第1話 悪役令嬢の目覚め
はい、どうも! 無食子です!
新たな物語を書きたくなったので、書きました!
──静かな広間だった。
大勢の人間がいるはずなのに、誰一人として声を上げない。
ただ中央に立つ少女へ、無数の視線だけが突き刺さっていた。
「──パピヨン・ド・レーヴ侯爵令嬢」
正面に立つ青年が、冷たい声で彼女の名を呼ぶ。
少女――パピヨン・ド・レーヴは、背筋を伸ばしたままそこに立っていた。
周囲から聞こえてくるのは、囁き声。
疑惑、非難、そして、決めつけ。
「あなたには、数々の問題行動があった」
「……まあ」
彼女は静かに目を伏せる。
「しかし、それは誤解ですわ」
「誤解?」
青年の疑惑を纏った問いが返ってくる。
「ええ。わたくしは、そのようなことをしておりませんもの」
凛とした声だった。
けれど、目の前の青年は首を横に振る。
「だが、証拠は揃っている」
次々と突きつけられる証言。
誰かを虐げた、誰かを陥れた、誰かの大切なものを奪った。
そう言った、覚えのない罪ばかりだった。
「違いますわ」
それでも彼女は否定する。
「わたくしは、そのようなこと──」
「もういい」
その時、青年の声に言葉を遮られた。
広間の空気が、一段と冷たくなる。
「パピヨン・ド・レーヴ。あなたとの婚約を破棄する」
その言葉が落ちた瞬間、周囲から、息を呑む音がした。
続いて告げられる。
貴族としての立場を失うこと、学園から追放されること……そして──。
「これより、断罪を執行する」
「……」
彼女は、ただ静かに前を見つめていた。
どうして……なぜ……
そんな言葉すら出てこない。
ただ、自分ではない誰かが、自分の名前を使って裁かれている。
そんな妙な感覚だけが残っていた。
そして……その瞬間だった。
背後に、何かが現れた。
「……え?」
それは黒く、まるで霧のようなものだった。
広間の床を這い、壁を伝い、ゆっくりと彼女の背後へ迫ってくる。
誰も気づいていない。
その黒い何かを、彼女だけが見ていた。
「なに……?」
黒い霧が、少女へ手を伸ばす。
まるで……彼女を食らおうとするように。
「いや……!」
伸ばされた黒いものが、彼女の身体へ触れようとした、その瞬間。
──目が覚めた。
「……っ!」
わたくしは、勢いよく身体を起こした。
「はぁ……はぁ……」
しばらく何が起きたのか分からなかった。
見慣れた天井、見慣れた部屋、見慣れた景色……
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
「……夢?」
胸に手を当てる。心臓はまだ少し速い。
「妙な夢でしたわ……」
けれど、夢は夢。そう思って首を振る。
そして、ふと鏡を見る。寝起きで少し乱れた髪。
その向こうから、いつもの自分がこちらを見返している。
先ほどまでの悪夢が嘘のようだった。
そうだ……今日からなのだ。
今日から、わたくしも学園の生徒になる。
「……ふふっ」
自然と頬が緩んだ。
新しい生活、新しい友人、そして、まだ見ぬ出会い。
何より――。
「学園生活、楽しみですわ!」
わたくしは、ベッドから立ち上がった。
制服に着替え、髪を整え、最後に姿見の前でくるりと一回転する。
「完璧ですわね!」
その姿を見て、満足そうに頷いた。
朝食の席では、家族や侍女、執事から入学を祝われた。
普段より少しだけ豪華な料理が並び、わたくしは嬉しさから、少しだけ早く食べてしまっていた。
「こらこら、そんなにがっつくのは、淑女としてよくありませんな」
執事が、そんなことを言ってくる。
「いいじゃないの。わたくしは今日から学園なのよ? 中学部とは違って、華の学園生活……! 夢にまで見た……!」
わたくしのその言葉に、執事は心配しつつも、どこか嬉しそうな顔をする。
「そういえば、オルソワ家のエートルくんも、一緒の学園に入学するらしいぞ」
「まあ!」
お父様が、そのような情報をくれた。
その名前を聞いた瞬間、わたくしは笑顔を隠しきれなくなった。
「エートル殿も学園へ通われますのね!」
「ええ。以前から楽しみにされていたそうよ」
わたくしは、お母様からそう聞かされる。
「そうでしたの!」
エートル・ド・オルソワ。
幼い頃から何度も顔を合わせてきた、隣領の貴族の息子。
何度も一緒に遊び、時には喧嘩をしたこともある。
幼い頃には、二人で屋敷を抜け出して叱られたことだってあった。
「久しぶりにお会いすることになりますわね」
自然と笑みがこぼれる。
「最後にお会いしたのは……いつでしたかしら」
そう考えているうちに、懐かしい記憶がいくつも浮かんできた。
あの頃から、彼は変わらない。……たぶん。
「では、行ってまいりますわ!」
魔動車に乗り、屋敷を出る。
沢山の荷物、沢山の服、新しい鞄……そして、新しい学校。
胸を弾ませながら学園へ向かったわたくしの魔動車は、正門の前で止まる。
「わぁ……!」
目の前に広がる巨大な校舎。
多くの生徒たちが行き交い、あちこちから楽しそうな声が聞こえる。
これから始まる生活への期待に、胸が高鳴った。
「お嬢様……お気をつけて」
「わかってるわ! あなた達も、気をつけて帰るのよ! ご苦労様よ!」
わたくしは、魔動車が見えなくなるまで手を振り続ける。
そして、わたくしは振り返り、改めて学園を見る。
『ドリーム学園』
それは、多くの方の憧れであり、貴族のステータスとまで言われている。この王国一番の進学校にして、沢山の出会いを育む地。
生徒たちが集まり、同じ屋根の下の生活を送ることで、異なる地位の方たちとの交流を生み出す、『寮生活』という画期的なシステムがあるのが魅力……
そんなドリーム学園は、わたくしにとっても憧れであった。
「……さて、入りますわ……!」
その時、後ろの方で声がする。
「パピヨン!」
「……?」
聞き覚えのある声に、わたくしは、声のする方向を向く。
そこには、一人の少年が走ってきていた。
「やっぱりパピヨンだ!」
「まあ……! エートル殿!」
わたくしの幼い頃からの友人との、久しぶりの再会だった。
「久しぶり!」
「ええ、本当に。少し背が伸びたかしら?」
「最初にそこを見る!?」
「ふふっ。冗談ですわ」
そんなやり取りを交わしながら、二人は並んで校門をくぐっていく。
昔と変わらない。そう思った。
――少なくとも、このときは。
◇◇◇
「新入生代表! リュミエール・ド・ローブ殿」
「はい!」
その声は、凛々しく、そして、威厳のあるお声であった。
リュミエール・ド・ローブ様
この国の王太子であり、次代の国を背負うお方。
わたくしとは住む世界が違う方であり、婚約者様も同い年と噂では聞いている。
(でも……なんでわたくしの夢で出てきたのかしら……)
わたくしは今日の夢の中で、リュミエール王太子が出てきた。
しかも、婚約者として……
もしかしたら、そういう考えが少しでもあったのだろうか……
(……まあ、考えても仕方ないですわね……!)
王太子様は、新入生の代表として、挨拶を始める。
「今回、私たちが入学できたのは、常にこの国を守る民や兵士、そして、商人や貴族たちの尽力があってこそです! 私たちは、その心を忘れずに、この、ドリーム学園にて、夢を手繰り寄せる力を、育みたいと考えております! 新入生代表 リュミエール・ド・ローブ」
その言葉が終われば、拍手が巻き起こる。
もちろん、わたくしも拍手をした。
(流石は王太子様……!)
そして、入学式が終わり、各自は寮の方へと向かう。
わたくしも、寮の自室へ向かった。入るのは初めてだ。
寮は紳士寮と淑女寮に分かれており、わたくしはもちろん淑女寮に入寮する。
「さて……緊張しますわ……!」
わたくしは、扉を開ける。
「……あなたがパピヨン・ド・レーヴさん?」
部屋に入ると、先に荷物を置いていた少女が振り返った。
「ええ。あなたが……」
「レアリテ・ド・ラルレヴィ。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。レアリテ嬢」
こうして、わたくしの新しい生活が始まった。
◇◇◇
その日の夜。
荷解きを終えたわたくしは、ふと部屋の鏡へ目を向ける。
「……?」
鏡の中のわたくしが、こちらを見ている。
いつものわたくし……何も変わらない。
そう思った。
けれど……
ほんの一瞬。
鏡の中のわたくしが。
わたくしとは違う笑みを浮かべたような気がした。
「……?」
彼女は、目を瞬く。
そこには、いつもの彼女しかいなかった。
「気のせい……ですわね」
(疲れているのかしら……慣れない環境に適応できてないだけですわね……)
そう呟いて、彼女は鏡から離れた。
誰も喋らない静かな部屋に……
鏡だけが、静かに彼女を映していた。
さて、まあ分かると思うのですが、分からない人もいるので、絶対。
説明しよう!
この物語の爵位について
爵位は、王が臣下に授けるもの。
上から順番に
公爵
侯爵(辺境伯)
伯爵
子爵
男爵
となっています。
少なくともこの物語では、そうなってるということです。
そして、パピヨンは侯爵令嬢です。
かなり高い地位ですね。
さて、これからも、この物語をお楽しみに!
フロンティアグリーディア〜今日と今日から〜も見てね!




