ナルシスト、尋問される
小部屋に入った瞬間、ヤナギは嫌な予感しかしなかった。
「……は?」
ヤナギは理解することができなかった。【色欲の罪】ということは七囚人の一人なのだろうが、どういう能力や見た目なのかも全く知らない。
「待て待て、落ち着け。一体何を根拠にそんなことを…」
すると、机の上に五枚ほどの紙が置かれた。
「これは僕が集めた証拠だ」
「お前は…」
「昨日ぶりだね、ヤナギくん」
扉から現れ、紙を渡してきた者は【処刑人】【イータ】。昨日洞窟で【暴食の罪】から助けてくれた男だ。
「その紙に書かれていることを簡単にまとめると、まだこの国に来て数日なのに、熟練者も苦戦するウサギ親方と怪鳥を簡単に倒していた」
「…運が良かっただけだ」
「他にも、色欲は七囚人の中でも目撃されやすいんだけど、君がこの街に来るのとほぼ同じ時期に息を潜めているんだ」
イータの疑いの目は弱まらず、どんどんと強くなっていく。
「それだけでは片付けられないんだよ。それに、その異常とも言える自己愛も」
「自分に自信があるのは良いことだろう?当然の権利と言えよう」
イータは淡々と証拠を提示していく。
「…色欲の罪、メモータルは姿形、そして声や筋力などを自由に変化させる。そしてもうひとつ、君を疑う決定的な理由がある」
イータは懐から、ヤナギとウサギ親方が戦いっている所を道具で切り取った記録紙を取り出す。
「君の拳が、黄金に光っているね?この能力は、メモータルの第二の能力に酷似している。…逃げようがないぞ。ヤナギ…」
「…落ち着け、俺は色欲ではない。決めるにしても早計すぎるだろ?…そうだ!この国に来る時、身分証を作る時に使った道具、それを使って嘘か本当か確かめてみてはどうだ」
イータはそう言われると思っていたのか、部屋の傍からその道具を取り出した。
「君の言う通り、この道具を使えば一発でわかるだろうね。でも、色欲は身体を自由に作り変えれる。それなら脳を一時的に変え、本当に色欲じゃないと思うことも出来るかもしれないだろ?」
「しかし、出来ないかもしれないだろう?」
「その通り、まあやらない事には始まらないんだ。手を置いてくれて」
ヤナギは言われた通りに道具の上に手を乗せる。
「では、質問だ」
部屋に緊張感が漂う。気のせいかもしれないが、部屋の気温も下がり、ジメジメしているように感じる。
「…君は脳みそを弄り、変化させれるか?即答しろ」
「は!?で、できない!」
機械はなんの反応もせずにいた。
「電流は流れない…と。これで君が色欲でも、脳みそまでは弄れないとわかったわけだ」
ヤナギは予想していた質問と違う質問で、心臓が爆発しそうになる。そして、イータは予想していたよりも性格が悪いとわかった。
「じゃあ次の質問。これが本命だ」
「…来るがいい」
ヤナギは態度を崩さないが、首筋には汗が流れていた。
「君は色欲か?または色欲と関係がある者か?」
「…違う」
「…………」
部屋は沈黙で埋まる。道具は何も言わず、そこにあった。すると、部屋に張り詰めていた空気がなくなり、冷たいと感じた空気も暖かくなってきた。
「…悪かったね。僕も処刑人として、これくらいはしないといけないんだ。許して欲しい。ヤナギくん」
「安心しろ。この程度で恨むほど俺は小さい男では無い。……ふぅ」
ヤナギは安心したのか、手鏡を取り出し身なりを整えいつもの調子が出てくる。
「それで、もう行ってもいいか?」
「うーん…」
イータはバツが悪そうに考えている。
「そうしたいんだけど……まだ完全に晴れた訳じゃないんだ。あの短い間で脳を変化させた可能性もあるし、目撃情報はあるとはいえ、色欲の情報は少ないんだ。あと、君ほどの怪しい人物を放ったらかしにする訳にも行かないし。だから――」
イータはヤナギに近づき、目の前にたった。
「これから一ヶ月の間、僕は君に同行する。一日中ね」
「……俺の美貌の秘訣が知りたいのか?」
小話
二人の尋問のやり取りを見つめながら、部屋の隅で元々の尋問官は肩を落としていた。
(……俺、この部屋に連れてきただけだったな)
冷めかけた紅茶を時々啜りながら、そんなことを考えていた。




