ナルシスト、怒りを露わにする
その声が聞こえた瞬間、ヤナギ達は言葉を失い、手に力を入れる。
声は、本当に小さな声だった。話していれば聞こえないほどの声。
最初の声を皮切りに、どんどんと声が聞こえてくる。
――苦しい
――痛い
――助けて
レインは、手のひらで耳を塞いでしまう。
額からには汗が滲み始め、息がどんどんと早くなる。
体温が高くなり、心臓の鼓動が早くなる。
頭の中には、人の声が木霊する。
地面には、落ちた汗で地面が濡れていた。
「落ち着け!!!」
ヤナギの声で、レインはハッとなり、息を整え始める。
「……クソ……!!」
「まだだ、まだ、違う可能性はある。色欲のやつが、俺達の精神を壊すために――」
「残念、その怪物ちゃんは、元人間よ」
二人は、声の方向を見る。
怪物に追いかけられていた人。
その人は、助けに向かったひとりの顔面を鷲掴みにしている。
「お前は……」
「あら?貴方は……確か一回姿を借りたわよね。もう死んだと思ってたわ」
「………色欲!!!!!」
「そんな熱烈に呼ばれたら、興奮しちゃうじゃない」
色欲は舌なめずりをしながら、姿を元の姿に変える。
細身な姿から、筋骨隆々な姿に戻り、その場に一気に緊張感が走る。
「なんか信じれないって表情してるわね……じゃあ、見せてあげるわ」
色欲は掴んでいる人に軽くキスをする。
その瞬間、その人の姿がぐちゃぐちゃとスライムのようになり、先程まで戦っていた怪物が小さくなったかのような姿になる。
「どう?これでも、信じない?レインちゃん?」
「……黙れ……なんであろうと、俺はお前を殺すだけだ」
レインは手に防御魔法を展開し、風で回転させる。
色欲はニヤケながら、指を鳴らす。
すると、後ろの怪物が大きな声で絶叫し始める。
声が聞こえる。
人の声。
先程の小さい声ではなく、大きな、悶える声。
男、女、子供、老人、関係なく、混ざっている。
そして、一瞬音が止んだ。
次の瞬間には、怪物を囲んでいた防御魔法は音も立てずに割れ、大爆発を起こす。
「……つくづく屑だな、お前は……!!」
ヤナギは静かに怒りを露わにする。
拳が震え始め、眉間にはシワがより始める。
「別にいいじゃない。みんな、最後に私が様々な形で“愛して”あげたんだから。……あっ、子供には刺激的なことはしてないわよ?」
「黙れ」
「人の命を弄ぶな。そして、一生愛を語るな」
「もう……つれないわね……でもいいのかしら?」
「なに?」
「だって……あの爆発で小型化した怪物が街中に広がったのよ?」
「……お前は、どこまでも……!!!」
「おい、ヤナギ、俺が言えることではないが落ち着け。一度他のものにもこのことを伝え、イータを呼び出さなければ」
「……そうだな……しかし、どうすれば」
ヤナギ達が頭を抱えていると、色欲はそれを待つように、顎に手を当てる。
すると、空に太陽が光をさしたかのように輝き始める。
「……遅いじゃないか」
イータは、ヤナギとレインに優しく微笑む。




