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ナルシスト、日常へと戻る

険悪な雰囲気になった壇上で、王は気まずそうに二人に話しかける。


「すまんが……なにか一言あるかの?」


「……一言?いいぞ。それを貸せ」


ヤナギは半ば無理矢理王からマイクを奪い取る。

その瞬間、少しザワザワとしていた会場に静寂が訪れる。

ヤナギはその静寂を噛み締めるように少し目を閉じる。

目を開けると、会場を見渡すように話し始める。


「……多くは語らない。だが、ひとつ覚えておけ」


「俺を、その目でしっかりと見ていろ」


会場は盛り上がる訳でもなく、ただただ静かな雰囲気を続けていた。

ヤナギは満足気にマイクを返す。


「えっと……いい言葉をありがとう……ヤナギ殿……」


イレギュラー続きで王は困惑した様子で話を続ける。


「んん!!……続いては、勲章の授与式を行う!!授与してくれるのは、私の愛しい娘が行うぞ。さて、行ってきなさい」


靴の音と共に王の娘が歩いてくる。

純白の綺麗なドレス。

顔はよく見えないが、美人であることは確実だろう。

身長は少し小さい程度。

勲章を持った白の手袋が、ヤナギの胸に近寄る。

娘は言葉を発さずに、淡々と、こっちを見もせずに服につける。

勲章がつけられると、辺りから大きな拍手が響いてくる。

レインにも同様につけ、そそくさと遠くへ行く。


「ふむ……俺が美しすぎて直視できなかったようだな」


「自惚れんのも大概にしろよ。王の娘なんだから、そういう教育されてんだろ」


「そういうものか……」


ヤナギ達は勲章を触り、自分達が色欲を退治したのだという実感を得た。

その実感を噛み締めながら、拍手と共に壇上から降りる。


「……いつも見てますよ」


娘は誰にも聞こえないように小さな声で、ぽつりと呟く。

王も声には気づかず、授与式はそこで幕を閉じ、市民達は皆自分の生活を始めた。


ヤナギとレインが少し活気を取り戻した街を歩いていると、後ろから声が聞こえる。


「ヤナギさん!どうでした?授与式は」


そこには少し息を切らし、汗を流しながら服が少しはだけたハノが立っていた。


「ハノか。やはり、俺ほどの美しさがあれば歓声を独り占めできてしまうことを再確認したな……というか大丈夫か?そこまで暑いなら、マフラーは外せばいいだろう」


「大丈夫ですよ……そういえば、はいこれ。手鏡、壊れてたんですよね?」


ハノは少し誤魔化すように、ヤナギに手鏡をプレゼントする。

金色の塗装がされており、シンプルながらも存在感を出している。

ヤナギは手鏡をじっくりと眺め、満足そうに頷く。


「……いいじゃないか。俺によく合う手鏡だ」


「満足してもらえて良かったです。この後、なにか予定はあるんですか?」


「そうだな……そろそろ医者に言われた通りにMPを貰いに行かなくてはならないからな。勉強もしなければならないし、図書館に向かう」


「そうなんですか。それじゃあ僕はお二人を探しておきますね。それと、明日またギルドで会いましょう」


「ああ、また明日な」


ヤナギはハノと別れ、図書館へと向かい始まる。

先程の話の続きをしようとレインを探すと、いつの間にかどこかに行ってしまい姿が見えない。


「一言ぐらい言ってから帰れば良いのにな……まあいいか」


深く考えずに図書館へと向かう。

途中の道でペンと紙を雑貨店で買う。

何か言われると思ったが、特に何も言われずに買い物が終わったため、ヤナギは少し複雑な気分になる。

授与式があったためまだ空いていないと思ったが、門は空いていた。


「ふむ……まああの司書のことだからな。どうせ式に来ていないと思っていた……」


独り言を呟きながら図書館へと入る。

そこにはいつものように中央で本を読んでいる司書の姿が見えた。

ヤナギは司書へ一直線で歩き始め、軽く挨拶をする。


「久しぶりだな」


「んあ?うげっ……クソ客……じゃなかった。確か……ヤナギ?じゃないっすか」


「名前を呼ばないとめんどくさいことを学んだようだな。まあいい、俺がここに来た理由はわかるか?」


「勉強……と、MP補給っすよね?どうせお前のことなんで、私以外に見当たらないと思ってたっすよ」


「正解だが、生意気なやつだな……」


悔しそうにヤナギは司書を少し睨む。

司書はその視線に煽るような視線で返す。

すると、ヤナギは何かを思い出したかのように話しかける。


「そういえば、お前の名前を聞いてなかったな。名前はなんだ?」


「え……名前?えっと……ちょっと待つっすよ?」


司書は少し合われた様子で頭に手を当て考え始める。

数秒考えた後、思い出したかのように名前を告げる。


「私の名前は、シリウス・ファレノプシスっすよ。頭によく刻むことっすね」

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