亀の甲より年の功
ここはグラシキシティの外れにある、年老いたバーテンダー一人で切り盛りするショットバー「タートルズ」。室長が重いドアを開けて店に入る。
白髪のバーテンダーは席についた室長に、無言で熱いおしぼりを出す。
「ご注文は?」
無愛想な店主に、
「ウミガメのスープ、ニンジン抜きで」
と室長が答えると、店主は無愛想な表情を崩さず、そそくさと表の看板を「closed」に変えて店内へと戻ってきた。
「あんたほどの大物が、今日はこんなおいぼれに何の用だ?マイトガイ」
「ロンサムジョージ、今日はあんたの知恵を借りたい」
「よかろう、話してみな」
「マイトガイ」と呼ばれた室長は、今回の一件を「ロンサムジョージ」に話した。
「……なるほど、その傭兵部隊をみんな始末しろ、と?」
「ああ、『ロンサムジョージ』のとっつぁんには、奴らの話は網にかかってないかい?」
「こっちが情報を知りたいくらいだよ」
「そうかい」
「あと、『マイトガイ』あんたすっかり職人になっちまったな。それじゃあ行き詰まるのも分かる」
「というのは?」
「あんたはすっかり、『スパイ育成職人』で、上との『政治交渉』ができなくなっちまってる」
「そうなのか?」
「あんたは部下可愛さと、ミッションとの間で板挟みになってる。上と交渉して妥協案を引き出すんだよ」
「というと?」
「とりあえず、適当なゴロツキをたぶらかして、そのマイカ・イチノセって女をとっ捕まえて様子を見るんだよ。素直に攫われて、変なことされて落ち込んでるようなら可哀想だけどその女はシロだ。とんでもない抵抗したり、酷い目に遭っても平然としてるなら、そいつはクロだ。始末すればいいし、人質にして仲間を呼んで芋づる式に始末してもいい。最悪そのマイカって女がシロであっても、『とりあえず対処しました』って上への言い訳は立つし、クロであっても時間は稼げるし敵にダメージを与えたと言い訳は立つ。泥臭い方法だが、まずは名前が割れてるマイカって女を捕まえてみちゃどうだい?」
「確かにその通りだ。一足飛びにマジなネタに取り付く方法はねえなあ」
「大体」
ロンサムジョージはマイトガイに向き直る。
「マイトガイ、お前さんほどの人ならこんなアイデアくらいすぐ出るだろう?お前さん、本当はわしに背中を押してもらいたかったんだろう?」
「とっつぁんの目は誤魔化せねえなあ」
「どうした?何か胸につかえるもんがあるのかい?」
「この女くらいの年齢の娘が居る」
「ああ……そういうことかい。それならマイトガイ、お前さんもう潮時だよ。このヤマが片付いたら、どこか暖かい所へ別荘でも買って隠居しな」
「それもいいな」
「こいつはサービスだ、飲んでいけ」
ロンサムジョージはマイトガイに年代物のバーボンのロックを振る舞った。




