ナルシスト、一段落する
「やはり街は壊滅状態だな……」
「いくら色欲を倒せたとはいえ、被害は測りきれない。……まあ過ぎたことは仕方ないさ。今は再建に力を入れ続ければいい」
「疑問なのだが、我々は今これほどボロボロな訳だが……他の七囚人が攻めてきたら終わりではないか?」
「僕がいるから、来ないよ」
「……はは、これほど信頼できる言葉はないな」
夜に浮かぶ星を見つめながら、ヤナギとイータは話し合っていた。
未だ痛む腕を見つめながら、今後のことを考える。
この国は被害により、再建にどのくらいの時間がかかるのかは誰にも分からない。
ずっと、この国にいていいのか。
そんな疑問が脳裏に過ぎる。
「……そういえば、俺はここ以外の世界を知らないな」
「……じゃあ、仲間を誘って他の国に行くのもいいんじゃないかな?」
「確かに、良いかもしれんな……一度検討しておこう」
「まあ、できるか分からないけどね」
「なんと?」
「なんでも、ないよ」
イータの言葉は、ヤナギには届かなかった。
立ち上がったヤナギは仲間の元へと歩き出す。
ハノ、ヨウ、ミラは疲れたのか眠ってしまっている。
ヤナギは久しぶりに髪を整えようと手鏡を取り出す。が、
「……嘘……だろ……」
手鏡を見た瞬間に、膝から崩れ落ちる。
そこには見るも無惨な姿なバキバキのガラスの破片が散らばっていた。
「……すまない……父さん……壊してしまった……」
父から誕生日に貰った手鏡を握りしめ、ヤナギは深く謝罪した。
「ん……あっ、手鏡割れちゃったんですか?なら、新しくプレゼントしましょうか?」
目が覚めたハノは、ヤナギの手の中の手鏡を見つめ、ヤナギに話しかける。
瞼が一瞬動くが、ヤナギはすぐに表情を整え、返事を返す。
「そうだな。もう何年も使っていたからな……これは、丁重に梱包して取っておこう」
ポッケに手鏡を丁寧に入れた後、ヤナギは髪を流す。
「明日……表彰があるそうですよ。城のある街の中央部分は比較的被害が少なかったので、そこで行うようです」
「そうか。それには誰が出るんだ?」
「そりゃ、あの戦闘に参加した人達全員ですよ。それと、色欲討伐をした重宝人の、ヤナギさんですよ」
「……これは参ったな。俺の美しさがより知られてしまう」
「そうですね……今日は早く寝ましょう?明日は朝早いですよ」
「そうだな……ん?そういえばレインを見てないんだが、どこにいる?」
「ああ、それなら確か、橋で川を見てた気がします」
ヤナギは橋の方へと歩き出し、レインを探す。
すぐに特徴的な青髪を見つける。
その青髪は橋の手すりに座り、口から煙を吐き出していた。
「おい、お前何し……タバコか?やめてくれ」
「あ?何しようが俺の勝手だろ……あっちはこれを吸えねぇし、きゃあきゃあうるせぇんだ」
「タバコは健康上害なるものだ。控えた方がいいぞ」
「そんなことは、みんなわかって吸ってんだよ。大人ってのはな、多少害があっても、安らぎのためにはこういうの必要なんだよ」
「……そうか……なら、俺の前だけでも吸うなよ?副流煙で不健康になったら俺の美貌が薄まるだろう」
「……はぁ……調子崩れる。……はいはいわかったって、んな睨むな」
レインはまだ半分程あるタバコを握りつぶす。
ゴミを袋に入れる。
ヤナギは隣に座り、レインと同じ空を見上げる。
「こう見ると、やっぱ月は綺麗だな……」
「……告白か?キモイぞ」
「あ?なんでそうなんだよ……というか、なんかもってないか?食べ物、腹が減った」
「何もないな……お前、紙食うか?」
「食わねぇよ……」
ヤナギはクシャクシャになった紙を取り出し、レインに押し付ける。
レインは食い気味に遠慮し、紙を渡し返す。
「まあ今日は寝ることだな。明日は表彰がある。俺達は色欲討伐として表彰されるようだぞ」
「……はぁ……めんどくさいことこの上ないな」
「あっ、それと」
「まだなんかあんのかよ」
ため息混じりに言葉を吐き出すと、ヤナギは急に真面目な顔になる。
「自己犠牲は、あまり好きではない。そして身を滅ぼす。辞めた方がいいぞ」
ヤナギの長髪を風が揺らす。
冷たい風が肌に突き刺さり、少し肌寒い。
レインの表情が少し歪む。
目はヤナギを睨むようになり、手にあるタバコの箱が少し歪む。
レインは、肯定も否定もせず、そのまま去る。
「してんのは、どっちの方だよ」
その言葉を残しながら。
―――――一日後―――――
空は快晴。
雲ひとつないきれいな青空。
草原には温かな風が吹き、草と花を揺らしている。
ちょっとした丘の上の木の下で、フードを被った男の近くに動物が集まっていた。
男は血色の悪い肌で、目の下には隈がある。
上は白のシャツを着ており、ズボンは少しダボッとした長ズボンを履いている。
目は濃い緑色で、不気味な印象を残す。
猫、犬、鳥と種族を問わず、十種類ほどいる。
動物は安心しているのか、みな安心しながら目をつぶっている。
男の膝の上には猫が喉をゴロゴロと鳴らしながら転がっている。
「……お前はいいよな……可愛くって……何しても、大概のことは許されて……」
猫の喉を優しく右手で撫で、左手は猫の頭をワシャワシャとしている。
ゴロゴロが更に強くなり、猫は手に頭を擦り付ける。
「俺は、ミスをしたら怒鳴られて……誰からも……求められなくて……それなのに……」
段々と、撫でる力が強くなる。
肩に止まっていた鳥は逃げ出そうと羽を羽ばたかせるが、上手く動かせずに地面に転がっている。
「本当に……お前はいいよな……お前は……お前はよ……お前は……お前は……!」
男は喉を締め付けるように動かす。
猫は逃げ出そうともがき始めるが、頭を鷲掴みにされ、逃げることができていない。
「お前はよ……!お前はよ……!!お前はよ!!!お前はよ!!!!」
ギシギシと、骨が崩れる音がする。
猫は手足をバタバタと動かし、男の手に爪を立て傷をつける。
小さく、血が垂れる。
「本当に!本当に!!本当に!!!本当に!!!!ホントに!!!!!ホントに!!!!!ホントによ!!!!!!!」
グシャ
何かが、潰れる音がした。
男の手には肉片と血がこびりついており、地面にはふたつの目玉がコロコロと丘から転がっている。
男の顔には血と肉片が少し飛び跳ねて着いている。
「……ああ〜、またやっちまったか……」
男は顔に着いた血と肉を親指で弾くように拭く。
顔にはしっかりと、血の跡が着いていた。
周りの動物は、皆皮がはげ、肉と骨が露出している。
匂いに誘われたハエが近づいてくるが、ハエもすぐに腐り、地面に落ちる。
木は腐り果て、葉はひとつもない。
地面の草も全て灰色になり、吹く風が揺らすのは男のコートのみ。
「処理がめんどくさいな……そのまんまでいいか」
肉塊達を見つめながら、男は呟く。




