希望
黒の球体の中で、イータは魔法を放出し続けた。
無慈悲なことに、何も変化しない。
無限に続く世界を、歩き続け、燃やし続ける。
それでも、何も変わらない。
その時、世界にヒビが入る。
「これは……」
黒の球体が、割れる。
イータは、解放される。
それは、色欲の撃破を意味する。
イータは、ニヤリと口角を上げる。
だが、外は地獄だった。
地面には、色欲と戦っていたのか、傷だらけのレイン、ハノ、ヨウがいた。
それを治しているミラ。
今にも死にそうなヨウを見つめながら、目を赤くして涙を流している。
「……これは……僕の責任だ……」
イータは、自分の愚かさを悔やんだ。
油断したことを。
まだ、成長しきっていない人に【七囚人】の相手を任すという選択を。
手を額に当て、悔やむように歯を噛む。
「……大丈夫かい?ミラさん」
「う……大丈夫……でも、死んじゃうかと思った……」
「……すまない。完全に僕の責任だ……そういえば、ヤナギくんの姿が見えないのだけど……」
「近くを見たけど……いなかった」
イータの脳裏に、嫌な考えが浮かぶ。
直ぐにヤナギの捜索をする。
以外に、すぐに見つかった。
呼吸が止まり、全身の穴という穴から血を流し、色欲の頭を、抱き抱え、地面に力なく倒れ込んでいる状態で。
拳を全力で握る。
血が溢れ出すが、すぐに傷が治る。
「……僕は……」
自分を、恨んだ。
イータは藁にもすがる思いで、心臓の鼓動を確認する。
音は、しない。
イータは諦めず、心臓マッサージを行う。
人工呼吸をし、全力で、希望に縋る。
ドク……ドク……
心臓が、音を放ち始めた。
イータは素早く治療の準備を行う。
今あるポーションを全てかける。
傷を包帯で巻く。
そして、【不死の光】を使い続け、息を長く持たせる。
段々と心臓の音が強くなる。
呼吸の音も大きくなる。
あとは、祈ることしか出来なかった。
祈り虚しく、音は弱まる。
イータは頭を抱える。
なにか方法はないか、死なせない方法。
賭けに出た。
イータのMPは、太陽神により、普通のMPと違い、燃えるような形になっている。
それを、浄化しヤナギの身体に送る。
MPは人間にとってのエネルギー。
食事ができなくても、水分が無くても、MPさえあれば最低限生きていける。
失敗すれば、ヤナギの身体は燃えてなくなるだろう。
「……それでも……やるしか……!!!」
ヤナギの心臓に、右手を置く瞬間。
「それ、私がやりましょうか?」
イータの目の前に立つものは、どこかで見た事のある者。
「君は……確か……図書館の……」
「MPは適正の以外を送ると普通に拒否反応出て死ぬっすよ?私、適正闇なんで送れるっすよ?」
「なら!すぐにでも頼む!」
「はいはーい……じゃ、いくっすよ〜〜」
右腕に左手を添えて、ヤナギの心臓に右手を置く。
心臓に、司書はMPを送り出す。
絵の具の少ないものに、絵の具を貸すように。
どんどん、どんどんと。
そして、ヤナギのパレットはいっぱいになる。
心臓の鼓動は強くなり、呼吸も安定する。
「はい。完了っすよ」
「君は……本当にありがとう……!!でも、何故ここに……」
「え?まあいいじゃないっすか……こいつは唯一の客なんすよ。来なくなったら気分がほんのちょびっと……ホントとにちょっとっすよ?気分悪くなるで、送っただけっす」
「ふふっ……ありがとうね」
「いいっすよ。これをネタに、こいつを揺すってやるっすよ」
司書はニヤニヤと笑いながら、どこかに去っていく。
ヤナギの指は、静かに動いた。




