ナルシスト、国に行く
「ぐわぁ!!」
ワープホールからぶっ飛ばされ、思いっきり地面に打ち付けられた柳。
「…打ち付けられてもカッコイイ俺……」
手鏡を確認しながら、そんな戯言を言っている。立ち上がり周りを確認すると、広大な草原の真ん中に巨大な壁がある。
「……とりあえずあそこを目的にして向かうか。この道中すら俺は試練として受け入れよう……!」
歩き出し、キョロキョロと周りを見ていると、本当に異世界に来たことがわかる。
空を飛んでいる巨大な怪鳥。
人の背丈ほどの牛。
殴りあっている二メートル越えのカンガルー。
柳は歩きながら、異世界でのやるべきことを考えた。
「女神のやつは、魔王を討伐すれば良いと言ったな……ならば、目標は魔王討伐……そして!!」
柳は天高く腕を上げ、空を指さす。
「俺の美貌を……全人類に伝えることだ!!!!」
冷たい風が、柳の頬を撫でる。
壁は思っていた以上に遠かった。しばらく歩き、森の中に入ったとき。
「キュン?」
小さな鳥のような動物が柳の目の前を飛んでいる。小さい羽を器用に羽ばたかせ、小さい命を一生懸命燃やしているのがわかる。
「……ふっ。やはり動物は見てて癒されるな」
すると、突然鳥の頭が四つに割れた。
中から触手のようなものが伸びており、先端には返しのついている鋭い棘がある。刺さったら抜くのは難しいだろう。
「前言撤回!見てて不愉快!!!」
拳を握り、全力で振り抜くが、鳥は上へと羽ばたき、攻撃の当たらない絶妙な位置で羽を広げている。
鳥は触手を伸ばしてくる。ヤナギは頭に当たる直前に何とか避けたが、少し頬を掠めた。
「俺の顔を汚しよって!許さん……!」
次々と触手が迫ってくる。
舌打ちしながらも、周囲を見渡す。そのとき、鼻をつんざくミントのような匂いに気づく。その匂いに反応した鳥は、少し嫌そうに匂いを避ける。
――これだ
匂いの元は、近くにある花だった。素早く握りつぶし、粉状にして投げつける。鳥が怯んだ一瞬、枝を踏み台に、鳥よりも高い位置へ上がる。そのまま、踵を思い切り叩き込んだ。
鳥は地面に激突し、動かなくなった。
「筋トレの効果を、まさかこのような形で――」
余韻に浸る間もなく、辺りに叫び声が響く。
「ゲルグァアア!!」
空から巨大な影が降りてくる。顔が四つに割れており、触手が三本生えている。あの小鳥の親鳥だ。
――能力を発動する
一瞬考えが浮かぶが、すぐに考え直す。正体不明の代償の存在、もしもここで動けなくなるなどの場合、命の保証はない。
だが、前方には門が見える。人が二人立っている。
柳は走り出した。全力で、振り返らずに。
怪鳥は子の恨みを晴らすかのように、わざとヤナギの身体を掠めるように触手を伸ばす。
だが、門のすぐそこまで来ることができた。
「そこの人!俺を回収してくれ!!」
叫びながら、振り返る。そのまま力いっぱいに拳を握る。今度は、迷いはなかった。
黄金に光る拳。風がその拳を中心に渦巻いている。
――これが、女神から与えられた俺だけの力
怪鳥は怯まずにどんどんと詰めてくる。そして、柳の間合いに入った。
「喰らえ……ビューティフルアタック!!」
黄金に光る拳が炸裂する。突風が当たりを包む。怪鳥の腹には風穴が空き、緑の液体がどろりと溢れ出た。
空気が一瞬歪み、地面が大きく削り取られ、大きな痕ができた。
「俺の……勝ち……だ」
薄れる意識の中、兵士たちが慌てている声が聞こえた。柳はそのまま意識を手放し、草原に倒れた。
「起きろ!坊主!いつまで寝てんだ!」
声と同時に目を覚ます。目の前には先程の兵士の内の一人が立っている。
「急にバケモン連れてきたかと思ったら、そいつ倒した後にぶっ倒れやがって……怪しすぎんだろ。あと、治療はしといてやったぞ。傷だらけだったしな」
「すまない、ありがたい。俺は佐中柳という」
「ああ、そういうのいい。もう身分証ないの確認してあるから。ほら、これお前の」
「こういうものは勝手に作るな……」
「うるせぇ、俺は仕事をしたまでだ。……お前やっぱ変わってんな」
「?何がだ。俺の美しさか?助けられた恩に教えてやろう。本物の美はまず努力することから――」
「そういうのいいから。……お前、自分のこと大好きなくせして努力してんだな」
「当然だろう?」
ヤナギは髪をかきあげる。
腕は怪我で痛みが走っているだろうに、それを意に返さずに髪を整えている。
「努力もせずに自分を好きなど、それはただの怠慢だ。何も積み上げていない者と同じにされるというのは、不愉快だ。積み上げたからこその、今の俺だ」
「……そういう美学持ってるやつって痛々しいよな……ほら行った行った。そこのドアからこの国入れる。俺の善意に感謝しろよ?……この恩を忘れるなよ?」
「本当に感謝する。渡せる現物はないが…俺のこの美しい顔がプレゼントだ」
「要らねぇよ…そこまでてめぇはカッコよかねぇ…早く出てけ。あと、手洗えよ?スースーしてる」
そんな言い合いをしながら、ドアを開けるとそこには活気に溢れた街が広がっていた。
無邪気な子供たちが走り回り、どこの店にも沢山の商品が置かれている。街全体から、喋り声が聞こえてくる。
「ふっ…ここから俺の物語が始まる…!俺が来てしまったから、この国の顔面偏差値が上がってしまったな…!」
自信満々にそう言い放ちながら、ヤナギは期待に胸を膨らませながら、第二の人生が本格的に幕を開けた。
ある者は、城から街を見下ろしていた。
その目には、冒険から帰ってきたものが映っていた。
「……僕も……あんなふうに……」
外を見ながら、その者は目を輝かせ、首元のマフラーを握りしめた。
空が黒に染まる夜。
「……食いごたえがありませんね」
洞窟の最奥、とある男が静かに座っていた。
その足元には、動かなくなった人間がいくつも転がっている。その人間は、原型を留めていないものもある。
男の口元には赤黒い跡が残っている。それらを舌で全て舐めとるが、男は満たされていない様子だ。
「ワタクシのこの空腹を満たせるものは、どこにあるのでしょうか」
ぽつりと呟き、空の見えない天井へと手を伸ばす。
「今日は、星が綺麗でしょうね」
舌舐りをしながら、男は呟く。
まるで、空を食卓として見ているように。
小話
「……おい、さっきの奴はどうだった?危険なやつだったか?」
「変わった奴ではあったが…まあ悪い奴ではねぇだろうな」
「変わった奴って?」
「……すげぇ能力を持ってたよ」
「それは当然だろう。あの怪鳥を一撃だからな…まさか、他にもか!?」
「ああ…恥を感じられない能力だ…世界でも上位級の能力だろ?」
兵士は小馬鹿にしながら言う。




