ナルシスト、目覚める
「む…はっ、どこだここ…それより、顔は無事か!?」
ヤナギが目を覚ますと、そこは知らない天井だった。窓からは朝日が入っている。
「何があった…能力を使ってウサギ親方を倒した所までは覚えているのだが…」
ヤナギが起き上がろうと身体を動かすと、ボキボキという音が骨から響いた。
「ぐぅぅぅ……この程度の痛み…!俺には効かん!」
無理やり身体を起こし、激痛に耐えながらも辺りを確認する。特に変わったところはない、平凡な部屋だった。
「…ふむ…予想するに、ハノが宿屋に泊めてくれた、というところか?」
ヤナギは手鏡などを使い、自身の身なりを整え、部屋を綺麗に整頓し、部屋を出た。
すると、ちょうど隣の部屋からハノが出てきた。
「あっ、ヤナギさん。目覚めましたか?」
「おはよう、ハノ。やはりハノが俺を泊めてくれたのだな」
「はは…運ぶの大変だったんですよ?後衛にこういうことをやらせないでください」
話にひと段落着くと、ひとつ疑問がハノに浮かぶ。
「そういえば、あんなに激しく戦ってたのに、もう動けるんですか?そっちの部屋に行こうと思ってたのに」
「ああ、確かに骨が悲鳴をあげているが、モーニングコールにはピッタリだったぞ」
ハノの顔が一気に強ばる。
「…とりあえず、今は安静にしていてください。回復ポーションと、包帯とか買ってくるので、部屋で待っててください」
「まあ待て、俺はもう平気だ。この程度で崩れるほど、俺の美貌は脆くない。というか、買い物をするなら、紙とペンを買ってきてほしい」
「紙とペン…?何に使うか分かりませんが、とりあえず部屋にいてくださいね!」
ハノはヤナギを無理やり部屋に押し込み、そのままどこかに行ってしまった。
「うーむ…この様子では、俺は風呂に入れていないだろう。それはダメだ。しかし、金もない…」
部屋に一人取り残されたヤナギは、何かを思いつき、それを始めた。
「ふっ、健全な肉体に健全な精神が宿るという。普段からのトレーニングは怠れん!」
日課である筋トレを始めた。
腹筋、腕立て、スクワッド、股上げ、クランチ、それぞれ二十五回を三セット。
「やはり、一日でも怠ると…筋肉は…無くなってしまうからな…こういう日々の積み重ねが…人を美しく、強くする!」
三セットを終わらせると、ヤナギは柔軟を始めた。
「ふう…運動後の柔軟は必要不可欠…これにより身体を柔らかくし、更に運動能力をあげなければ…」
すると、部屋のドアが開き、ハノがパンパンの紙袋を持ちながら入ってきた。
「何してるんですか…というか汗めっちゃかいてるじゃないですか!やめてください!」
「普段のストレッチを怠ると、肉体というのは簡単に脆くなるのだ」
「もう!とりあえず、近くに【セントー】があるので、そこで汗を流してきてください」
聞きなれた単語を聴き、ヤナギは少し疑問に思う。
「銭湯…日本独自の文化のはずだが…」
「ブツブツ言ってないで!これ、着替えとタオルとセントー分のお金です。早く行ってきてください!」
ヤナギはそれらを袋に詰め、セントーに向かった。それは見てすぐに分かるほどに銭湯だった。
「【ゆ】とかかれた暖簾…これは間違いなく俺の思っている銭湯だな」
暖簾を潜り中に入ると、そこは街には似合わないほど和風の内装だった。
「銭湯を利用したいんだが、金額はどのくらいだ?」
「はいよ、うちは銅貨五枚だね」
受付にいるおじいさんに銅貨五枚を渡し、【男】とかかれた暖簾を潜る。
「【男】…おかしいな、なぜ漢字がある」
疑問に思いながらも、一通り準備を済ませ、中に入る。
「…まさしく銭湯……記憶通りだ」
見慣れた内装。様々な湯があり、そこには色々な人が浸かっている。
シャンプーやリンス、ボディーソープは置かれており、それらを使い身体を洗った。
「流石にスキンケア用具はないか…高望みしすぎだな」
「鏡に写っている俺…カッコイイ!」
いつものように自画自賛し、泡を洗い流し、湯に向かう。文字は分からないが、水風呂や、電気風呂など、色々とあるようだ。
「ふぅ…色々と入ったが、どれも見たことがあるな」
全体を見回し、外にでて、売っていたフルーツ牛乳を飲みながら、ヤナギはそんなことを呟いた。
「……」
ヤナギに頭に疑問が生まれた。
(……似てる、で済む話じゃないな)
ヤナギはある結論に至った。
「俺以外にも転生者が居た、ということか。となると、女神能力を貰ったはずだ。なのに、なぜ七囚人というのがいるんだ?」
強い力とわかりやすい目的、ならば討伐に向けて動いているはずだ。
「そういえば、処刑人というのがいたな…考えても仕方ない。一度部屋に戻るか」
考えをまとめるため、ヤナギはセントーを後にしハノのいる部屋に歩を進めた。




