ナルシスト、真剣勝負を始める
「……は?」
目の前にあった木は、激しい音を立てながら倒れている。
何度も何度も拳を見返す。
魔法を纏っていること以外は普通の拳。
「魔法というのはここまで……いや!おかしいだろ!」
「おかしくないよ。魔法は、ここまで強いものなんだ。普通の人でもこのくらい……は、出ないけど、木を削り取るぐらいの力は出せるよ」
「……頭が痛くなってきた……まあいい、とりあえず、他にも頼む」
「任せてくれ。次に君がやることは、“能力”の制御だね。毎回君は全力で能力を使っているようだけど、制御をすれば色欲のように何回も使えるようになるんじゃないかな?」
「ああ…いや、それはだな、やらなくてもいい。多分変わらん」
(別に制御自体はできるだろうが……一回しかどうせ使えないしな)
「?君がいいならいいんだけど……なら、魔法の練度を――」
「おい!!!!これは一体どう言う了見だ!!??」
突然怒号が広場に響く。
木を倒したことにお怒りの庭師かとビクビクしながら振り返ると、大人数の団体だった。
大声を出した者は先頭にいる男。銀色に輝く鎧をまとい、赤いマントをなびかせている。マントには、白色の虎が大きく書かれている。
赤髪に白色がメッシュされている髪で、肩に大剣をかけながらズカズカとこちらに歩き出している。
辺りの温度が、気にしていなくともわかるほどに下がり始めている。
「おや?アルベドくんじゃないか。どうしてここに?」
「どうしてここに……?それはこっちのセリフだイータ!突然広場を貸切にしやがって……元々俺が貸切にしてたんだぞ!?」
「……イータと対等に話している……一体?」
「紹介してなかったね。彼はアルベド・ロゼン、処刑人だよ。後ろにいる人達は……」
「俺の運営している組織、【白色の虎】のメンバー、今は俺が処刑人にさせるために育成してんだ。さっさとこの広場を返せ。今日は組織の訓練場がメンテの日なんだよ……ん?」
アルベドがヤナギのことをジロジロと見つめる。
「そいつは……はっ、とうとうお前も育成を始めたのか?最強様が。……めでたいことだな」
恨みったらしく言葉を続ける。大剣を握る手を強くし、更に辺りの温度が下がり始める。
大剣の刃先が、どんどんと白くなる。
「育成……そうだね、僕も始めたんだよ。彼には僕の右腕になって欲しいんだ」
「おい、そんなのは聞いていないぞ。処刑人になるのはいいが、右腕になる気は無い。それに、俺は世界中に俺の美しさを――」
「うるせぇ、俺は今、イータと話している。外野が口を開くな……で、譲るのか、譲らないのか、選べ」
「断らせてもらうよ。僕もヤナギくんを訓練させなきゃいけないんだ」
「……意固地になったお前はそう簡単には引き下がらねぇ…なら、対戦で決めようじゃねぇか。イータと、お前、俺と俺の仲間の、二対二の真剣勝負。本気でやろうじゃねぇか」
「……僕に、本気を出して欲しいのかい?」
冷凍庫にでもいるような温度だったが、一気に元の温度にもどる。
イータは確かに笑っているが、目の奥は笑っていない。
「そうだ。真剣勝負。この意味はわかるよな?本気の殺り合いだ。条件は、お互いのどちらかが死ぬか、降参を宣言するかだ。最強さんなら、この勝負に乗ってくれるよな?」
「受けようじゃないか。その勝負。君達が僕に勝てるなんて、思っていないからね」
「……ムカつく野郎だな。よし、お前来い」
アルベドは杖を持っている者を選択した。明らかに近接戦には向いていない選択、魔法による補助が目的だろう。
広場の中央に全員位置に着いた。
「全員準備は出来てそうだな……じゃ、この瓶を空中に投げる。これが割れたら試合開始だ」
瓶が空中を舞う。クルクルと縦に回転しながら、着実に地面に近づいている。瓶が地面にあたり、音を立てながら液体をばらまく。
「【氷結世界】」
辺りの草が凍り白色に変化する。瓶から零れた液体が凍りつき、波のような形で止まっている。
呼吸をする度に肺が苦しくなり、思わずヤナギは胸を抑えながらその場に座り込む。
アルベドは口角を大きく歪ませながら、大剣を構えている。
「さあ……始めようぜ?」




