ナルシスト、水蒸気に包まれる
ヤナギは身動きの取れていない紫宝石蜥蜴に向かって走り始める。
ジタバタと動いているが、粘着力がかなり高く思うように動けていない。
「ははっ!自分の攻撃にやられる気分はどうだ!」
一斉に攻撃を仕掛ける。
比較的柔らかい脚を集中的に攻撃し、万が一抜け出されても何とかなるようにする。
パープルクリスタルリザードがまともに動かせる場所はシッポのみ。
ブンブンと振り回しているが、見て避けれる程の速さだ。かなり消耗しているようだ。
段々と辺りに、鮮明な赤色の液体が溢れてくる。
その元は、パープルクリスタルリザードの瞳だった。
「効いているようだ!このまま一気に行くぞ!」
「……ッ!お前さん待ちい!これはそうじゃ――」
瞬間、暴風が吹いた。いや、実際に風が吹いたわけではない。背中に着いている宝石が、目に見えないほどの速度で発射されたのだ。
パープルクリスタルリザードの姿を煙が包んでいる。
「は?」
全員の身体のどこかに、宝石が纏わりつく。
どんどんと、身体に根を張っていく。
「全員MPで塞ぎこめ!心臓か脳に来たら死ぬ!」
タティの声を聞いた瞬間、すぐさまMPを使い宝石の侵食を抑え込む。
何とか侵食は収まったが、張り付いたところは違和感があり、上手く動かせていなかった。
「一体これは……なんなんだ」
「……これはきっと」
煙が晴れたように見える。
だが、晴れてはいなかった。
この場は、排水路。水が多くあり、戦闘の余波により水蒸気となったのだろう。
どんどんと、水蒸気がパープルクリスタルリザードに吸い込まれていく。
「“適応”だ」
「適応?なぜ今になって……」
「こいつは、俺たちが来る前からここにいた。そして、パープルクリスタルリザードは元々、他の奴らと比べて環境に適応しやすい。しかも、あいつは前、前足を咥えて爪を直していた。元々前兆はあったんだ……」
姿が見えてきた。宝石を全て放ったパープルクリスタルリザード。
しかし、背中には先程よりも、大きく、鋭く、輝いている宝石が見える。
「水蒸気を、宝石に変える……ということか」
「……これは俺らだけじゃ手に負えない案件だ。お前さんら、ここらで一度――」
ヤナギ達のすることをわかっていると言わんばかりに、唯一の出入口に宝石を飛ばす。
完全に塞がれてしまい、文字通り逃げ場を無くす。
「クソ……クソ!!!」
「……終わりだ」
静かに怒りと絶望を露わにするタティとネフル。
ヤナギはそんな情けない姿を後ろから見つめる。溜息をつきながら、前に歩き出す。
「なんだ。そこまで絶望することか?戦うか、逃げるかの二択が、戦うの一択になっただけだ」
「勝ち筋が……見えないから絶望してんだよ……!」
「見えない?……ああ、すまないな」
ヤナギは拳に魔法を纏わせる。
闇魔法が拳を螺旋するように回っている。
その拳を、パープルクリスタルリザードに見せつけるように構える。
「俺が眩しすぎて、勝ち筋が見えなかったようだな」
ヤナギの目は、まだ光を帯びていた。




