ナルシスト、街の探索をする
「街は平和そのものだな……」
パーティの予定が合わず、休暇を五日も手に入れたヤナギ。ヤナギは朝の散歩ついでにもう一度街を見回していた。
「明日はイータとの訓練。それまで、力を蓄えないとな」
適当に街を闊歩している。特に店に寄る訳でもなく、ただただ歩いている。街は元いた日本とは違う風景で見る度に新鮮な気持ちになれる。
「俺の美貌には遠く及ばないが、風景を見るのもいいものだ。そろそろ時間だな」
そろそろ図書館が開く時間。ヤナギはこの世界の文字を読めずに苦戦していたため、図書館によく通っている。紙を雑貨店で買い図書館に向かう。
「少し早かったか。まだ門が開いていない」
暇になったヤナギは手鏡で身なりを整えている。すると、図書館から人が出てきた。
「お?珍しいっすね。こんな早くに人がいるなんて……ってあんた、前入っちゃいけない部屋入った客じゃないっすか」
「ん?態度の悪い司書じゃないか。早く門開けてくれ」
「え〜そんなこと言われたら開ける気なくなっちゃうすよ?」
司書はニヤニヤしながら見つめてくる。ヤナギは負けじと司書のことを見つめる。
お互い、無言の時間が始まる。何故か見つめあっているふたり。司書は大きなため息を吐いたあと、門を開いた。
「そんな見つめんなっすよ。気持ち悪いっす。……そんな怖い顔しないで。冗談、冗談っすよ」
「安心しろ、俺はそこまで心は狭くない」
ヤナギは図書館に向かって歩き出す。司書はその後を追うように走り出していく。
中に入ったヤナギは、前と同じ本を取り出し、勉強を始める。司書は中央の席で本を読み漁っている。
だいたい二時間ほど経った時、ヤナギは流石に疲れたのか休憩をしている。なんとなく周りを見渡すと、人はヤナギと司書以外誰もいなかった。気になったヤナギは司書の元へ向かう。
「質問していいか?この図書館は人が来ないのか?」
「え?まあちょうど読み終わったんで答えてやるっす。図書館になんか、もの好き以外は来ないっすよ。みんな本は本屋で買うっす。元々国が保管してた本を置く場所を変えただけなんで」
「なるほどな……俺がもの好きとでも?」
「違うんすか?同類かと思ってたんすけど」
「俺は別に本が好きな訳では無い。字の勉強をしに来ている。金がない俺にはピッタリな場所だ」
「え?その歳で文字も読めないんすか?」
司書はヤナギを挑発するように笑みを浮かべながら言う。ヤナギは少しムカつきながらも、平静を装いながら言い返す。
「俺はこの国出身じゃない。別の言語の国から来た。まだここに来て数週間なんだ、仕方ないだろう」
「ふ〜ん?まあせいぜい頑張ってください」
司書は本を手に取り読み始める。ヤナギも席に戻り続きを始める。
だが上手く集中できなかったヤナギは、本棚から適当に本を取り出し読み始める。
「ふむ……ほう………なるほどな………」
「全くわからん……クソ!少しは読めると期待した俺が馬鹿だった!」
ヤナギは確かに学習をし、字を読めるようにはなったが、それは生活でギリギリ使える程度。諦めて勉強に戻ろうとすると、見慣れた文字を発見する。
「日本語……まさかここで見つけられるとは!」
数週間ぶりに見る母国の文字。
ヤナギの口元が、僅かに緩む。
「これは……【俺の異世界での生活】」
それは、日本語で書かれている本だった。開けてみると、書かれている文字は全て日本語。読んでみると、それは日記のようだった。
中にはモンスター討伐の記録や、日常の出来事が淡々と綴られていた。
「……書いているやつはつまらんやつだな。全く面白みがない。残念だ」
特に面白くなかったため、すぐに本を戻す。だが、自身の他にも転生者がいることが確定した。これはヤナギにとって、大きな進歩となった。
気持ちを切り替え学習に望むヤナギ。新しい情報を手に入れたため、より集中することができた。
日が明るい時間から勉強を始めたヤナギ、窓から外を見てみると、もう暗くなり始めていた。
「時間だな。なかなか集中できたな。やり始めると勉強も楽しいものだな。俺の美貌は……変わらずに美しいな」
ヤナギは本を持ち、そのまま本棚に向かう。すると、後ろから声がする。
「客、本はこっちに持ってきてくださいっす」
「俺にはヤナギという美しい名前があるんだ。客ではなくヤナギと呼べ」
「名前なんか覚えねぇすよ。はい、本返して」
ヤナギは本を司書に渡す。ヤナギは何故本を返させないのか疑問に思い、司書に質問する。
「なぜ客に返させない?そんなに信用がないか?」
「ないっすよ。客に任せると変な位置に返すんすよ。だから、私が戻すようにしてるんすよ」
「ほう。まあなんでもいい。またな」
「え〜?また来るんすか?」
「学習し終えるまで通うぞ」
「きめぇ〜〜」
ヤナギは嫌がられながらも、そのまま帰った。ヤナギは真っ直ぐ帰るのではなく、夜の街を見ながら帰るようにした。
夜の街は昼とは違う顔を見せる。月の光が静かに、しかし綺麗に街を照らしている。店の灯りが宝石のように見える。
「今日の月は、ちょうど半月か」
半分に欠けている月を見つめながら、ヤナギは小さく呟いた。
「……兄ちゃん、今暇?」
後ろから話しかけられたヤナギ。振り返ると、いかにもな奴らが三人組が居る。手には短剣を持っており、こちらを脅すように向けてくる。
「これはいわゆる……カツアゲか?」
小話
「あの客、なんだっけ、ヤナギか。あいつまじで毎日来んのかな〜」
司書は図書館の閉じながら、独り言を言う。
「いやだな〜。せっかくのひとりでゆったりできる場所が〜」
司書はひとりで悲しみさに包まれている。
「……出禁にする…だめか、流石に」




