代表的なのだと『学園の裏のボス』とか、『七色に輝く購買パン』とか」
「『七色に輝く購買パン』!?」
「まあまあ……それでね、その中に、『単色の怪物』っていう奴があるの」
(『単色の怪物』……! まさにジャストな存在ですわ……!)
わたくしの驚いた顔に、少し冷笑気味でレアリテは話す。
「んで、それなんじゃないかなって思ってる……まぁ……私もよくわかってないんだけど……」
「きっとそれですわ!! そうに違いありません!!」
わたくしは、目をキラキラさせ、心の底から同意した。
そうして歩いていると、ふと大きく掲示板があるのが見えた。
「あ、今日は何か書いているかしら♪」
「あ! 移り変わり激しすぎ……まあいっか……」
半ば諦めたように話しているレアリテを背に、わたくしは走り出す。掲示板を見ることは、ここ最近の楽しみであった。噂話やイベント情報、果てには落とし物を掲載しているなど、新しい情報には事欠かない。
特に好きなのは学園新聞だ。毎日違うゴシップが載っており、まるでこの学園の全てを知っているかのようであった。そのため、『学園の目』とも呼ばれているらしい。
しかし事実として、面白い記事を書く。それをみて、わたくしは毎日目を輝かせているのだ。
(今日は何があるかしらぁ〜♪)
そうしていつものように見ると、少し変わった景色がそこにはあった。
「え……」
「……? パピヨン? どうしたの?」
レアリテ嬢が、わたくしの元へと駆け寄り、掲示板を一瞥する。
「……え?」
そこには、大きくこう書かれていた。
『話題の悪女 "パピヨン・ド・レーヴ"!』と。
「……どうして……わたくしが……ここに……?」
「さ……さぁ……」
「しかも……『悪女』……?」
新聞からの突然の裏切り。それは、パピヨンにとって、想定外の出来事であった。
「ど……どう言うことですのぉ!?」
◇◇◇
そうして、今に至る。
教室に着いても、様々な陰口は跋扈する。
「どうしてですの……?」
彼女は机に伏せていた。
隣にいたレアリテは、彼女を心配する。
「うーん……大丈夫……じゃなさそうか」
「いえ……これもきっと試練ですわ……おそらく……わたくしのことを吹聴している方が……!」
しかし、心当たりがない。
というか、彼女自身、それをされるような交友関係とかない。レアリテと幼馴染のエートルくらいだ。まさか、その二人がそんなことを言うわけがない。
「……心当たりがありませんわ……レアリテ嬢がするわけないですし……エートル殿などもっての他……わたくしを貶めることなどする人は居ませんわ……」
となれば、彼女の考えは一つだった。
(どこかで……無意識のうちに悪戯をしている……!)
「…………!」
突拍子のない結論に、彼女は縋るしかなかった。
「七不思議ですわ……!」
「何言ってんのよ……」
──そう会話していると、先生が入ってくる。
「席を立て、授業をする」
そして、授業が始まった。
今日は魔法学実践講座という授業であり、自身の得意魔法を伸ばすことに重きを置いた授業だ。
初授業ということもあり、少人数での組み合わせである。
わたくしの居るAクラスには、レアリテの他にリュミエール王太子殿下も一緒であった。
殿下の出す光属性魔法は流石の一言であり、周りをも魅了するほどのあたたかな光を出す。
「殿下のような美しい光を出したい……!」
「殿下の光を永遠に見ていたい……!」
そんな声が上がるほどであった。
「淑女の方々の殿下に見染める気持ち……わかりますわ……だって、あんなに繊細な魔力操作……わたくしでも少し苦心しますもの……」
「いや……多分そういうことじゃないと思うけど……というか……パピヨンって光属性だよね。適性属性」
「えぇ、そうですわね」
わたくしは、光属性に適性がある。小さい時から、ずっとずっとそうだった。お父様とお母様からも、そのように教わったのだ。
しかし、あの黒い怪物と戦った時、わたくしは複数の魔法を使うことができた。
(あの時……どうしてか力が湧いてきた気がしますのよね……)
「パピヨンも出来るんでしょ? あれくらいなら」
レアリテが聞いてくる。わたくしは、少し考えて答える。
「まあ……やろうと思えばできますわ。ですが、淑女たるもの、あそこまで大きなものは必要ありませんの。あれは、殿方が使ってこその美しさですわ」
「そういうもんなんだ……」
「もちろん、使うことを否定する気はありませんのよ。ただ、わたくしが使うのは……あまり好きじゃないってだけですわ」
そんなわたくしたちの元へ、一つの声が話しかけながら迫ってきた。
「やぁ、パピヨン。久しぶりだね」
「で……殿下……! お久しぶりでございますわ……!」
そこにきたのは、先ほどまで注目の的であった殿下……リュミエール王太子殿下であった。
(殿下と話すの……やっぱり慣れませんわ……!)
それに気づいたレアリテも、殿下へと挨拶をする。
「は……ハジメマシテ……!」
緊張してか、普段より明らかにカタコトになっているレアリテ嬢を見て、殿下は微笑む。
「ははっ……そう固くならないでくれ。私はみんなと仲良くなりたいだけだから。よろしくね」
殿下は、緊張しているレアリテと話している。
「そうだろう、ね? パピヨン」
突然、わたくしの方へと話が振られる。
(え……? 失念しましたわ……話を全く聞いてませんでしたわ!!)
わたくしは驚きつつも、平静を装って話す。
「え……えぇ……そうですわね……?」
殿下は、私のその顔をまじまじと見る。
「そういえば……パピヨン……君はずいぶんと変わったね」
「いえ……殿下の方こそ、より紳士的になられましたね」
わたくしは、そんな殿下を見つめる。
(殿下……昔はあんなにやんちゃでしたのに……変わられたのかしら……それとも……大人になるとはこう言うことなのかしら……)
わたくしと殿下は、子供の頃から親睦があった。
幼い頃、殿下の婚約者になる可能性があったわたくしは、英才教育を施されていた。その過程で、殿下と話したり、遊んだりする機会は度々あったのだ。
とはいえ、わたくしの家は侯爵家……婚約者としては、公爵家の方がふさわしいと判断されたらしい。殿下は他の方を婚約者に選んだのだと、お父様方から聞いた。
(まぁ……それは仕方ないことですわ)
そもそも、わたくしは殿下にはあまり惹かれない……何故か、どこかから引っ張られるような……拒絶するような……そんな気配が漂うからだ。
(まあ、殿下が選ぶ人ならば、おそらく素晴らしいお方なのでしょうね)
心の中の『頑張れ』コールが鳴り響く中、わたくしはとある視線に気づく。
それは、周りの令嬢方の冷ややかな目線であった。
(あら……なんだか不穏な気配……)
わたくしは、要らぬところで視線をもらうようになっていた。
(やはり……件の"悪女"の件かしら……)
「んじゃあ、僕はこれで。お話、楽しかったよ」
授業が終わると、殿下は一度わたくし達から離れる。
「リュミエール王太子殿下……って、気さくな人なのね」
レアリテがそう呟く。
「そうですわね……さ、わたくしたちも次の授業に……」
そんなわたくしたちの前に、一人のご令嬢が阻む。
「パピヨン侯爵令嬢……少し目に余る光景でしてよ……?」
そこに、赤と紫が混じる綺麗な髪をした淑女……
エステティク・ド・レフェメール公爵令嬢が、立った。
ということで、あとがきです!
そういえば説明してなかったし、今後入れる必要がないと思ってる要素を言っていきます。
名前について
この物語は、主に貴族学校を舞台としていますが、貴族には必ず「ド」という接続詞がつきます。
これは、「〜〜領の」や、「〜〜出身の」という意味があります。つまり、パピヨンは、「レーヴ領家のパピヨン」となるわけですね。
もちろん、この「ド」は貴族以外ついてないので、身分詐称のためにわざわざつけていない人もいるかもしれません。




