ナルシスト、料理屋に行く
図書館を出た後、ヤナギは道を歩いていた。
さっきの違和感の正体を考えていたところ、足は無意識のうちに果物屋のところに来てしまった。
今は客足が少ないのか、ゴリナは椅子に座りながら何か紙を書いていた。
すると、こちらに気がついたのか、招くような手をし始める。
ヤナギはそのまま前へ進み、ゴリナの元に向かう。
「おう、久しぶりだな。見てたぜ?表彰式」
「やはり見ていましたか。どうでした?とても輝いて見えたでしょう」
「輝いて見えてはなかったが……そうだ!お前、色欲倒したって言ってたよな?凄いことしたな!!」
ゴリナはヤナギの肩を叩きながら話を続ける。
ヤナギは元気そうなゴリナの姿を見て安心した。
そして、彼になら“あれ”を伝えれるのかもしれないと思い、口を開こうとした。
「……あの――」
だが、ゴリナの過去を思い出す。
家族を失い、一人孤独に生きていたこと。
「……ん?どうかしたか?」
「……果物が欲しくてな。これはひとつどのくらいだ?」
ヤナギは口をつむぎ、近くにあった果物を手に取り話をそらす。
「お?それか、いいって。街を救ってくれた人に代金なんか払わせねぇよ。……まあ、今回だけだがな」
「そうか……ではいただきます。俺はここらで帰るので、また」
「おう!またな」
ゴリナの初めの印象は静かそうな老人と言った感じだったが、段々と元気で明るくなっていき、なんだかこちらまで元気が貰えるようだった。
ヤナギはその足でそのままセントーに向かい、出た後に宿で一泊し、いつものように床に就く。
「……よし、行くか」
目が覚めた瞬間に揃えていたものを手に取り、宿を出る。
太陽は街を明るく照らしている。
時間はまだ早朝。
街では元気そうに子供達が遊んでいる。
今は何も考えずに歩いており、お腹が空いていたため適当な店を探していた。
「こことか良さそうか」
【ミートラス】と看板に書かれた店が目に付いた。
ドアを軽く押し、中に入る。
店は早朝だからか人が全くおらず空いていた。
「あっ、ミヤモトさん――あれ?あっ、すみません。常連さんと勘違いしていました」
「いや、大丈夫だ」
カウンターには痩せた男がカップを洗っていた。
ヤナギはカウンター席に座り、メニューを見渡す。
座っていると、カウンターから水とおしぼりが置かれる。
何となく選んだものを注文し、調理されている光景を見つめる。
置かれたおしぼりで手を拭いていると、ドアが開き、声が聞こえる。
「店長殿!!やっておられる……か、おっと、客がおったか。すまん」
「あっ、ミヤモトさん。お待ちしておりました」
声の主は、まるで日本の武士のような格好をしていた。
日本刀のようなものを二本、鞘に装備している。
紫色の袴のようなものを着ており、下は黒色のような生地になっている。
髪型は総髪のように髪を後ろにまとめ、まげを作っている。
目は惹き込まれそうな黒色で、ヤナギのことをじっと見つめている。
「……なんか、ようか?」
「ああ、すまないな。何となく、あまり見ない格好だったのでな」
「はは、そうかい、そうだよな。俺の国のもんがここに来るのは珍しい、ってもんだよな」
ミヤモトと呼ばれる男は笑いながら話す。
すると、こちらに歩き始め、隣の席に座る。
「すまねぇが、ここは俺がいつも座ってる席でな。我慢してくれよ」
「ああ、構わんぞ。しかし、珍しい格好だな……まるで武士のようだな……」
ヤナギはボソッとつぶやく。
すると、ミヤモトは目を輝かせながらこちらをじっと見つめる。
「お前さん、武士、しっとんのか?」
「ん?ああ、俺の国で昔居たそうだぞ」
「なに?昔……おかしいな。武士は俺の国以外ではいなかったって話だが……お前さん、どこの国生まれだ?」
「どこって、日本だが……あっ、すまない。ここにはもうなかったか」
「……日本」
ミヤモトは眉間に皺を寄せながら何かを考えている。
「確か、どっかで見た事だが……昔は俺の国もそんな名前だった気がするが……」
「そうなのか?どこの国なんだ?」
「……決まった名前はないんだよな……だが、昔は“黄金の国”とかと言われていたとか聞いたな」
その言葉を聞くと、一気にヤナギの考えが加速する。
黄金の国。
それは、確かに日本のことを指す言葉だ。
この世界には、ヤナギの知らない謎が多くある。
そして、その中には、元の世界に繋がるものもあるのかもしれない。
ヤナギが口元を抑えながら考えていると、目の前に料理が置かれる。
「こちら、どうぞ」
「……ん?ああ、すまない。感謝する」
ヤナギは軽く手を合わせ、いただきますと口にした後、ナイフで肉を切りフォークで口に運ぶ。
口に入れた瞬間、背筋な伸びる。
「これは……」
頭の中の考えが弾け飛ぶ。
「……いい、味だな」
ヤナギは顔を歪めがら、店主に親指立てる。
店主は苦笑いでその様子を見ている。
料理の味は、ヤナギが食べてきた肉料理の中で、ダントツの、不味さをしていた。
「……あの、不味のはわかっているので、残してもらっても大丈夫ですよ?」
「一度注文したものは……食い切るのが流儀だ……!」
ヤナギは口の中で異様な味を出している肉を噛み締め、喉の奥に流す。
そして、ミヤモトの方にも料理が置かれる。
「そんなに不味いか?俺はこの味が、好きなんだがな」
肉を豪快にフォークで刺し、噛みちぎる。
動作に一切の迷いがなく、味わいながら飲み込む。
その行動に、ヤナギは一瞬、賞賛の言葉を送ろうと思った。
「……ミヤモト……と言ったか?」
「ん?ああそうだ。いい名前だろ?」
「……ああ、色々と、ほんとに凄いやつだな」




