ナルシスト、家を出る
「ふぅ……」
家に帰ったあといつものようにセントーに行き、湯船に浸かっているヤナギ。
「この生活にも慣れてきたな……収入もブレはあるが生活出来るほどは稼げる……そろそろか」
元々、ゴリナの家には安定した収入を得られるまで。
もうその条件を達している。
「気をつけてな」
「ああ、いつも世話になってすまないな」
セントーの受付のおじいさんに普段通り挨拶を交わし、ゴリナの元に向かう。
身体は未だに湯の温かさを帯びており、冷たい風がより鮮明になる。
「……ということで、もう収入は安定してきた。そのため、ここをそろそろ出るつもりだ」
「……やっぱりか……なげぇようで短かったな。だいたい二週間だったか?まだ月も変わらねぇのによ」
「いつまでも迷惑をかける訳にも行かないからな。色々お世話になった」
「ちなみに、代わりの宿とかはあんのか?」
「パーティのメンバーが泊まっている宿に泊まるつもりだ。ハノかヨウとミラ、一応イータもか……誰のところかはわからんがな」
「すぐに仲良い奴らができてよかったな……大事にしろよ?」
「もちろん。それより、最後ぐらい俺に飯を作らせてくれ。この腕を最後に見せたいのだ」
「はは、イキがりやがって……いいぜ、そこに食材はまとめてある。右の方は調味料で、左には調理器具がある。作ってみな」
ヤナギは慣れた手つきで料理を始める。
元いた世界ではヤナギと母がローテーションで料理をしていたため、腕にはなかなか自信があった。
フライパンの上では卵が広がり、そこに色々な材料を入れている。
順調にできて気分がいいのか、鼻歌が聞こえてくる。そのリズムは、ゴリナには聞き馴染みのないリズムだったが、耳心地はよく、聴き入ってしまった。
「できたぞ。ヤナギ特製、オムレツだ」
「ほお、オムレツ。こいつは随分シンプルなものを選んだな」
「シンプルだからこそ、技量が重要なのだ。さあ、冷めないうちに頂こうじゃないか」
スプーンが卵を掬う。突っかかることもなくスルスルと滑るように中に入っていくスプーン。
中には肉と野菜が入っており、口に入れると絶妙な味わいがある。
素朴な材料と調味料。
だが、
「……美味いな」
「だろう?これは俺の得意料理なのでな。何回も練習を重ねているんだ」
「その努力がよくわかるよ。調味料の量、火の通り具合、完璧だな。料理人でも目指したらどうだ?」
「遠慮しておこう。料理は好きだが、趣味の範囲内に収めておきたいのでな」
「そうだな……今日が最後の日になる。酒でも交わしたいところだが、お前はまだ飲めないんだよな?」
「何歳で飲めるか分からないが……まあ飲めないだろうな」
「酒は十八からだ。誘われても飲むなよ?」
「両親からも言われたな。酒はどっちも強くなかったからな。俺も弱いだろうし、飲む気にはならん。それに、身体にも悪い」
「真面目なやつだな……もう寝な。ひとりで飲むことにするよ」
「ああ、明日にはもう出なければいけないしな。準備などもある。おやすみ」
「……ああ」
ヤナギは部屋で準備を終えたあと、素早くベッドで就寝する。
鏡を見ながら、明日の自分を思い浮かべながら。
小話
ヤナギが部屋に戻ったことを確認すると、酒を取り出し飲み始める。
棚に飾ってある二人を見つめながら、話しかけるように言葉を出す。
「俺の家に変なやつが来たんだ。自分のことが大好きで、自分磨きばっかしてる。そいつはちょっとここに泊まったら、すぐにどっか行っちまうらしい」
「……それでも、楽しかったよ。ここにいた時間は短かったが、それでも生活が豊かになった」
「……お前達も、いてくれたらな」
返事はない。
それでも、ゴリナは酒をもう一杯喉に流した。




