ナルシスト、モンスターを狩る
「では依頼を受けに行こうか」
「はい、そうしましょうか」
仮パーティを組んだ相手、ハノと一緒にヤナギは受付嬢の元へ向かった。
「さっきぶりだな。言われた通り、パーティを組んできたぞ」
「…今回は許しますけど、あんなこと、絶対もうやらないでくださいね?では、ギルドカードを出してください」
「……善処する」
受付嬢の表情は、笑ってはいるが怒りも混じったような表情だった。ヤナギは顔を逸らしながらも、人差し指と中指の間にギルドカードを挟み、そのまま渡した。
「はぁ…とりあえず、依頼を選んでください。これが今のあなた達が受けれる依頼一覧となります」
ヤナギ達の前に、十枚ほどの紙が置かれた。
「……」
(全くわからん…やはり文字を読む練習をしなくては)
「へぇ、結構良い依頼が多いですね。ほら、このベビィラビット狩りとか」
「そうなのか?」
「ベビィラビットが現在大量に出現していまして、一体一体なら対処出来るんですけど、群れが沢山現れてしまいまして、生態系が崩れる手前なんです」
「なるほど、わかった。受けよう」
一体一体なら対処できるとの事。異世界に来たばかりの自分でも対処できると思い、ヤナギは依頼を受けることにした。
「承知しました。では、ここに書かれている場所にご向かい下さい。一体につき、銅貨一枚となります。狩った証拠として、身体の一部を切って持ってきてください。ただし、耳や目などは持ってこられても受け付けません」
「なぜダメなのだ?」
「耳や目は左右の違いが分かりずらいんです。それで量を詐称する人がいるので、受け付けないようになりました。見分けれる人もいるのですが、全員がそういう訳では無いので…」
「なるほどな…まあいい、大量の金の準備をしておくんだな」
「では、行ってきますね」
ヤナギとハノはギルドを後にし、書かれていた場所に向かった。
「ハノ、金は持っているか?」
「?ええ持ってますけど」
「…悪いが、短剣をひとつ俺のために買ってくれないか」
「……は?」
ヤナギは今、武器がなかった。素手で戦っても良いが、それほど甘い敵なのかも分からない。
「はぁ…組む相手間違えたかも…とりあえず、そこの武器屋でいちばん安いの買ってくるので、待ってください」
「申し訳ない。お詫びに、俺のこの美貌を見せてやろう!」
「いりません!」
ハノは少し怒った様子で、武器屋に向かった。ヤナギは言われた通り待っていると、数分でハノが戻ってきた。
「はい!銀貨一枚のやっすい短剣です。ベビィラビット十体分ですよ?」
「ほんとに申し訳ない。これで最低限戦える」
「じゃあ、書いてあった草原に行きますよ」
草原に向かい、門に向かっていると、前に通った門だとわかった。
「なんだか懐かしいな」
「なんでです?」
「俺はここの門からここに来たのでな、なんだか懐かしかったんだ」
僅か一日ほど前のことなのだが、なんだかヤナギは懐かしく感じた。
門を抜けると、前に通った場所ではなく、右へと向かった。
「真っ直ぐじゃないのか?」
「何言ってるんですか。あのまま行ったら、化け物だらけの草原に出ますよ?」
「……」
自分が通った時に、化け物に襲われなかったことに感謝しながら、書かれていた草原に向かった。草原は穏やかで柔らかい風が吹いていおり、太陽に光があたたかい。草と花が生い茂っており、草食動物にとってはかなり良いところだろう。
ヤナギ達の視線の先には、十センチほどの白色の体毛をしたウサギが群れを成していた。
「ここですね。見てわかるぐらい、結構ベビィラビットがいますね」
「では、俺が前で狩りをするが、ハノはどうする?」
「僕は後ろでの後方支援に専念します。肉体戦は苦手でして…」
「なるほど。では、後ろは任せた」
ヤナギはベビィラビット達に向かって走り出した。ベビィラビット達はヤナギに気づいたのか、攻撃体制をとっている。ヤナギは手鏡で髪などをいじっている。
「ふむ…良さそうだな。風になびく髪も美しい!」
ヤナギはベビィラビット達に向け、短剣で斬りかかった。ヤナギは短剣を軽く振り、風を切る音が聞こえてきた。
「ふっ……この刃、意外と悪くないな」
次の瞬間、ベビィラビットが三匹同時に飛びかかってきた。
柔らかい毛並みと、鋭い前歯が迫る。
ヤナギは、短剣を横薙ぎに振るった。
短剣が空気を裂き、柔らかい肉を断つ感触が手に跳ね返る。
血が細かい飛沫となって舞い、草の上に赤い斑点を散らした。
「…やはり生き物を殺すというのは気が引けるが……生きるためだ。許してくれ」
と言いながらも、ヤナギは素早く次の標的に目を向けた。
小型で素早い動きに翻弄されながらも、ヤナギは切りかかり、時折手鏡をチラリと確認する。
(前髪が少し乱れた……これは美しくない)
背後からハノの声が飛ぶ。
「ファイア!」
炎の玉がヤナギの横をすり抜け、逃げようとしたベビィラビットを直撃した。
焦げた毛の臭いが風に乗って漂ってくる。
「連携が少しずつ合ってきたな……悪くない」
狩りが順調に進み、ベビィラビット達の数も減ってきた。
「こいつら、すばしっこい上に小さくて斬りずらいな…」
「それがこのモンスターの厄介なところですよ。小さくてすばしっこくて、繁殖力も高い。でも打たれ弱いので、狩りやすい方ですよ」
針の穴に糸を通すような作業だが、ヤナギ達は順調に狩りをしている。ベビィラビットを狩る度、その悲痛な鳴き声が聞こえてくる。
小さな死体が草の上に折り重なる。
血の臭いが、ぬるい風に混じって漂った。
ハノは小さく息を吐き、再び杖を構えた。
気づけば、群れを四つほど狩り終えていた。
ベビィラビットの血がヤナギに短剣にベッタリとついていた。
「ここら辺にしよう。夜も更けてきたし、俺も少し疲れてきた。汗が少し出てきたな…そんな俺も美しい」
「そうですね。僕もMPがなくなりそうです。報酬は、5:5でいいですけど、武器の分は返してもらいますからね」
「それで文句はない。では、狩った証拠に手や脚を集めるとしようか」
ふたりでベビィラビットの脚を切り取っていると、なんとも、嫌な風が吹いた。
その風は硬く、月の光も嫌に二人の背中を刺す。
草を踏み潰す音がした。
二人の背後に、巨大な影が現れた。
嫌な予感がして、ふたりが後ろを見ると、そのには優に三メートルは超えているうさぎがいた。
「…こいつは……」
「あ、あ、あ…」
ハノは絶望した顔をしていた。ヤナギは短剣を構え、戦いを直ぐに始めれるようにした。
「こいつは……ウサギ親方…です」
ハノがそうヤナギに言うと、ウサギ親方の咆哮が辺りに響いた。その咆哮は、空気を切り裂くような怒号だった。




