ナルシスト、ギルドに向かう
「……ろ。…きろ!起きろ!朝だぞ!」
目を覚ますと、ヤナギの前には果物屋の店主、ゴリナがいた。
「俺としたことが…寝すぎてしまった……」
(やはり異世界に来たのが影響しているのか?)
「待ってください、身なりを整えてから向かう。今の俺は完璧ではないので」
「なんでもいいが、さっさと来な。飯が冷めちまう」
「そのお気遣い、感謝する」
ゴリナが部屋から出ていき、ヤナギは優雅に、素早く準備を始めた。手鏡で寝癖を確認し、満足そうに頷く。
「よし、今日も完璧だ」
いつものようにポーズを決め、ゴリナの待つ部屋へ向かう。扉を開けると、コンガリとしたいい匂いが漂ってきた。
「おせぇよ。飯が冷めちまうぞ」
机の上には焼きたてのパンと、数種類のジャムが並んでいた。
ヤナギは一口かじると、目を輝かせた。
「すまない……ゴリナさん、なんだか疲れているように見える。身体的にも、精神的にも」
「……わけぇやつがそんなこと気にするな。早く食べな」
ゴリナは無理やり笑顔を作り出し、ヤナギを椅子に座らせる。
「これは……!外はカリカリ、中はふわふわ……ジャムのフルーツの風味が最高だ!」
「だろう?俺のお気に入りだ。ほら、遠慮なく食え」
二人は仲良く朝食を済ませた。ゴリナはふと、遠くを見つめながらぽつりと零した。
「……こうやって誰かと食卓を囲むのなんて、久しぶりだな……十年ぐらい前か」
「どうしたんだ?そんなに遠くを見つめて…」
「いや……こうやって人と食卓を囲んだのなんか、何時ぶりだろうってな…」
「今はいないのか?」
「今はいない。だが、昔はいた。確かに、そこにな」
「それは一体?」
「俺には妻と息子が居た……息子は生意気でな…でも、可愛かったよ。妻は、世界で一番美しかった。俺の中の太陽のような存在だった」
「一番美しかった……まあ俺は総合一位を狙っているのでな、個人全員の一位でなくても良い。それに、そう思うほど、大切な存在だったんだな」
「ああ、あいつが来るまではな……」
「あいつ?」
「……七囚人の一人、【暴食の罪】名前は【星を喰らう者】だっか……昔、あいつがこの国に来たんだ。そして、全てを喰らっていった。物も、人間も、無差別に」
「だが今、この街はまだ活気に溢れている」
「今は、な。あいつが来て、数年は地獄だったよ。皆家族を、大切な人を失った。全員心が荒んで、犯罪なんか日常だった」
「昨日まで元気だったやつは、次の日は死体になってたよ」
ゴリナは棚の上に置かれている二人の描かれた紙をみながら、虚ろな目をしながら、震えた手でジャムを持つ。
「……良くない話をさせたな。すまなかった。皿、俺が運んでおこう」
「気にしちゃいねぇよ…こうして話せて少し楽になった。ありがとよ」
「俺は何もしてない。辛くても会って間もない俺に、こうやって話してくれて嬉しい」
「………そりゃ、良かった」
ゴリナはスッキリした顔をしていた。その顔を見て、沈んでいたヤナギの気分は少し上がった。
「俺は、俺を見た人を幸せにしないと気が済まないのでな…!では、そろそろ出るとしよう」
「このまま左の道に沿っていけば、ギルドに着く。気をつけていけよ」
「ご気遣い、感謝する。では、行ってきます」
「おう」
果物屋を出て、道なりに進む。
街はキラキラと輝いて見える。
肉を焼く匂い、美味しそうなパンの匂い。
魅力的な陶器。
思わず店に立ち寄りたくなるような、そんないい街。
――そんな街を一度壊した暴食。
「……不愉快だな」
ヤナギの中の正義心が、静かに、しかし熱く燃えていた。
歩いて数分、どうやらギルドらしきところに着いた。
「……ここがギルド。思ってたよりも綺麗な外装だな」
もっと古びた外装を覚悟していたが、思っていたよりも綺麗な外装だった。建物自体もかなりの大きさで、存在感を表していた。
「さて、俺の伝説が今!始まる!……と、その前に……ふむ、完璧だな」
ヤナギは扉に手をかける前に、手鏡でいつものように髪を整える。
手鏡を握る手は、確かな信念を持っていた。
小話
「……ゴリナさん。最近の売上どうでした?」
隣の店の商人が声をかけてきた。ゴリナは帳簿から目を離さないまま答えた。
「……四割増しだ」
「え?何かやったんですか?」
「……変な金髪が並べ方を変えた」
「それだけで?」
「それだけで」
しばらく沈黙が続いた。
「雇いましたか?」
「雇えなかった。学生だからな」
「ああ、勿体ないですね」
ゴリナは帳簿を閉じ、ぽつりと言った。
「まあ、毎朝箱を運んでもらうことにした。そんときに、たまたま気分が乗って並べてくれるかもな」
どこにでも、抜け道というものはあるものだ。




