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ナルシスト

「くぅぅぅぅぅ!!!!!」


色欲の悶えるような声が大きく辺りに響く。

ヤナギの黄金に光る拳が、色欲に直撃し、どんどんと身体を削っている。


「そろそろ……くたばることだ!!!」


時空が、一瞬割れたように感じた。

拳は、地面へと突き刺さり、その下には色欲の姿はない。


「……これで……終わったのか……?」


レインは口から風の音を小さく出しながら、囁くようにヤナギに語りかける。

ヤナギは拳を地面に刺したまま、身体を動かさずに答える。


「ま、だ…だ。拳に……潰した……感触が……なかっ……た」


ヤナギの口内から、血が溢れ出す。

能力の反動を耐えながら答えたせいか、身体にガタが来ている。

レインが視線を横にやると、這いずりながら逃げ惑う色欲の姿が見える。


「色欲………メモー……タルゥゥウウ!!!!!」


レインが、激痛を抑え込みながら、激高し、色欲に対しての怒りをぶちまけるように、言葉を出す。


「私の……勝ち!!!」


色欲の下半身はないが、上半身は再生し続け、顔はもう元の姿に戻っている。


「寸前で、身体の上半身を横に動かして正解だったわ……こうして……生き残れた……!!」


這いずりながらも、液体を垂れ流しながらも、勝ち誇るように大きな声を出しながら前進し続ける。

その姿を、ヤナギ達は、見続けることしか出来なかった。

一人を、除いて。


「こんな所で……終われるか……!!」


レインは右手を色欲に伸ばしながら、前を塞ぐように防御魔法を展開する。

呼吸することも辛い状態での魔法の使用。

レインの身体は、もうボロボロになっていた。


「うざったい……わ、ね!」


色欲は拳を握り、一撃で防御魔法を破る。

色欲が這いずる姿を、見つめながら、ヤナギ達は悔しさで血を流し、目からは一筋の雫を流した。


すると、どこかから激しい戦闘する音が聞こえる。

剣と、なにか硬いものがぶつかる音。

その音は、どんどんと大きくなってくる。

音の方向を見ると、アルベドと黒い影のようなものが戦闘をしている。

その姿を見て、ミラは、希望を感じた。

唯一致命傷のないミラは、不得意な強化系以外の魔法を、残りのMPを絞り出し、杖から放つ。

小さな炎。

マッチでつけたと勘違いしそうなほどの炎。

それでも、アルベドにとっては充分だった。

状況を把握したアルベドは、地面に大剣を突き刺す。


「【氷結の槍(ブリザードランス)】」


氷柱が地面から、色欲に対して近づいていく。

氷柱が色欲のことを突き刺す。

液体を思い切り飛び散らせながらも、身体が凍えながらも、何とか生きている色欲。


「これが、今の俺にできる最大の手助けだ!!!そこからは、無責任だがお前達が何とかしてくれ!!!」


アルベドは戦闘を続ける。

いつ死ぬか分からない激闘の中、命を顧みずにこちらを助けるアルベドに、そこにいる者は敬意を払った。

だが、動けるものはいなかった。

氷で再生速度は極端に遅くなり、動けていないが、氷は刻一刻と溶け始める。


「誰……か……誰……か……」


ヤナギは薄れゆく意識の中で、小さくそう何度も呟く。

そして、ゆっくりと瞳を閉じる。


――……………う


心臓は、まだ、鼓動し続けている。


――……が……う


息は、小さくも鳴っている。


――…ちが……う


美は、まだ輝いている。


「……ちがう」


ヤナギは身体を、亡霊のようにゆっくりと起こす。

これは、ヤナギの意思なのか、それとも、無意識なのか。

それはどうでもよかった。

何であろうと、彼は立っている。


「誰かが……やるんじゃない……」


「俺が……俺がやるんだよ……」


能力の反動を無理やり押さえ込み、ヤナギは歩き出す。

目は虚ろで、今にでも倒れそうな歩き方。

それでも、一歩一歩と、色欲へと歩を進める。

凍える色欲の前に立つ。

色欲は、何も言わない。

言えない。

口が氷で塞がれ、言うことができない。

目には、恐怖のみが浮かんでいた。

ヤナギは拳を握り、黄金に光らせる。


――能力の使用は一日一度


それは、真実でもあり嘘でもある。

並の人間は、一度で倒れる。

二度目を使うものはいない。

代償は計り知れない。

直ぐに死ぬかもしれない。

一生身体が動かせないかもしれない。

ヤナギは、それでも、拳を握りしめる。

黄金を纏う拳を、ゆっくりと振り上げながら、ヤナギは言葉を喉から絞り出す。


「……ビューティフル……アタック……」


ヤナギの拳は、色欲を砕いた。

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