ナルシスト、仕事を探す
「ふむ…やはりこの街は素晴らしいな。全員が笑顔で希望に満ちている…」
ヤナギは優雅に髪を指で流しながら、街を練り歩いていた。街はどこを歩いても美味しそうな匂いもするし、活気溢れており、どこにいても暖かい気分になれる。
「……しかし、困ったことになったな」
街角にあるベンチに腰掛けながら、ヤナギはなにかに悩んでいた。
「文字が全くわからん…その上、金がないから学ぶこともできん……仕方あるまい…」
覚悟を決めたように、ヤナギはベンチから立ち上がり思い切り腕を天高くあげ、空を指さしながら叫んだ。
「働こうじゃないか!」
「ママ…何あの人」
「コラ!見ちゃダメですよ!」
冷ややかな視線を浴びせられながらも、ヤナギは働こうと店を探した。街を歩いていると、時折話し声が聞こえてくる。なにやら不安げな様子だ。
「……最近【七囚人】の動きが活発になったよな。また近くの村から人がいなくなったらしいぞ」
「ああ、本当に恐ろしいよ。【処刑人】も最近は全然増えないし……イータさんが俺たちの頼みだよ」
処刑人と七囚人。聞き馴染みの無い言葉が耳に入る。だが、ヤナギはそこまで気にせず、自分に合う店に向かった。
「ふっ…俺が街を見てきた中でも最も俺の状況にあっているところは……ここだな」
ヤナギはとある店の前に立った。そこは、果物を売っている果物屋だった。自分の並べ方なら、売れると
確信していたからだ。
「すまない!ここで働きたい!」
思い切り大きな声で果物屋の店主の男に言い放った。周りにいる人達はびっくりした様子でヤナギのことを見ている。
「おいおい…デケェ声だすな。とりあえず、中入れ」
見かねた店主がヤナギを中へ招き入れた。中はよくある古民家のような内装だった。
「働きたいって言ってたよな?それなら丁度いい。人手不足でな。この老体で店ひとつ切り盛りするのは骨が折れちまう」
「ひとりであの量の果物を…?やはりその筋肉通りの力の持ち主のようで」
「大したこたぁねぇよ…とりあえず、そこの果実を店前に出してくれ。俺は表で客見とくからよ」
「了解しました」
「そんじゃ、頼むぞ」
そう言い、店主は店前に急いで走り出した。ヤナギは近くにあった箱を持ち上げる。中に入っている果実は、確かに見たことがある果実だが、どこか違うような気もする。ヤナギはそれらをどんどんと運んでいく。運んでいると、時折話し声が聞こえる。
「知ってるか?五人が洞窟で一気に全員死んじまったこと。多分、囚人の仕業だろうな」
「知ってるよ。しかも、ちぎられたあとみたいなのがあったんだろ?恐ろしいよ。無責任だけど、処刑人の人には頑張って欲しいな」
(また囚人に処刑人……)
しかしヤナギは手をとめずに、作業を続ける。
「運び終わりました。結構いい運動になりますね。汗をかきましたよ。……ふっ、汗も滴るいい男…」
「ありがとよ。じゃあ箱から取り出して店前に並べてくれ。終わったら中からまた箱を取り出して並べてくれ。今日は客足が多くてな、あんまりそっちに顔出す余裕がねぇんだ」
「了解です。安心してください。俺の並べ方なら売上が三割は上がるでしょう」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと並べてくれ」
ヤナギは自身の思う並べ方で果物を置いていった。その置き方は、アートとも言えるが、子供の悪ふざけとも言えた。
一時間ほど経った頃、店主はふと気づく。
普段よりも客が多い。しかも、立ち止まる時間が長い。
「……なんで」
「だから言ったでしょう。俺の並べ方なら売上が三割は上がると」
ヤナギは涼しい顔でそう言うと、店主は何も言い返さずに、ただ黙って客に向き直った。
「三割じゃ済まなそうだな」
その言葉は、ほとんど独り言だった。
お互いに自分の仕事を着実にこなしていき、だんだんと日が暮れ客足が減ってきた時、ふと店主がヤナギに声をかけた。
「そういや、名前はなんて言う?名前を聞かずに働かせちまったな」
「サナカ・ヤナギと言います。来月十七になります」
「ほーん…ここらじゃ聞かねぇ名前の感じだな。俺はゴリナ・ラロウって言うもんだ。なんで俺の店を選んだんだ?お前、別にここの常連って訳でもねぇのに」
「山勘ですよ。何となくこの店なら働けそうって思っただけです」
「ならお前は相当運がいいな。ビシバシ鍛えてやる」
「ありがたい限りです。ちなみに、この果実はなんという名前ですか?俺がいた国でよくこの果実に似た物がありまして」
リンゴのような果実を手に取りながら、ヤナギは質問した。
「それはゴリンつう果実だ。美味いぞ?食ってみろ」
「ゴリン……」
ゴリンに思い切りかぶりつく。それは、本当にリンゴを食べているようだった
(どうやら、名前などが違うだけで味などは変わってなさそうだな…)
ヤナギは安堵した。毎朝健康のために食べていたバナナが、この世界でも食べれることに。
「お前…違うとは思うが、もしかして学生か?」
「?ええ、そうですが…」
店主がなにかをやらかしたような顔をしながら、手を額に当てた。
「悪いが…学生は働かせれねぇ…この国は学生を働かせる罰がかなりでけぇんだ。しくったな…いつもならこんなミスしないのに。俺も歳だな…」
店主がため息をつきながら言った。
「まあ、学生は働かせられねえのがこの国の決まりだ。……悪いな」
「む……」
ヤナギが肩を落とした瞬間、店主がニヤリと笑った。なにやら、稼げる方法があるようだ。
「だが安心しろ。この国には裏ワザがある」
「裏ワザ?」
「この世界には【処刑人】ってのがいる。魔王が作った七人の囚人、通称【七囚人】を殺すための連中だ。学生だろうが何だろうが、処刑人を目指すって言えば仕事くれるぞ。最近は全然なるやつがいなくてよ、喜んで働かせてくれるぞ」
「……処刑人、か。さっき耳にしたが、やはり名前にセンスが感じられんな」
「名前なんてどうでもいいんだよ。とにかく中央のギルドに行ってみろ。お前が処刑人になってくれりゃ、俺はありがたい限りだ」
「?なぜありがたい……まあいい、それが裏ワザか。感謝します」
「まあ職を失わせたのは俺な訳だしな…とりあえず、安定した収入が得られるまでは、俺の家泊まってもいいぞ。その代わり、毎朝箱を店前に運べよ?並ぶのは……まあやりたきゃやれ」
「その程度のこと、このヤナギにとっては造作もありませんよ…」
ヤナギは職を得るため、そして、囚人を倒すための目的、【処刑人】を目指し、心の火を燃やしていた。
風呂を借り、部屋に戻ったヤナギはそのままベッドに倒れ込んだ。ベッドに寝転がりながら、天井を見つめている。
「一気に情報が増えたな。七囚人……七人の囚人。魔王が作ったと言っていたが、何故囚人なんだ?罪人を集めたのか?」
「考えても仕方ない。……安心しろ七囚人。お前たちは、この美しき俺が終わらせる」
手鏡を使い寝る前のチェックをする。すると、窓から鏡に【何か】が映りこんだ。
「ん?なんだ?」
ヤナギは窓を開け外を見つめる。だが、そこには誰もいない。
「……気のせいか」
そう呟き、再び鏡を見る。
月明かりだけが差し込む部屋、自分の顔だけが映っているはずの鏡。
だが確かに、鏡の端に赤い光が揺れた。じっと見つめても、もう何も無い。
そして、ほんの一瞬。自分の顔が何者かに変化した。
瞬きすれば、元の自分に戻っていた。
――気のせいだ
ヤナギはそう結論づけ、布団へ潜り込んだ。手鏡を胸の上に置いたまま、目を閉じた。
月は静かに街を照らしていた。




