ナルシスト、仕事を探す
「ふむ…やはりこの街は素晴らしいな。全員が笑顔で希望に満ちている…」
ヤナギは優雅に髪を指で流しながら、街を練り歩いていた。街はどこを歩いても美味しそうな匂いもするし、活気溢れており、どこにいても暖かい気分になれる。
「……しかし、困ったことになったな」
街角にあるベンチに腰掛けながら、ヤナギはなにかに悩んでいた。
「文字が全くわからん…その上、金がないから学ぶこともできん……仕方あるまい…」
覚悟を決めたように、ヤナギはベンチから立ち上がり思い切り腕を天高くあげ、空を指さしながら叫んだ。
「働こうじゃないか!」
「ママ…何あの人」
「コラ!見ちゃダメですよ!」
冷ややかな視線を浴びせられながらも、ヤナギは働こうと店を探した。
「ふっ…俺が街を見てきた中でも最も俺の状況にあっているところは……ここだな」
ヤナギはとある店の前に立った。そこは、果物を売っている果物屋だった。
「すまない!ここで働きたい!」
思い切り大きな声で果物屋の店主の男に言い放った。周りにいる人達はびっくりした様子でヤナギのことを見ている。
「おいおい…デケェ声だすな。とりあえず、中入れ」
見かねた店主がヤナギを中へ招き入れた。中はよくある古民家のような内装だった。
「働きたいって言ってたよな?それなら丁度いい。人手不足でな。この老体で店ひとつ切り盛りするのは骨が折れるちまう」
「ひとりであの量の果物を…?やはりその筋肉通りの力の持ち主のようで」
「大したこたぁねぇよ…とりあえず、そこの果実を店前に出してくれ。俺は表で客見とくからよ」
「了解しました」
「オヤジ!この果実欲しいんだけど……」
「あいよ!」
店主は店前に急いで走り出した。ヤナギは近くにあった箱を持ち上げる。中に入っている果実は、確かに見たことがある果実だが、どこか違うような気もする。
一つずつ着実に前に運ぶヤナギ。そこまでの重さではないのだが、量が量のためかなり身体に負担がかかる。
「運び終わりました。結構いい運動になりますね。汗をかきましたよ。……ふっ、汗も滴るいい男…」
「ありがとよ。じゃあ箱から取り出して店前に並べてくれ。終わったら中からまた箱を取り出して並べてくれ。今日は客足が多くてな、あんまりそっちに顔出す余裕がねぇんだ」
「了解です」
「オヤジ、今日も美味そうな果実だな。じゃあこれとこれを……」
ヤナギの戯言を華麗にスルーしながら店主は指示を出した。お互いに自分の仕事を着実にこなしていき、段々と日が暮れ客足が減ってきた時、ふと店主がヤナギに声をかけた。
「結構客も減ってきたな…そういや、名前はなんて言う?名前を聞かずに働かせちまったな」
「サナカ・ヤナギと言います。来月十七になります」
「ほーん…ここらじゃ聞かねぇ名前の感じだな。俺はゴリナ・ラロウって言うもんだ。なんで俺の店を選んだんだ?お前、別にここの常連って訳でもねぇのに」
「山勘ですよ。何となくこの店なら働けそうって思っただけです」
「ならお前は相当運がいいな。ビシバシ鍛えてやる。あの箱、俺が若い頃は全然持てなくてよ。お前、結構筋がいいぜ?」
「ありがたい限りです。ちなみに、この果実はなんという名前ですか?俺がいた国でよくこの果実に似た物がありまして」
リンゴのような果実を手に取りながら、ヤナギ質問した。
「それはゴリンつう果実だ。美味いぞ?食ってみろ」
「ゴリン……」
ゴリンに思い切りかぶりつき、皮と中身ごと食べた。それは、本当にリンゴを食べているようだった。
(どうやら、名前などが違うだけで味などは変わってなさそうだな…)
ヤナギは安堵した。毎朝健康のために食べていたバナナが、この世界でも食べれることに。
「お前…違うとは思うが、もしかして学生か?」
「?ええ、そうですが…」
店主がなにかをやらかしたような顔をしながら、手を額に当てた。
「悪いが…学生は働かせれねぇ…この国は学生を働かせる罰がかなりでけぇんだ。しくったな…いつもならこんなミスしないのに。俺も歳だな…」
店主がため息をつきながら言った。
「まあ、学生は働かせられねえのがこの国の決まりだ。……悪いな」
「む……」
ヤナギが肩を落とした瞬間、店主がニヤリと笑った。
「だが安心しろ。この国には裏ワザがある」
「裏ワザ?」
「この世界には【処刑人】ってのがいる。魔王が作った七人の囚人を殺すための連中だ。学生だろうが何だろうが、処刑人を目指すって言えば仕事くれるぞ」
「……処刑人、か。名前にセンスが感じられんな」
「名前なんてどうでもいいんだよ。とにかく中央のギルドに行ってみろ」
「なるほど……それが裏ワザか…感謝する」
「まあ職を失わせたのは俺な訳だしな…とりあえず、安定した収入が得れるまでは、俺の家泊まってもいいぞ。その代わり、毎朝箱を店前に運べよ?」
「その程度のこと、このヤナギにとっては造作もありませんよ…」
ヤナギは職を得るため、そして、囚人を倒すための目的、【処刑人】を目指し、心の火を燃やしていた。
「そこが洗面所で、奥に風呂場がある。ここがトイレで…ここがお前の部屋だ」
「ここが俺の部屋…」
ヤナギはゴリナから部屋の説明などを受けていた。
風呂に入り部屋で眠る準備をしているヤナギ。だが、なにか考えている様子だ。
「…一気に情報が増えたな。七囚人…七と言うのだから、七人いるんだろうな。魔王が作ったと言っていた…」
「考えてもした方ない。もう眠るとしようか…」
手鏡を使い寝る前のチェックをした後、ヤナギは深い眠りに落ちた。




